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第1章 妖魔を狩る者たち(下)

第1章 妖魔を狩る者たち(下)


「お邪魔します」


獣魔掃討作戦の前日に、中臣静はやってきた。


ダウンジャケットの下に落ち着いた柄のワンピースを着ていて、露出は多目で若々しく見えた。


電話では軽く伝えてあったのだが、韮崎愛羅を改めて紹介した。


「へえ~。八っちゃんに、こんなに美人の彼女が出来るなんてね…。てっきり玲子ちゃんと付き合ってるものとばかり思ってたわ」


「姉さん!」


「ふうん。八式くん、伊織さんとのこと、後でじっくり聞かせて貰いましょうか?」


「あのなあ…」


女二人が顔を見合わせて笑った。


中臣静は妖殺屋としての実績もさることながら、妖気計など妖魔関連道具の開発者として高名だった。


昔から妖魔への感度が高く、その能力を活かして色々と設計をしていたのだが、今回韮崎愛羅と会わせるに至ってその点が気がかりだった。


何か、彼女に対して違和感を覚えたりはしないだろうかと。


韮崎愛羅手作りの夕食を食べ終え、リビングで家族二人、団欒の時を過ごしていたときに、中臣静が言った。


「…八っちゃん。私ね、今回は玲子ちゃんの頼みだから来たのだけれど、正直嫌な予感がしてるの」


「…獣魔に?」


「そう。藪をつついて、大蛇が出てくる気がして」


「姉さん、強力な獣魔の力を感じてるの?」


「そこまではまだ…。山勘みたいなものね」


「…<九王会>は東雲瑠美(しののめるみ)をこっちに出してきていないし、大丈夫じゃない?」


「そうね…。彼らもちゃんと調べはしてるでしょうしね」


人類最強の妖殺屋と謡われているのが、<九王会>副局長の東雲瑠美だ。


28歳という若さでその要職に就き、対妖魔の決戦存在として大いに期待されている。


熊田の話によれば、伊織玲子と東雲瑠美は、長野の雪山で影女と交戦中のはずだ。


風呂から上がったらしい韮崎愛羅の足音が聞こえた。


中臣静がテーブル上でおれの手を突っつき、「あの子、いいわね」とにやけ顔で言った。


そう言われて満更でもない自分がいて、思わず頭を抱えたくなる。


「姉さんは最近どうなの?」


「私?男?」


「そう」


「そんなの、八っちゃんに言えるわけないじゃない」


頬がほんのりと染まる様を見て、脈があるようだと理解できた。


中臣静は未亡人で、死別した旦那も同じく妖殺屋であった。


師匠も妖魔との戦いで亡くなっていて、これは妖殺屋の宿命と言えた。


「…でも八っちゃん、玲子ちゃんもいい子よね。私あの子のこと、好きだわ」


伊織玲子は、師匠の元で修行していた時からの顔見知りで、おれとてその人格や実力は高く評価していた。


彼女と恋人同士になるチャンスはあったのかもしれないが、今では腐れ縁という感じで同志といった表現の方がしっくりくる。


韮崎愛羅が入れ直したお茶の急須を持ってきた。


パジャマから覗く、湯上がりで火照った肌の赤みが妙に艶かしい。


「あ、八っちゃん、男の目してる」


「姉さん!」


「愛羅さん、気を付けてね。この子、割とむっつりな感じだから」


「姉さん…」


「お姉さん、やっぱりそうでしたか」


「愛羅!」


言って、思わずしまったという言葉が喉から出かかる。


無意識に、韮崎愛羅をファーストネームで呼び捨ててしまったのだ。


「ふっふっふ。八式くん」


韮崎愛羅が「言わせたぞ」とでも言いたそうな得意気な顔をする。


中臣静は疑問符を浮かべていたが、とても解説する気にはなれなかった。


***


出陣の朝は中臣静を駅で見送り、おれと韮崎愛羅はマンションの部屋へと引き返した。


夕方には<三途の川>に顔を出そうと思っていた。


韮崎愛羅が珍しく緊張した様子で窓の外を眺めていた。


そしておもむろに、脈絡のない話をし始めた。


「何で神様って信じられているのかしら?」


「なに?」


「誰も見たことがないのにね」


「人間は弱い生き物だからじゃないの?すがり付ける対象を己のうちに創り出して、慰めにしたとか。それがやがて他人の共感も集めて広がった」


「それでいつしか共通の認識となった、か。人間だけが神様を信じる。本当は、そんな存在は幻でしかないのに」


韮崎愛羅がそう断定したところに引っ掛かった。


「いないの?」


「いないわよ。少なくとも、この世界にはね」


「この世界…。別の世界って、あるの?」


「ある。けれど八式くんたちには認識できないし、理解することも無理なの。私がここで、八式くんにわかるように言葉で伝えるのも不可能な領域」


「…ふうん。納得し難い話だな」


「私には、人間が理解する事象の殆どの範囲に干渉できる能力がある。もし神様と呼べるような何かを規定するならば、私なんじゃないかな」


さらっと物凄いことを言ってのけた。


妖魔である<骸神>が神様だとは、どんな悪い冗談だ。


「君より上位の視点で者を見聞きしている存在がいるとしたら?おれたちが<骸神>の能力をまるで理解できないのと同じように」


「少なくとも、この宇宙の開闢から終末までをシミュレートできる私より上位の概念が存在したら、相当な矛盾が起こりそうなものだけどね」


韮崎愛羅が何をどこまで出来るのかは気になるが、あまりに恐ろしくて回答は知りたくなかった。


…確か、終末までをシミュレートできる、と言った。


少しだけ、頭の中で電極が繋がった気がした。


彼女が唐突に語り始めた内容は、おれに何かしらの警鐘を鳴らしていたのではないか。


差し当たりの脅威は…獣魔退治に赴いた、中臣静。


「なあ…姉さん、無事に帰って来ると思うか?」


おれの質問に、韮崎愛羅は窓を向いたまましばらく何も答えなかった。


やがて振り返って、無表情に言った。


「無事に帰って、来ない」


§中臣静§

おれは電車に乗って中臣静を追いかけていた。


<ミョルニル>の入ったラクロスケースを吊るし、コートの内ポケットには対妖呪符を装備している。


遅れること45分。


戦場は韮崎愛羅から聞き出していたので、後は到着を急ぐだけだ。


出掛けに韮崎愛羅が言ってきたのは、「八式くんがどう振る舞っても、多分お姉さんは助からない。少ない改変可能性があるとしたら、すぐに戦闘を放棄することだけよ」ということ。


つまり、獣魔の連中とは戦うな、ということか。


上等だ。


中臣静を引きずってでも連れ出すと決めた。


携帯電話が着信に震えた。


伊織玲子からだった。


「もしもし?曲宮君?静さん、もう作戦に参加しちゃった?電話が繋がらなくて…」


おれは45分前に出発済みだと説明した。


事前に聞いている作戦開始時刻は、とうに過ぎている。


「そっちは順調なのか?」


「曲宮君、すぐに静さんを追い掛けて!獣魔に待ち伏せされてる可能性が高いの…」


「待ち伏せ?」


「そう。こっちも影女に作戦を察知されていたみたいで…手痛い反撃を受けたわ。殉職者も出てる…」


「そういうことか…」


韮崎愛羅は細かい状況は教えてくれなかった。


ただ、今の伊織玲子の話を鵜呑みにするならば、<九王会>の作戦情報が妖魔に漏れていて、奇襲への対策を講じられたということだ。


「いま向かってる。もう少しで着くよ。姉さんは、おれが助ける」


「曲宮君、ごめんね…。私が静さんを巻き込んでしまって…」


「謝る必要は全くない。姉さんも妖殺屋だ。何より、まだ作戦が失敗したと決まったわけじゃない」


おれは最後の言葉を自分にも言い聞かせた。


***


都内某所、撤退したテーマパーク跡地におれは足を踏み入れた。


敷地内遠方から銃声や爆発音が微かに聞こえてくる。


入り口ゲートやアトラクションは長い年月を風雨に晒されたようで、あちこちが剥げたり錆び朽ちていた。


足下、コンクリートに広がるひび割れなど、一見して妖魔との戦闘による破壊の跡かどうか見分けはつかなかった。


おれは<ミョルニル>に銀弾を装填して、敷地の奥へと進んでいった。


目の前で轟音を立てて、ジェットコースターのレールが崩れ落ちた。


もうもうと舞い上がる粉塵の中、ひとつの影が目に留まった。


そのシルエットは四つ足の獣のそれで、おれは獣魔と判断して<ミョルニル>の引き金を引いた。


弾が影を貫き、ややもして<聖石>と思われる小さい物体が転がるのが見えた。


それには拘らず、おれは周囲を警戒しながら中臣静を捜す。


またも銃声がし、その方角へと向かってみた。


<九王会>の戦闘員と思しきダークスーツの男が、狼の頭を持つ筋骨隆々の大男に拳銃を連射していた。


その獣魔は狼男の類いで、堅固な肉体を持つことで知られている。


銀の兵器とは言え、拳銃の威力では傷をつけることは難しいように見えた。


おれは中距離から獣魔の頭部に狙いをつけた。


必中の一撃は、狼面を消し飛ばした。


呆気に取られていたダークスーツがおれに気付き、近寄ってきて礼を言った。


その顔には見覚えがあり、確か日下部や熊田の下の若手局員であった。


向こうもおれに気付いたようだ。


「作戦はどうなっている?」


「それが…いつの間にか獣魔に包囲されていて…。みな各個で戦って、散り散りになってしまった…」


伊織玲子の話は正しかったようだ。


だが、獣魔に人間に対抗できるだけの知性があるとは認め難かった。


<骸神>ではないが、何か強大な存在がこの場で獣魔の指揮を執っている可能性はないだろうか。


ダークスーツに作戦配置図を見せてもらい、中臣静の移動範囲を推定した。


作戦指揮官たる衛藤係長や、日下部らとは連絡がとれないそうで、ダークスーツこと春山はおれに付いてきた。



そこは激戦地であった。


視界の方々でアトラクション施設が連鎖的に爆発し、目を凝らして見ると、一匹の獣魔が高速移動でところ構わず体当たりをかましているとわかった。


恐怖を覚える程の速度と威力だ。


見えているだけで、2人の妖殺屋が倒れて絶命している。


「…ば、化け物め」


春山が狼狽を見せる。


おれは物陰に隠れて、高速でぶちかましを続ける獣魔と一定の距離をとりながら迂回経路を探った。


「スピードスター、そこに2人隠れているぞ」


その声は大きく、野太かった。


おれと春山は、カフェテリアの柱の陰に隠れながら声の主を捜す。


高速移動を繰り返していた獣魔がピタリと止まり、山羊のような全身が判明した。


山羊を赤黒く、2回り程巨大化させたこの獣魔がスピードスターなのだろう。


遠目にも、おれたちの位置を測るため立ち止まっていると分かる。


「逃げるぞ」


おれは小声で春山に告げた。


春山が小さく頷く。


「スピードスター、カフェの柱の後ろだ。辺りをぶちかませ」


またも野太い声が響いた。


そして、視界いっぱいに閃光が広がった。


おれは反射的に春山を突き飛ばして、自分も地面に転がるようにしてその場を離れた。


おれたちが一瞬前まで隠れていたで地点で爆発が起こった。


<ミョルニル>を向ける余裕もなく、おれはがむしゃらに走って距離を稼ぐ。


信じられない速さだった。


背後でもう一発炸裂したので、春山の安否が気になり振り返った。


そこに見えたのは、銀の鎖に絡めとられたスピードスターの姿であった。


その鎖を辿った先に、<九王会>の衛藤係長が仁王立ちしていた。


袴姿で薙刀を構えた中臣静も飛び込んできた。


「姉さん!」


「えっ!八っちゃん?何でいるの!」


「話は後で!取り敢えず逃げるよ」


「いや、逃がさない」


3度目の野太い声が、半ば瓦礫と化したメリーゴーランドの上から聞こえた。


ダウンジャケットにニット帽という出で立ちの、肩幅の広い青年がそこにいた。


「そこの獣魔に指示を出していたのは、お前だな?」


おれはスピードスターや中臣静から気を逸らさずに、数歩近付いて頭上の青年に問い質した。


おれの言葉で衛藤係長と中臣静も察したようで、警戒を露にする。


「そう。こういうことも出来る」


青年が指笛を吹いた。


咆哮と共に、四つ足や獣人といった獣魔が集まってくるのが感じ取れた。


「来るぞ!日下部、春山、散開しろ」


衛藤係長が指示を出すと、何処からか日下部が姿を見せ、「何だ小僧、勝手に付いてきやがって」とおれに毒づいた。


日下部は銀製の警棒を構えて、春山に配置の指示を出した。


衛藤係長はスピードスターを鎖でふん縛ったまま、もう片手で腰の銃を抜く。


中臣静が駆け寄ってきたので、「姉さん、おれはあいつをやるから、頃合いを見て離脱して」と有無を言わさず告げ、青年に向き合った。


「見たところ人間のようだが…覚悟しろ!」


「何をだ?」


<ミョルニル>を構えるや、青年がメリーゴーランドの屋根からそのまま飛び降りてきた。


着地と同時に真っ直ぐに向かってきたので、発砲した。


着弾し、青年を後方へ吹き飛ばしはしたが、これはおかしい。


<ミョルニル>は妖魔の強靭な肉体をすら爆散させる威力を持つ。


見た目ただの人間にしか見えない青年だが、弾が命中しただけで肉体的損壊はなかったように見えた。


それが証拠に青年は瓦礫を掻き分けて普通に起き上がった。


おれは追撃にと引き金を引き続けた。


次の着弾は青年を数歩後退りさせ、その次は顔面に当たったものの、踏みとどまられた。


そして青年が凄みのある笑みを浮かべ、素手で右手を振るった。


「!」


危険を感じ、横にステップすると、コートの端をざっくりと切られた。


ヒュウという風切り音が耳に残った。


何かを投げたのか。


反撃にと銃撃を見舞うも、今度はうまく避けられ、再び何も持たない青年の右手が閃いた。


見えないので直感だけで地を転がったのだが、左の二の腕をざっくりと切られた。


出血で腕が重くなるのがわかった。


血止めをしたかったが気を抜く余裕もなく、<ミョルニル>による攻撃を畳み掛けた。


「どうりゃあああああ!」


不意に青年の背後に現れた熊田が、気合いののった奇襲の一太刀を浴びせた。


銀の刀が少しだけ青年の背に傷を付けたようで、足元がふらつくのが見えた。


「曲宮!今のうちに手当てしろ」


叫んで、熊田がニ之太刀、三之太刀と繰り出していく。


おれは手早く懐から取り出した革紐で肩口をきつく縛り、止血を措置した。


左腕はほとんど使い物にならず、右手のみで<ミョルニル>を構えて熊田の援護にと銃撃を続行する。


しかし、すぐに熊田も青年の右手に裂かれて倒れ伏した。


片腕で、銃撃の命中精度も明らかに落ちている。


万事休すか…。


中臣静が横から青年に躍りかかった。


薙刀のひと振りが青年を弾き飛ばす。


「姉さん!駄目だ、逃げて!」」


「ここは任せて!八っちゃんは、衛藤係長たちの援護!早く」


中臣静が物凄い剣幕で捲し立て、振りかぶろうとした青年の右腕を薙刀で払う。


この様では中臣静を引きずり出すことも叶わず、仕方無しに<ミョルニル>を構えて<九王会>と交戦中の獣魔どもに狙いを定めた。


***


10匹は吹き飛ばしただろうか。


すでに体全体が重く感じられたものの、見渡せる範囲内の獣魔は駆逐した。


衛藤係長や日下部、春山ら<九王会>の面々と合流し、例の青年を取り囲む。


ぼろぼろになった中臣静が、青い顔をしておれたちを認めた。


袴のあちこちが切り裂かれて、血や泥にまみれていた。


「姉さん!後はおれたちがやるから、下がるんだ」


「中臣君、彼の言う通りだ。ここは<九王会>に任せてくれ」


衛藤係長がおれの意見を支持した。


微かに笑みを浮かべ、中臣静がゆっくりと後ろに倒れ込んだ。


「姉さん!」


「はっはっは。彼女もゲームオーバーだ」


言った青年に向けて、<ミョルニル>を撃ち込む。


日下部が警棒を手に走り出し、衛藤係長は鎖を回しながら挟み撃ちの陣形を目指した。


春山ら局員たちはおれと同じく距離をとって銃撃を加えた。


「奴の右手はかまいたちを起こすぞ!」


おれは全員に向けて忠告の声を上げた。


おれの左腕を裂き、熊田を沈めた一撃は、鋭い空気の刃であった。


日下部の打撃攻勢に怯まず、男は右手を振るった。


おれの隣の局員が頭を割られて倒れる。


「右手を狙え!」


春山が叫んで局員らは右手に照準を定めたようだが、日下部が接近戦を挑んでいるので下手に発砲できないでいた。


衛藤係長も何度か銀の鎖を投下してはいたものの、青年に足さばきで回避される。


<ミョルニル>の一撃が青年の胸元を直撃した。


「…なかなかやる」


青年は3メートル程度押されただけで、平然と言ってのけた。


おれの心中を絶望が支配しかけた。


どうすればやつに有効打を与えることが出来るのか…。


「…ここまでか。まあいい」


青年が唐突に言って、身を翻した。


青年の背中が視界から消え失せてすぐ、おれは中臣静の元へと駆け寄った。


<九王会>の面々は、熊田ら倒れている仲間の元へと急いだ。


「姉さん!姉さん?」


「…大丈夫。多分。八っちゃん、左腕、早く手当てしないと…」


中臣静は意識があり、あちこち探ったが致命的な怪我はないように見えた。


そして、団体が到着した。


青年が撤退した理由はこれだったのだろう。


韮崎愛羅を先頭に、宍戸さんと見知った熟練の妖殺屋が5人ほど顔を連ねていた。


「彼女に必死に頼まれてね。援軍を送らないと、<九王会>もろとも全滅だと」


「宍戸先輩…助かりました」


衛藤係長が宍戸さんに頭を下げた。


彼のスーツも所々破れて汚れており、宍戸さんは苦戦を悟ったようだ。


「…大分やられたようだね。衛藤君、敵は何者だ?」


「…わかりません。容貌は普通の青年でしたが、耐久力や特殊能力は人間のレベルを遥かに上回ってました。知能も高いようですし、何より獣魔に指示を出していた点が奇怪です」


韮崎愛羅は救急箱を持参していて、おれの左腕や中臣静の傷にてきぱきと処置を施していった。


「愛羅…助かったよ」


「八式くんを行かせたものの、居ても立ってもいられなくて」


「…今回は、もう駄目かと思った」


韮崎愛羅は黙って頷いて、<九王会>の負傷者の治療へと向かった。


中臣静がおれの裾を引っ張って小さな声で言った。


「彼女が八っちゃんをここに寄越したのね?」


「…うん。霊感みたいのが強い子でさ。姉さんが危ないって」


「…愛羅ちゃん、大事になさいね。私と八っちゃんの、命の恩人なんだから」


「そうだね」


常日頃から戦闘には介入しないと言っていた韮崎愛羅だが、どういう風の吹き回しなのか。


結果的に中臣静の命が助かったのだから、おれとしては不満はない。


残ったのは、獣魔を指揮していた謎の青年と、長野とここで起きた作戦情報の漏洩という2点の疑問。



しばらくして<九王会>の車が到着し、負傷者はそのまま病院へと運ばれることになった。


おれと中臣静もいっしょくたに乗せられて、韮崎愛羅と再び別れた。


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