荒野天変・前編
彼女の持論はこうだ。
「大衆の流れに淘汰されるのも悪くないかもしれない。だが、それでは新鮮味に欠けるだろう?」
誰が何と言おうが関係ない。
彼女は自分を貫きたくて反信する者に所属している。
「僕が有名人? 悪い意味で?」
「そうだよ? アルト=ランドレット、君はね……不吉の象徴なんだよ。あたしたちの間ではね」
「不吉の……象徴……?」
セリエラさんたちの間ってことは、反信する者の間ってこと?
「いやいやまずそれ以前に、なんでシドンサイドのはずれに住んでいた僕の名前が第三者にまで広まっているの? 不吉っていったいどういうこと!?」
「わかったからそんなに捲し立てんな!」
セリエラさんはやれやれといった態度でふう、と一息ついた。
「一つずつ説明してあげよう。まずあたしがあなたの名前を知っていた理由からね」
「うん……」
ザメイルといい反信する者といい、おそらくただ事じゃないんだろう。
「あたしが個人的に気になっていたから」
え? 今なんて?
「え? 今なんて?」
いかんいかん、思ったことをそのまま口に出してしまった。
「君の写真を見たときにタイプかもって思って気になってぇ……」
男勝りはどこに行ったのかセリエラさんは急にモジモジしだした。
「えーっとそれって……」
「わかってるよ!それがどういうことを意味してるのかも君がどう思ってるのかも!!」
セリエラさんは顔を真っ赤にして通路の天上を仰ぎながら叫んだ。
「あたしがストーカーの変態だってことぐらい君に言われなくてもわかってるからっ!!!!」
「(えーーーー!!)」
「うぅぅ~恥ずかしい~~//」
「(えーーーーーーっ!!!)」
唖然だ。まさかセリエラさんにこんな側面があったなんて……。
僕はてっきり、
「僕はてっきりセリエラさんが僕のことを好きなのかなと思いましたよ」
にっこり。
「んなワケあるかアホーーーッ!!!!」
っ! 右ストレート!? 避けれ――
「ガッハァ!!」
僕の体は宙できれいな弧を描き吹っ飛んだ。
☆
ふと目覚める。
どうやらさっきのパンチで気を失っていたのか……。
「ってこんなことしてる暇ないんだって! マリナが……マリナが危ないんだよ!!」
「マリナ? つーかここにいる以上安全なことろなんてないんだろうけど」
早く助けに行かないと……!
いてもたってもいられず走り出した。
「ちょっ、あたしも行くって!」
「セリエラさんは無理して付いてこなくてもいいんだよ?」
「そんなことない――」
「っ!?」
マリナがスピードを上げて僕を追い越したと思ったら急に目の前に現れた戦略部隊の男を一撃で打ち取った。
セリエラさんが驚き立ち止まった僕に笑いかける。
「ね? これでも無理してついていくように見える?」
……すごい。
僕はこの敵を感知することができなかった。それを彼女は一瞬のうちに倒してしまった。
洞察力なんてレベルじゃない……彼女には未来予知の力でもあるのか?
「ありがとう。セリエラさんがいなかったらどうなってたことやら……」
「ということはあたしも君について行ってもいいってことだよね?」
まあそうだよね。ここはザメイルの本拠地みたいなものなんだから見方は一人でも多いほうがいい。
「仕方ないけど、よろしく。セリエラさん」
握手の為に手を伸ばす。
「セラでいいよ。アルト!」
セリエラさん、いや……セラは僕の手を強く握り返した。
☆
「ついた……ここに、いるはずだよ」
肩で息をしながら、マリナとザメイルのいる部屋の扉を開けようとした。
「……!? なんで!? どうして!?」
「え……どうしたのアルト」
「開かないんだよ! 鍵穴なんてないのに……びくともしない!」
まるでこの扉がそう見えるだけでただの壁なんじゃないかと思ってしまいそうになる。
「代わって」
セラが扉の前に立ち、一度深呼吸して、
「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
セラの全体重がかかったプロボクサーもビックリの拳が扉に襲いかかった。
ってかあんなに本気でパンチしたら手痛いだろうに……。
「嘘……なんで? あたしの魔法で強化したっていうのに、全然効いてない……!?」
セラ渾身のパンチを以てしてもこの扉が破壊されることはなかった。
『残念でしたぁ! その扉はもう二度と開くことはねえぜ?』
どこからともなくザメイルの声が聞こえてきた。
その声は出会った当初のぶっきらぼうながらもどこか優しさのある声ではなく、快楽に飢えた狂気的な声だった。
『そこはもうお前らがいた空間じゃねえ、俺特製の戦略部隊専用テリトリーだ。現実の空間には一切の影響が出ない……思いっきり殺しあえよ?』
「マリナは無事だろうな……」
『ンなこと俺が知ってても教えると思うか?』
「マリナが怪我でもしたら許さないからな!!」
ザメイルの堪えたような笑いが聞こえて、顔面ぐしゃぐしゃにして笑っているのがすぐに想像できる。
でも、今この状況ではザメイルを殴ることすら出来ない。
「あんたがザメイル=スローバーグね?」
『あ? 女の声……誰だお前』
「あたしは反信する者の一構成員。あんたを殺しにきた」
『ハッ! 何だと思えば雑魚じゃねーか……だが』
ザッ、とアルトたちを囲むように戦略部隊が何もないところから出現する。
『生憎俺はどんな雑魚でも全力で殺りにいくタチでね。ハエ一匹殺すだけでも魔法力最大でかかるんだ』
戦略部隊は七人。それぞれが強大な力を持っている。
そんな彼らに、ザメイルから単純な指令が下る。
『殺せ』
七人全員が一ミリの誤差もなく得物を取り出す。
でも、それを待っているほど僕もバカじゃない……
「やらせない」
刃物がはじかれたときの甲高い音が七つ響いた。
魔法合成、球状の氷障壁に金属性の薄い膜を張る。
「遊技・かまくら再現」
……ちょっとかっこつけてみましたすいません。
「アルトって魔法つかえたの? そんなの情報になかったんだけど」
「うるさいよ、使えてもこれみたいなお遊び程度だから使えてないのといっしょなんだ……けど」
追加、障壁から射出する針へ。
「放てッ!!」
かまくらはその外殻の無数の針で全方位に攻撃した。
「チャンスね! あたしもやってやる!!」
針の射出が止まったのを確認したセラはかまくらから出る。
しかし、
「獲った!!」
出口横で戦略部隊が一人待ち構えていた。
戦略部隊の鋭利な刀がセラを襲う。
「わざわざ自分からあたしのリーチ内に入ってくるなんて馬鹿ね」
戦略部隊の刀が振り下ろされるより早く繰り出されたセラの蹴りで、ドゴォという鈍い音が炸裂した。
「がッァァァああああああああッ!!」
戦略部隊の悲鳴はノーバウンドで吹っ飛び壁にぶつかるまで続いた。
僕的吹っ飛び予測距離は30mだ。
かまくらを解除して様子を確認する。
戦略部隊は一人吹っ飛ばされ一人が針の盾になって倒れていた。
「とても統率がとれているんだね……」
「感傷に浸ってる暇ぁないよ!」
「わかってる!」
戦略部隊が僕を攻撃しようと駆ける。
とりあえず攻撃を防がないと……考えろ、盾がいい……普通の盾じゃなく……!!
「造形魔法、イーリスの盾!!」
考えが及ぶ前にその単語が出た。
イーリス。それは伝説の魔導師が唯一持ち歩き愛用したといわれている架空上の盾。
発想の変換だ。
僕の魔法はデフォで三段階ぐらい弱くなる。
森一つを焼き払う炎を出したいと思ったらちょっと火傷する程度の火しか出せない。
だったら最初のイメージでとんでもなくすごいものをイメージしたらそこそこ結果が出ると思った。
イーリスの盾はランク付けすると造形の魔法の中ではSランクレベル。
元より存在が証明されていないものの造形は非常に困難とされていて、成功例など稀だ。
「!! これは……!」
しかし現実にその稀な魔法を見事に成功させてしまった。
「くっ、何だこれは!?」
イーリスの盾は戦略部隊の攻撃を軽々しく防いだ。衝撃吸収材でもはいっているのだろうか。
「クソッ! 力が、はいらん……!!」
ん? そういえば……
「イーリスの盾にはこんな逸話がある。イーリスの盾に防がれた攻撃者は苦悶の形相で悶え苦しんだ後に……死ぬ」
「ヒィッ……!」
戦略部隊が小さな悲鳴を上げる。
怯えているのに後退する様子はない。
「チェストォォォォ!!」
横からセラが飛び蹴りをして、盾にくっついていた戦略部隊は豪快に吹き飛んだ。
「あっ、イーリスの盾が……」
一度の役目を果たした盾は、淡い光となって霧散する。
「残り四人……一気に行くよッ!!」
セラはそう言ってナイフを取り出す。
そのナイフからはただならぬ圧を感じる。
セラが爆発的な速度で疾走する。
早すぎて目で追えたものじゃない。
肉を断った音が一つ聞こえ断末魔の一つも無く戦略部隊がまた一人倒れる。
「なんだコイツ……ただ者じゃない!?」
半分がやられたことに戦略部隊が焦りを見せ始める。
「造形する……形状はクロスボウ」
特殊な球を撃つこととその威力に特化した特性のやつだ。おそらく使えるのは一度きり。
「遅すぎてあたしにはあんたら全員止まってるようなもんだよ!!」
「ウグッ!?」
スパァン! と鋭いパンチが戦略部隊の鳩に入る。
だが、戦略部隊は倒れない。
「逃がっ、さん……っ!!」
鳩尾にめり込んだままのセラの腕を握りつぶすように掴む。
「詰めが甘かったな……このままやられたら後が怖いんでね」
「っ……!? 放せッ!!」
「今だ! やってくれ!」
「終わりだ、反信する者よ」
攻撃を受けた戦略部隊の後ろからもう一人がセラを仕留めんと跳躍する。
見え透いた罠……鳩尾に攻撃を受けたのはこの時の為の囮――
「死ね」
「っ!?」
戦闘の邪魔にならない様にしていた最後の戦略部隊の男は気付いた。
「馬鹿!! お前狙われてるぞ!!?」
「なっ?」
気付かれたようだ。
「クソッ!!」
今更になって回避行動をとろうとする。
しかし、こっちのほうが速い。
「今だ! アルト!!」
弾丸は水属性、速度は……秒速三千メートル!
「うぉぉおおおおおおおおおッ!!!」
心臓に響く轟音が三度続き、空中に飛び上がっていた戦略部隊は三度の衝撃を一身に受けた。
その光景を見終える間も無く鳩尾の男も力尽きた。
あと、一人。
もう一発行けるか。
「させると思うか?」
「っ! 魔法か!?」
戦略部隊が手をかざすだけでクロスボウが破裂する。
一体どんな魔法を使った?
「解りゃしないさ……これは、お前の知る範囲じゃない」
「どういうこと?」
戦略部隊は意味深な言葉を吐いた。その表情に生気は感じられない。
それから間も無く、この建物全体が振動を始めた。
まるで今いる建物を倒壊するかの勢いだった。
「ハハハハ! ハハハハハ!! ……ふう」
戦略部隊は腹を抱えて笑い、一息ついた。
目じりに浮かんだ涙はいったい何を意味していたのかは僕にはわからなかった。
「ザメイル様は俺たちがあまりに情けないからお怒りなんだ……もう皆終わりなんだよ!!??」
「はぁ? こいつ何言ってんの?」
「追い詰められて気でも狂ったとか」
さっきまで笑っていたかと思うと今度はガクガクと震えだした。
情緒不安定かよ。
振動は続いたまま、この空間の外が突然光る。
「うわっ、眩し…」
「……おい、アルト……あれ、何だ?」
セラが窓の外を見て呟いた。
僕もセラの指差す方向を見る。
「嘘だ……なんだこれ」
腰が抜けてへたりと座り込む。
でも仕方ないじゃん。あんなの見たら誰だって腰抜かすって。
「アルト、しし、しっかりしてよ」
「ははっ……――ごめん、ごめん……」
セラは窓に体重を預けなんとか体勢を保っているが、窓がガタガタなっていているので小刻みに震えているのが簡単にわかる。
「俺もお前らも皆終わりだァ!! 始まるんだ……ザメイル様の最大魔法・百億結界封殺陣が……ッ!!!!」
戦略部隊が張り上げた声の次に聞こえたのは、この建物が崩れ落ちる破壊音だった。
砂塵吹き荒れる荒野に、生き残るのは誰――
次回『荒野転変・後編』
隔週更新が続きそう。




