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宿もねぇ、アシもねぇ、おめーに食わせる飯もねぇ! その四、魔法合成


 アステラ王都、もといアステラ王政はシドンサイドを一つにまとめる巨大な政治組織だ。

 彼らは住民の安全を守るために日々尽力している。

 それがたとえ歪んだ方法であっても……。


 はたしてアステラ王政の圧政に耐えかねた一部の人間はどんな行動をとるだろうか。


 僕の目の前は赤一色に染められた。

 まるで噴水のように血が噴き出している。

 見慣れない光景というか本来見ることもないだろう状況を目の当たりにしているものだから、意識が飛びそうになる。


「……っ!!」


 跳びそうになる意識をなんとか踏ん張って呼び戻し、開かなくなったマリナたちがいる筈の部屋のドアを叩く。


「ァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!」

「っ!?」


 僕の後ろで叫び声をあげているのは、血を噴きだしている謎の男だ。

 

 何故このようなことになっているかというと、話は少し前へ遡る。

 

         ☆


「あれ、この廊下ってこんなに長かったっけ」


 トイレを出た僕は廊下の長さが来た時より違っていることに気が付いた。

 廊下の端が見えない。明らかに異常だ。

 

 しかしこのままではマリナが危ない、早く戻らないと……。


 その時、足音とは違う物音がした。

 僕とマリナとザメイルしかいないはずのこの空間で、だ。

 その物音の正体は、ゴホンと咳払いした。

 

 僕はその存在に振り返る。


「あれ……あんた、誰?」


 その存在はニタリと笑った。


「あたしか? あたしは反信する者ターナメントのセリエラ=オーランド」

「ターナ……メント?」


 その単語の意味が解らず思わず口にしたのだが、セリエラさんはそんなことお構いなしに一気に顔を険しくした。


「構えな、来るよ」


 セリエラさんは刃渡り十センチほどのナイフを手に持ち、臨戦態勢を取っていた。

 何が起こっているんだ?


「来るって、何――」

「しゃがめ! いや、間に合わないっ!!」


 セリエラさんは僕の手を引いて一気にその場から離れた。とても人間技には思えなかったから、多分魔法の一種だろう。

 

「っ――これは!?」


 さっきまで僕とセリエラがいた場所は、木造の壁が破壊される音と一緒に新手が蹂躙した。


「それくらいわかれっての。アイツは……」


 迷彩服のような、とても機能性に優れた服。

 額には幾多の戦場を切り抜けてきたときに付いたのであろう傷跡。

 その目は野獣のように、獲物を自らの眼に刻み付ける。

 間違いない、彼は――。


「これが、戦略部隊……」

「わかってるなら死なない様に何とかしな! あたしはあんたを守りながら戦うなんて無理だからな!!」


 戦略部隊の男が動き出した。

 その動きに一切の無駄はなく、早さも常人の倍はあるような気がした。


「くっ! 殺される!!」


 ここ最近殺気というものをよく感じるようになった。

 でもこの殺気は今までのどの殺気より冷たい気がした。


「ボーっと突っ立ってんじゃないよ! 本当に死にたいの!?」


 男の拳をナイフで弾き返すセリエラ。彼女の顔に余裕は微塵もない。


「僕だって、少しぐらいならっ!」


 イメージする。

 あの男が地に付している姿を……。


「ターゲットの魔法力の集中を確認。後方へまわり、戦術の如何なるかを観察する」


 誰にも聞こえない様にそうつぶやき、男は警戒を解く。

 その好機をセリエラさんは見逃さない。

 立ち止まっている男の真正面からトップスピードで接近し、驚異的なスピードのまま男の背後を取った。


「終わっ、てろ!!」


 ナイフで男の首を捉える。

 が、しかし。


「邪魔をする者は、排除する」

「がァッ!? っ……!?」

 

 声が聞こえた。

 戦略部隊の凍えるような冷たさと、予想外の痛みに反射的に吐き出された音だ。


 イメージしろ。

 あの男が地に付していて、僕はどうしている?


「ターゲットは依然として沈黙、これ以上は無駄と思われる」


 早い。男は刹那の内にアルトのもとへ迫る。


「見えた、これが……お前を倒す武器だ!!」

「何!?」


 手のひらを見る。

 僕の手のひらには何もなく、しかし光り輝いていた。


 敵を打ち倒す武器、男を地に伏す能力。


「今ならわかる。この能力はきっと僕の奥底で燻っていたんだ」


 僕に備わっていたのは魔法に関する知識だけ。

 そう、それで十分じゃないか!


「造形の魔法は今までに何度も見てきた、だったら――なんでも造れる!」


 壁の一部だった木材を拾う。

 そして木片は術者である僕の理想像に再構築される。


「形状は弓、使用頻度は一度きり!」


 追加イメージ。


「生産魔法、形状は炎。弓の矢として結合するっ!!」


 これが僕の能力。


「魔法合成……っ!!」


 男が焦燥に駆られ、ここにいない誰かに連絡を取ろうとする。

 させない。そんなことする暇も与えない。


「いっけぇ――――!!」

「情報伝たァ―――……」


 放たれた矢は男の体を摂氏800度で溶解し、文字通り消し炭にした。

 弓も、一度の使用に耐えきれず、ボロボロに砕け散った。


「やった……魔法、使えた!!」


 ヤバい、超嬉しい。


「早くマリナにも報告しないと!」


「……うぅ~いったぁ~い……」


 っとと、そうだ、そうだった。魔法合成に集中して忘れていた。


「大丈夫ですか!? セリエラさん!」

「あぁ、ちょっと痛むけどこれぐらいなら……」


 セリエラさんが薄緑の淡い光に包まれる。

 

「治癒の魔法ですか?」

「そうそう、あたしたちに必須のスキルみたいなもんよ」


 セリエラさんはにひひと笑い立ち上がった。

 

「それにしてもどうやってあの男を退けたの? あたしには君はあまり強そうには見えないんだけど」


 む、それは失敬な。


「教育だけはしっかりと受けてますから。僕が本気を出せばこんなもんですぅ!」

「はっはっは! それは結構!」

「なんですかもう。じゃ、僕急いでますんで」


 こうしている間にもマリナは危険にさらされているかもしれない。

 時間は一刻を争うんだ。


「待った!!」


 ……無視だ無視。時間は一刻を、


「少年! ちょっといいかなー?」


 ここでのんびりしている暇は――


「ガン無視!? 自分から言うのもなんだけどあたしって君の命を救ったんだよ!? その人に対して完全スルーってひどすぎじゃない!!」

「急いでいるんで、また」

「あっ……もう、仕方がないなぁ~」


 やっと引いてくれたか。ここは危険だけどセリエラさんは結構腕が立つしそこらへんは大丈夫だろうきっと。


「少年、いやアルト=ランドレット。ザメイルってどこにいるか知ってる?」

「……今、なんて…………?」


 その声は寸分違わずセリエラさんから発せられた声だった。


「やっと反応してくれた。じゃあもう一度、ザメイルってどこにいる? 場所を教えてよ」

「違う……そこじゃない」

「ん? どうしたのー? 少年」


 そうだ。確かに名乗っていない筈……。


「セリエラさん……あなた、なんで僕の名前を……」


 セリエラさんはこの質問を予期していたのかフフン、と鼻を鳴らして答えた。




「君ってばあたしらの界隈じゃ結構有名人だよ? 勿論悪い意味で……」


どうも久しぶり私です。

前回は更新できなかったよorz


次回!『荒野天変』


それではまたのお越しを~

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