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第4章 因習は骸を喚ぶ(下)

第4章 因習は骸を喚ぶ(下)


西に来て2月ほどが経ち、<みたま>経由で九王家の依頼実績を着実に積み上げた。


その過程で、九王家最強の銀の兵器である白雪家の家宝<草薙>を拝むことが出来た。


朝霞恭平によると、千年前に西で暴れていた猛々しい鬼がいて、白雪家の先祖が<草薙>で首をはねたのだと言う。


その首は、首だけになっても力を宿し続けたため、最終的に当時妖殺能力で劣っていた東に持ち込まれ、その地を守護し続けた。


これが<九王会>の興りであり、首をはねられた鬼はやがて力をつけて、<首無し鬼>と呼ばれる最恐の妖魔に昇華した。


現存が確認されている、<骸神>3柱の1柱である。



「<草薙>の剣は確かに強力よ」


韮崎愛羅がリビングで小さい本棚を組み立てながら言った。


「他の銀の兵器とは性質が違うから」


「確か、銀の兵器の素材は<九王会>が調達を一手に握っていたな…」


「そう。鬼の首の力でもって、銀に呪的加護を付与している。だから、妖殺屋が持つ銀の兵器は、ほとんどの出自が<九王会>ということになる。あくまで素材に限定した話だけれど」


話が読めてきた。


<草薙>は鬼の首をはねる前から存在していた。


「じゃあ<草薙>は一体何だ?誰が生み出したんだ?」


「造りは人間の手によるものよ。妖魔に一族を悉く滅ぼされた、とある妖殺屋が鍛えし剣。妖魔への怨念や憎しみが信じられないほどに込められている」


「なるほど…」


「でもアレを手にすると、剣の怨念に取り込まれる恐れがある。白雪の一族はそれを回避する術を伝承しているようだけれど、あまりに深い闇は誰にも飼い慣らすことはできない」


鞘越しにしか<草薙>を見てはいないのだが、言われてみれば側にいて熱のようなものを感じた気がした。


うまく角が合わさらない本棚を韮崎愛羅から引き取って組み立ててやる。


<草薙>なら彼女を始めとした<骸神>をも滅する力があるのか興味はあったものの、それを質問するのは躊躇われた。


出来上がった本棚を手に喜ぶ韮崎愛羅の顔を見て、取り敢えず九王家の家宝のことは頭の中から追い出した。


***


三堀家は三千院忍を失って以降、頼れる実戦戦力を得られなかったようで、おれは上手いこと目をかけられた。


出入りしている伊織家が九王家内で中立の立場をとるため、保守派の三堀家から見てもおれはある程度信を置けると判断されたようだ。


三堀発の依頼で悪霊を狩った帰り道、高く昇った日の下で天星を名乗る巫女の待ち伏せにあった。


巫女は長い黒髪を後ろで束ね、白衣に緋袴という装いをしていた。


容貌はたいそう整っていたが、眼光だけが異様に鋭い。


天星姫城(あまほしきじょう)です。見ての通り、天星家で巫女頭を務めております」


「…妖殺屋の曲宮八式だ。伊織家に出入りしている。今日は三堀家の依頼で廃屋の悪霊を退治してきた。こんな路上で、おれに何か?」


相手が保守系の天星家ということで、おれは努めて冷静に自己紹介をした。


「単刀直入に言います。貴方様は東からの間諜ですね?目的は鬼の首でしょう」


「違う。ただの食いっぱぐれたフリーの妖殺屋だ」


「…<九王会>に雇われていた凄腕と聞き及んでおりますが、いまこうしてお会いして確信しました。貴方様は私共九王家に仇をなす者です」


言葉遣いは丁寧だが、天星姫城からは強いプレッシャーを感じた。


「…信じてはもらえないようだ。それで、おれをどうする?」


「どうもしません。当家には固有の武力がございませんし、西では簡単に口封じを試みたりはしませんから」


「警告だけかな?」


「貴方様を脅す気はないのです。西に禍を招かないでいただきたいとお願いするばかりです。私が<銀水晶>で詠める未来はひとつ。<首無しは己の首を畏れるが故それを持たざる者を伐つ>」


天星姫城が言った。


<銀水晶>というのが天星家の家宝なのだろう。


だが、「詠める未来」とは何のことか。


「私の推測で申しますと、水晶が詠んだ未来は、私共九王家か東の<九王会>か、鬼の首を失った側に<首無し鬼>が襲いかかってくる、というものかと」


「…!<骸神>が攻めてくるというのか?」


「そうと読み取れる未来を、水晶が詠んだのです。それで私は貴方様の居場所を水晶に問うて、ここまで参じました」


天星姫城がペコリと頭を下げ、そそくさと引き返して行った。


まだ20代にはなっていないであろう少女の目は、話した内容とは裏腹におれを視線で焼き殺さんばかりに怒りに溢れていた。


<首無しは己の首を畏れるが故それを持たざる者を伐つ>とは、本当にあの<首無し鬼>が動くことを指すのだろうか。


10年以上前に<九王会>が戦った一件を除けば、<骸神>との交戦記録は50年100年といったスパンでしか残っていない。


ひとつだけ確実なのは、<骸神>に勝利した経験は一度もなく、戦えば人間側が敗れるということ。


まして今の<九王会>は再建途上でぼろぼろで、10年前と比しても有利な点は何ひとつないように思われた。


おれは天星姫城を追い掛けて鬼の首の在りかを吐かせることも考えたが、下衆に過ぎると諦めた。


彼女とて、怒りにまかせて九王家を率いておれを襲撃するのをよしとしなかったわけで、そこには一定の配慮が窺える。


<色男>に以降の相談をするため、急ぎ足で<みたま>への帰路についた。


§木暮乱舞§

木暮家は九王家の中でも対東の強硬派であり、西と<九王会>との人的交流すら断絶するべしという思想を持っていると聞く。


「その木暮の当主が、天星と共同で声明を出すんだって。<九王会>と戦争でも始める気か、って噂になってる」


高柳蓮が焼き鳥をかじりながら言う。


デート中に呼び出されたとかで散々に<色男>を非難していたものだが、出てきたビールと焼き鳥を見るや目の色が変わった。


ここは<色男>行き付けの焼き鳥屋で、10席程度のこじんまりした店内にはおれたち4人以外に客はなかった。


「やっぱりそうか」


「なんで恭平さんは知らないのかしら。夕霧にだって招集かかってるのに。ねえ、屍さん」


「私は興味がない」


屍は黙って枝豆を摘まんでいた。


「あそこにゃ帰り辛くてな…。招集は、当主宛か?」


「代理も可。だからうちは私」


「屍よ。式島は誰だ?」


<色男>が高柳蓮と屍に取材を始めた。


保守系の白雪、木暮、三堀は当主が、天星は姫城が出張り、夕霧は恭平の兄が出席するそうだ。


中立をうたう伊織は情報がなく、同じく西陣は当主が、新興派閥である高柳と式島はそれぞれ高柳蓮と当主が出席の見込みだ。


「伊織家は、八式くんに決めた。さっきね」


この場の4人目、韮崎愛羅がおれに片目を瞑って見せて言った。


その仕種から、たった今「そう改変した」のだと分かった。


韮崎愛羅はおれたちとは同席せずに、敢えて隣席に座していた。


「狭いのは嫌だ」と言ってそうなったのだが、彼女がここに来ることに誰も反対しないほうがおれには驚きであった。


「なるほど。これで9席の中に、ガンマンと蓮の二人は入り込めたわけだ。何か動くとしたら、ここだろうな」


「私は代理だし、高柳の家を代表してる身だから無茶はできないかも」


おれをけしかけるかのような<色男>の言葉に、高柳蓮が釘をさす。


「どうせ八式が無茶をするさ。これで割と喧嘩っ早いんだ。むしろお前は八式を抑える役だな」


「…九王家当主会合の席で東の強者が暴れる、か」


屍がぼそっと呟き、笑みを浮かべた。


それを見た高柳蓮が、ふうと溜め息をついてこぼす。


「屍さん、状況を楽しんでないですか?」


***


旧公卿の邸宅を改装して代々継いでいるのが、ここ天星の屋敷だった。


九王家の代表が集まったその席は広い和室で、黒檀調の長い机に9人が座していた。


「皆忙しい身だ。前置きは無しに、早速本題に入る」


木暮家の当主、50絡みの紳士が威厳のある物言いで場の静寂を破った。


その木暮氏が片手で合図し、口火を切ったのは巫女装の天星姫城だ。


「天星の代理が姫城です。若輩の身ですが、ご容赦を。本日の合議ですが、<九王会>をもって<首無し鬼>の討伐にあたらせることを提案致します。これは木暮・天星の共同提案です」


ざわめきがさざ波のように広がる。


「<九王会>はそこにいる曲宮八式を間者として放ってきた。宗主たる我らに弓を引くなど、最早同情の余地はない。天星の水晶によれば、このままいけば彼の鬼は<九王会>を襲うと聞く。ならば先んじて戦わせる方が、まだ機があるだろうよ」


木暮氏が力強く訴えた。


その目が強くおれを射る。


初老の西陣当主が挙手して木暮氏に問いかけた。


「10年前と同じ結果にはなるまいか?さすれば、今度こそ<九王会>は全滅ぞ。東の抑えはどうするつもりだ?」


それには天星姫城が応じた。


「私共の手で、直接管理すればよろしいかと」


「今でも<九王会>はわしらが掌握しているではないか?」


西陣氏の更なる問いに対して、今度は木暮氏が答えた。


「人事権すらないのにかね?西陣殿、私は建前の話をしているのではない。東においても、我らが陣頭に立って妖魔に抗する指揮をとるべきだと言いたいのだ」


多数が木暮氏のその意見に首肯する。


「木暮殿。<九王会>が全滅した場合、東の戦力はどうする?我らとて余裕があるわけではない」


発言したのは、木暮氏らに近いとされる保守派の白雪家当主だ。


白髪を後ろに撫で付け、額や頬には深い皺が刻まれている。


「こちらに流れてきているフリーの妖殺屋を局員とすれば宜しい。政府に働きかけて、<特異物捜査対策課>や市ヶ谷からも人材を受け入れよう。あとは各家に1人ずつ幹部を拠出してもらうといったところか」


木暮氏は用意していたかのようにスラスラと述べた。


実際のところ、白雪と木暮が想定問答を作っていたとしても、何も不思議ではなかった。


夕霧は朝霞恭平の兄が賛意を示し、三堀は妙齢の婦人が異論はないと述べる。


保守系の意見は定まり、場の注目は新興派閥の式島と高柳に集まった。


「式島殿、いかがです?」


天星姫城が、式島家当主を務める冴えない中年男性へと意見を求めた。


式島氏は、オホンと咳払いをして、皆を見回して言った。


「皆さんが賛成ならば反対するいわれはありませんな。ただ、西陣殿が懸念された<九王会>の全滅は、ここまで費やした金と時間を考えれば、あまりに惜しい」


「それは、新たな戦力をもって我らが継ぐのです」


「天星殿。貴女はお若いからご存じないかもしれぬが、10年前の<骸神>との戦には、我々も戦力を派遣したのです。それも精鋭をね。結果は、<九王会>所属の妖殺屋以外全員死亡という訃報によってもたらされた」


淡々と話す式島氏に、明らかに苛ついて見えた木暮氏が噛みついた。


「だから、何だと言うのだ?」


「いえね、我々が東に作り上げる新勢力とやらが、果たして妖魔の抑止力として機能するのかと心配になりまして」


「…ツマランことを。現にこちらで妖魔相手に遅れをとっている事実はない」


「我々は東の妖魔を知らない。報告書以外の事実はね」


式島氏が語り終えるのを待って、高柳蓮が控えめに挙手した。


「あのう。東のことなら、そこにいる曲宮さんに訊いてみればよいかと」


「間者の話など聞く必要はない!」


木暮氏が断じた。


それに対し西陣氏が不快を表に出して、木暮氏をたしなめた。


「賎しくも曲宮殿は伊織家の当主代理としてここにいらしている。木暮殿、その態度は感心せんな」


白雪や夕霧からも自重するよう声があがった。


「あのババア…間者を代理にするとは、耄碌したか…」


捨て台詞を残して木暮氏は黙った。


代わって三堀当主の三千院氏が「曲宮殿、どうか自由に議論に参加を」とおれに発言を許可する。


式島氏は「東の情勢は、どうかね?」と暢気な様子で言ってきた。


「正直、フリーや<特捜>をメインとした戦力では、全く妖魔の相手にはならないでしょうね。東の妖魔は、故あって組織戦を仕掛けてくるので」


おれは思ったままを口にした。


「少なくとも、<特捜>を雇うなら市ヶ谷の方がマシです」


「妖魔が組織戦…だと?」


白雪氏が呻いた。


一同を窺うと、「ハイブリッド・チルドレンの暗躍により妖魔に統制が生まれた」事実を明らかに知らずに驚愕している顔が散見された。


おれは慎重に言葉を選ぶ。


「<九王会>がその守護を失ってから、東では妖魔の強力化が進みました。その一例に、妖魔の組織・集団戦闘や戦術の行使が見られたのです」


「与太を申すな!そのようなこと、歴史上に例がない」


夕霧氏がその風体に似合った豪快さを露に言う。


「現におれは幾度もそういった戦闘に参加し、<九王会>の局員が戦死する様を見てきている。妖魔に待ち伏せにあい、或いは物量戦に押し込まれ。…そうして伊織玲子も亡くなった。あの中臣静すら、討ち取られる一歩手前だったこともある」


当主たちがざわめいた。


「あの中臣家の跡取りが…」とか、「確かに<死線>が易々と敗れるはずもない」といった言が聞こえてくる。


「守護は我らが正当な所有者であること疑いない!ならば、我らが新しい勢力を築く折に守護を東に戻せば問題あるまい」


木暮氏が立ち上がって主張した。


「守護が戻れば妖魔が鎮静化するという根拠はどこにある?」


西陣氏はなおも問い詰める。


「…鬼の首が戻れば、再び妖魔の統制はとれるのだ。それは立証されている」


木暮氏の返答は理屈になっておらず、周囲に疑惑の色が浮かんでいた。


ここが正念場であるように思われた。


「ハイブリッド・プロジェクト」


おれは調子を抑え、それでいて声量大きく言った。


「小僧!」


木暮氏が激昂し、天星姫城や夕霧氏も過剰な反応を示した。


「妖魔と人間の交配種を作り上げ、妖魔を支配しようと目論む悪魔の所業。<九王会>で実現化され、誰が指揮したかと不思議に思っていたのだが。まさかここに元凶がいたとは」


木暮氏は血管が焼き切れんばかりに憤怒の形相でおれを睨み付けた。


白雪氏が「ちょっと待て!何だそれは?」と言って、おれや木暮氏を見比べる。


西陣氏も「木暮殿…お主は…」と動揺を見せていた。


そして、動いたものが2名。


「かかれ!」


「逃げるんだ!」


前者は三堀家の三千院氏、後者は式島氏であった。


室内に飛び込んできたのは、鬼たちであった。


四方八方から飛び掛かってきた奴等を、おれの<死線>と高柳蓮の<銀鞭>が迎撃する。


式島氏の警告のお蔭で瞬時に網を張ることができ、式島氏や西陣氏を狙った鬼を引き裂くことには成功した。


「白雪殿!」


西陣氏の悲鳴が聞こえ、上座に位置した白雪氏の頭髪が真っ赤に染まった光景が飛び込んできた。


おれと高柳蓮は10匹超現れた鬼の半数を片付け、背後に式島氏と西陣氏を隠して残りの面子と対峙した。


鬼をけしかけた三千院氏に木暮氏、天星姫城、恭平の兄の4人が寄り添って、その前を5匹の鬼が固めている。


「どこかにハイブリッド・チルドレンが隠れているとしたら厄介だ。多分鬼の奴だろうが…」


おれは<死線>を構えた態勢で高柳蓮へと忠告した。


<ミョルニル>は持参していないので、接近戦に特化してあしらうと決めていた。


「式島様、屍さんを呼べませんか?」


「高柳のお嬢さん、すでにSOSボタンは押したよ。間もなく着くだろう」


それを聞いて、おれと高柳蓮は奮い立った。


高柳蓮が鞭を振るい、いっぺんに2匹の鬼を打ち据える。


おれは直進して、残りの3匹を銀線で絡めとった。


「これで全滅だぞ」


言って、<死線>を弾いて鬼を切断し尽くす。


木暮氏と夕霧氏が後ずさるが、<銀鞭>が伸びてきて近くの床を打ち、2人は慌てて転倒した。


「逃がさない」


「いいや。逃がしてもらう」


「!」


天井を破って高柳蓮の上から降りてきたのは、ひょっとこの面を被ったスーツ姿の大男。


不意をつかれた高柳蓮が殴り倒され、助けに向かおうとしたおれの視界にはもう10匹程の鬼が入ってきた。


「…002か?」


<死線>を構えて鬼たちを牽制し、おれはひょっとこ男へと問いかけた。


男の足元には高柳蓮が倒れているので、めったな挑発は出来ない。


「俺は鬼頭。犬飼らを殺ったのは、お前か?」


「おれが殺したのは、悪霊を操っていたレザーの奴だ」


「…そうか。なら、お前は死ね!」


信じられない脚力で鬼頭はおれの眼前に迫った。


咄嗟にテーブル上を転がって、豪腕による殴打をかわす。


そのままステップを踏んで高柳蓮の側へと引いた。


高柳蓮は完全に昏倒しており、容態が危ぶまれた。


だが、そんなおれの気を知ってか、再び鬼頭が攻め寄せて来る。


他の鬼たちの動きも気にはなったが、正面の強敵に集中して<死線>を展開した。


「温いわ!」


鬼頭の大振りの拳打は、銀線に絡めとられたままでも猛威を振るい、なんとか避けたおれの隣でテーブルが砕けて吹き飛んだ。


とはいえ奴の腕もズタズタに裂けていて、切れ切れになったスーツから覗く筋肉質の肌は血塗れである。


避け続けていてはいずれ高柳蓮に被害が及ぶ。


おれは意を決して鬼頭へと突っ込んで行った。


<死線>と拳が激突するまさに直前、鬼頭がいきなり横に弾き飛ばされた。


銀棒を振り抜いた屍がそこにいて、おれに「高柳殿を!」と叫んだ。


おれは高柳蓮の脈を確かめ、脇から手を入れて肩に担いだ。


部屋の隅では式島氏が鬼に襲われており、<死線>を飛ばして首をはねた。


西陣氏は床に臥せっていて、残念ながらすでに事切れていた。


「曲宮殿、高柳殿は私が見ているから、すぐに屍に加勢を。見た感じではもう鬼はいない」


「頼みます。念のためにこれを」


おれは式島氏に銀のナイフを渡し、屍の元へとって返した。


鬼頭の殴打に押されながらも、屍は銀棒を駆使してどうにか防御態勢を維持していた。


おれは横から<死線>で鬼頭の動きを封じにかかる。


目に見えて鬼頭のスピードが鈍り、そこに屍の打撃が命中していく。


連続攻撃の機と見て、おれもぐるりと鬼頭の周りを回って緊縛を強めた。


「舐めるなッ!うおおおおおおおおおおお!」


鬼頭は力任せに銀線を掴んで振り回し、おれは力負けして投げ飛ばされた。


「ぐはっ!」


壁に激突して、そのまま床に滑り落ちる。


頭はクラクラしたものの、起き上がって銀線を手繰ると、全身ズタボロの姿で鬼頭は屍と打ち合いを続けていた。


おれが新たな糸を繰り出すと大きく後方へ跳躍して、そのまま逃げ去っていった。


「屍、助かった」


「…何だアレは。あの膂力、人間の力ではないな」


屍が銀棒を取り落として、手首をさすった。


そこへ高柳蓮を抱きかかえた式島氏が寄って来る。


三千院氏や天星姫城らの姿は無く、床には<聖石>が散乱していた。



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