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第6章 夢幻を想う

第6章 夢幻を想う

§妖殺屋対妖殺屋

「八式くん…」


「…愛羅」


空中に浮遊したままの韮崎愛羅と言葉を交わした。


「銃を直してくれたろう?」


「戦闘には干渉するつもりはなかったのだけれど。つい、ね」


「そうか。今日も手酷くやられててね。後で手当てを頼むよ」


「…そうね。私がいなくなったら、無茶はしないように」


「…しばらく黙っていて」


おれは韮崎愛羅に近付いて、彼女の真下あたりで仲間たちを振り返って宣言した。


「おれは彼女とは戦わない。そして、彼女に敵対する者とは刃を交える覚悟がある」


衛藤に支えられて上半身だけを起こした東雲瑠美が、苦しそうに咳き込んで応じる。


「曲宮君。韮崎さんの身体の寿命はあと僅かです。自分の身体がそうなので、私には分かるのです。普通は肉体が滅べばそれでお仕舞いですが、彼女は異なります。<不死の女王>は、次の宿主を探すだけ。そうされれば、<骸神>たる彼女を倒す術は失われる。今しか、今しか韮崎愛羅さんに打ち勝つ機会はありません」


衛藤が銀の鎖を携えて前に出た。


「曲宮。すぐにここアガルタ中に設営してある対妖魔装備が火を噴く。消し炭になりたくなかったら、こちらに戻れ」


これはあくまで推測になるが、機械兵器の類いは韮崎愛羅の防御を突破できない。


そうすると彼女の核を狙った直接戦闘に移行するはずで、おれはその対処に専念すればいい。


韮崎愛羅を見上げると、厳しい表情のままコクリと頷いた。


「何と言われようと、おれは説を曲げない」


韮崎愛羅のそばにいるだけで、力の欠片も残っていないはずの身体が自然と動く。


おれは<死線>で広範囲に戦陣を張った。


東雲瑠美がよろけながら立ち上がる。


衛藤は東雲瑠美を支えつつ、中臣静へと静かに依頼した。


「<不死の女王>を撃破するには、彼の排除が必要だ。人類存続のため、あなたに協力を要請する」


中臣静は衛藤を見ずにただおれの瞳を強烈に射ていた。


「…静さん、どうします?」


朝霞恭平が中臣静へと伺いをたてた。


高柳蓮や天星姫城、屍らは展開についていけずにただ茫然としていた。


銀の薙刀がビュウと空を切り、中臣静が切り込んでくる構えを見せた。


「恭平君。<不死の女王>を討ちとるわよ」


中臣静の言に反応して、<色男>が何かを決した表情を見せた。


小太刀二刀を抜いて目を鋭く光らせる。


「蓮!屍!やるぞ。ここで<骸神>を2匹片付けたとなりゃ、胸はって西に凱旋できるってもんだ」


「…色欲に負けたとしか見えないのは、人徳がないからかしら…」


「…こうも続けて強者と戦う機会に恵まれるとはな」


高柳蓮と屍がそれぞれ銀の兵器を振って動き出した。


「天星の家の名誉を回復するいい機会です。私は、曲宮様を狙わずに<不死の女王>を斬り伏せてみせますわ」


天星姫城が<草薙>の鞘を払った。


高柳蓮が「私は、って何を当て付けがましく言っちゃってんのよ、この男狂いが!元々そのつもりよ…」と声をあらげる。


「来るわ」


「了解。機械兵器は頼むよ。後はやるから」


韮崎愛羅の警告に答えた。


「何をやるって?ガンマン!」


<色男>が小太刀二刀を引っ提げて眼前に迫った。


韮崎愛羅を目指す中臣静と屍の前進する姿も視界に入った。


高柳蓮や衛藤係長は恐らく中射程から仕掛けてくるだろう。


天星姫城の必殺の剣や瀕死の東雲瑠美の奇襲にも注意せねばならない。


…思えば、たいした仲間たちだった。


だが、むざむざ韮崎愛羅を討たせるつもりはなく、全員を撃退する腹はもう決まっていた。


おれの魂の充実が<死線>に伝わっている気がする。


伊織玲子よ…もう少しだけ、勝手に力を借りるぞ。


中空に浮かぶ韮崎愛羅さえも包含するエリアを、銀糸で網目状に覆い尽くした。


そうして手早く<ミョルニル>も構える。


朝霞恭平の小太刀は銀線と切り結び、一進一退を繰り広げた。


屍の銀棒を<ミョルニル>の一射で弾き飛ばす。


中臣静の薙刀が銀線を払いにかかるが、その刀身を絡めとるように巻いて翻弄した。


銀の鎖と<銀鞭>による攻撃は<死線>の防御陣で防ぎ続ける。


アガルタの地表のあちこちから砲弾や銃弾、果ては杭や銛まで、あらゆる飛び道具が韮崎愛羅へと押し寄せた。


<色男>や天星姫城、東雲瑠美らに気を配りながら、上方の守りに意識を向ける。


万が一、韮崎愛羅の防御が破られるようなら、<死線>の網目をより微細に編み直してカバーする覚悟があった。


「愛羅!」


頭上で起こった現象はかつておれが体験し、いまここで起こりうると期待したそのままの有り様であった。


全ての攻撃は韮崎愛羅に到達するすんでのところで光の波紋に阻まれて消えた。


数百数千の波紋が生まれ、光を周囲に溢れさせる。


おれは衛藤と高柳蓮の武器を狙って射撃を続け、銀の棒を失った屍を捕縛陣で締め上げた。


それを救出にきた天星姫城には首をはねる気概でもってあたり、中臣静と朝霞恭平にはトリッキーな戦陣で挑み、その強大な攻撃をいなすことに専念する。


背後からドサッという音がして、韮崎愛羅が落ちてきたのだと知り、おれは一転攻め手を強めた。


「寝てろ!」


銀糸の縦列陣を畳み掛ける。


「八式よ…腕を上げやがったな!くそっ」


朝霞恭平の小太刀を払い落として縛り上げた。


中臣静を虜にする間に、高柳蓮と衛藤を銃撃して後退させた。


東雲瑠美に動く気配はなく、天星姫城は何を思ってか<草薙>を下げたので攻撃対象から外した。


「愛羅!どうした?」


抱き起こすと、韮崎愛羅の顔色は東雲瑠美と同じように真っ青で、全身に震えが生じていた。


「…そろそろ限界みたい」


「馬鹿を言うな!いつもの余裕はどうした?現象に干渉すればいいだろう」


「…原因が、東雲瑠美さんの言った通り鬼の首の消失にあるから…。折角<首無し鬼>を倒したのだし、八式くんの戦果を取り上げるわけにはいかない…」


「<首無し鬼>を倒せばこうなると、分かっていたんだな?」


「<不死の女王>としての私には影響はない。でも、いまの身体を構成しているのは影女と人のハイブリッド・チルドレン、韮崎。…もし身体が失われれば、いままで八式くんと接してきた私の性格や思想、外見といった全ての要素は消えてなくなる。…記憶すら、どこまで残るかわからない。<不死の女王>が私の根源な以上、また別の誰かに寄生することは出来る。でも、ハイブリッド・チルドレン且つ女性という条件が揃わなければ、愛羅というこうも安定した人格を作ることは出来なかったはず。…次の私は、きっと八式くんや人間に優しく相対することはない。永いことそうしてきたように、無関心に妖魔を生み出し続けていくのでしょうね…」


「愛羅…」


背後から東雲瑠美と天星姫城が詰めてくるのがわかった。


「…曲宮君、幕引きです」


東雲瑠美が言って近付いてきたので、おれは警告を伝えた。


「あと一歩でも近付いたら、全員縛り上げます」


悲しい顔を見せ、「では、<流星>で応対しましょう」と言って、東雲瑠美はそのまま歩を進めた。


おれは<死線>をフルパワーで展開して東雲瑠美と天星姫城を封じ込め、<ミョルニル>で高柳蓮と衛藤を視界から外に追い出した。


東雲瑠美は身動ぎせずおれを睨み、呼吸を荒くしていた。


「曲宮様…<不死の女王>を見逃すのですか?」


手足を緊縛された天星姫城が泣きそうな顔をして呼びかけてきた。


おれは<ミョルニル>を放って、懐から銀のナイフを取り出す。


そうして韮崎愛羅と向き合った。


「八式くん…」


「愛羅。妖殺屋は全員退けたよ」


「うん」


「君にとどめを刺すとしたら、それはおれでなくてはならなかった」


「…うん」


「…全てが、またやり直せるなら、こうしたくはなかった」


「…それは無理。例えばこの容姿は韮崎と私が合わさって形成されたものだし、性格や嗜好もそう。記憶も、<不死の女王>には必要ないもの…」


「そうだよな」


「そうよ。たまたま韮崎の身体に宿って、偶然ここであなたを見かけて。奇跡が起きて、あなたに恋した。普通に学生同士として、あなたと恋愛をしてみたかった。…普通とは言えなかったかもしれないけれど、毎日楽しかった」


「ああ。楽しかったな」


「さようなら。全て忘れて」


「さよなら」


屈んで韮崎愛羅を抱き起こして、その胸を銀のナイフで刺し貫いた。


核を断った手応えがあり、悪霊に似たおぞましい影が悲鳴ににた金切り声をあげながら韮崎愛羅の身体から立ち昇った。


そうして、影は瞬時に<聖石>へと変じて、粉々に砕け散った。


脱け殻となった韮崎愛羅の身体は、半人半妖の定めか他のハイブリッド・チルドレンの末路と同様<聖石>に成り変わっていた。


おれはその表面を優しく撫でて最期の別れとした。


「忘れるには、時間がかかりそうだよ」


§兵どもが夢の跡§

<死線>を解除して東雲瑠美の元へと急いだ。


すでに下半身が<聖石>化していて、死にかけていると分かる。


上半身を抱き起こすと、東雲瑠美がにこりと笑った。


「曲宮君、愛羅さんとは違って私には酷い仕打ちでした」


「…面目ない」


「ふふ。デート出来なかったのは残念でしたが、最期を殿方の腕の中で迎えられるとは。…私も愛羅さんも、なかなか良い人生だったのかもしれませんね」


「…あの晩、愛羅とは電話で何を?」


<聖石>化は東雲瑠美の首まで進んできており、さすがに苦悶の表情が浮かんでいた。


「…秘密です。ただ色恋について語っただけですから。ああ…」


「東雲さん!」


東雲瑠美の全身が輝く石となり、おれはそっと地に下ろしてやった。


朝霞恭平や衛藤係長らが周囲を取り囲んでいた。


「…すまなかったな。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ」


魂が抜けたような心持ちで、皆に向けて言った。


<首無し鬼>と<不死の女王>を打倒した。


そして韮崎愛羅と東雲瑠美を失った。


精一杯、できるだけのことはしたつもりで、おれという個は昇華したのかもしれない。


残されたおれは、ただの空虚な器でしかなかった。


「なに言ってやがる。<骸神>を2匹も殺っておいて、まさか退場する気じゃねえだろうな」


朝霞恭平がおれの襟首を掴んで無理矢理立たせた。


「八っちゃん、大丈夫?怪我が酷いわ…」


中臣静が心配して、懐から取り出した包帯でおれの身体のあちこちをぐるぐる巻きにしていく。


「ご苦労だった、曲宮。東雲副局長も天でさぞかしご満足されていることだろう」


言って、衛藤は東雲瑠美の形をした<聖石>に手を合わせた。


「…やはり真の強者だったな」


屍がにやりと笑みを寄越す。


「曲宮様。私は最後まで信じておりました。<骸神>退治の功績おめでとうございます。これで曲宮様が天星を継いでも、誰も文句は申しますまい」


「何で曲宮さんがあんたの家に嫁ぐことになってんのよ!…逃がすのですか、とか泣き叫んでた馬鹿は一体どこのどいつ?」


天星姫城と高柳蓮が恒例となりつつある漫才を始めた。


おれは天を仰ぎ、そこに広がる青空をただ眺めた。


アガルタ周辺で白昼堂々行われた<九王会>と妖魔の大群の戦闘は、人類側の勝利に終わった。


殉職・重体が複数出はしたものの、集められた<聖石>は数百をも数えた。


共に戦った西の妖殺屋たちはすぐさま帰っていった。


三堀家の三千院氏らが匿っていたであろうハイブリッド・チルドレンの002鬼頭も、鬼の首が失われた今生きてはいまい。


九王家の勢力図は混沌としているはずで、彼らは家を守るため、その渦中に飛び込まざるを得なかったのだ。


西は当分騒々しくなるだろう。


<九王会>とて再建途上で更なる犠牲者を出し、あまつさえ守護と決戦存在という両輪を同時に喪失していた。


残された衛藤係長らに託された使命は果てしなく重かった。


後々熊田に聞いた話では、<首無し鬼>との対決前におれに長野の影女を征伐させたのは、東雲瑠美の独断だったらしい。


なんでも彼女は、おれたちが到着する前に己のみで<首無し鬼>を打倒する気で臨んだとのことだ。


東雲瑠美らしいと言えばらしかった。


***


おれが<九王会>の審問を待つ間、中臣静は池袋のマンションに住み込んで、あれこれと世話を焼いた。


<色男>が聞いたら発狂するに違いないが、一度は背中を流そうとすらしたものだ。


<骸神>の1匹と暮らしていた事実を政府筋がどう捉えるか。


そのための<九王会>の審問だった。


おれには最早何も隠しだてする気概はない。


中臣静に喝を入れられた気もするが、言われるがままに審問の場に赴いた。


「曲宮八式。立ちたまえ」


霞ヶ関の政府庁舎の一室に連れていかれ、10人程のスーツ姿を前に起立した。


口の字型に配置されたテーブルの一辺におれが1人。


左右にスーツ姿が3人ずつと正面に4人が陣取っていた。


左の3人の中に衛藤係長の顔を認めたが、取り立てて思うことはなかった。


「時間もないことだし。早速審問を始める。曲宮八式。22歳、男。フリーの妖殺屋。コードは…」


正面に座る壮年の眼鏡をかけた男がおれのプロフィールを読み進めた。


「…中臣家に師事し、一門に名を連ねる。<408管理局>の報告によれば、妖殺実績の貢献は大にして特に面倒ごとを起こした記録もなし、と。ふむ」


一同の視線が集まる。


「君が<不死の女王>と共同生活を始めたきっかけも脅されていた事実も、全て<九王会>からの報告で聞いている。そこで尋ねたい。東雲瑠美副局長と連携をとるなりして、早期に対処することは出来なかったのかね?」


「…東京の全ての人間を見殺しにする覚悟があれば、出来たかもしれませんね」


「<不死の女王>は君に惚れていたのだろう?脅しははったりだとは思わなかったのか?」


「妖魔の心中をはかり知ることなど出来ません。少なくともおれには。彼女は<408管理局>のデータベースや、相手の記憶にまで干渉することが出来ました。反意を見せれば、たちどころに把握されたと推測されます」


別の男が挙手して質問してきた。


「君は上手く立ち回ったつもりだろうが、此度の対<骸神>戦でこの国の対妖魔戦力は壊滅的損害を被ったのだ。<不死の女王>からもう少し有益な情報を搾り取れなかったのか?」


「…東京が受けたダメージの根本原因は、ハイブリッド・チルドレンの暴走、引いては西の暗躍にあると確信してます。おれはハイブリッド・プロジェクトの存在など露知らず、どうして未然に情報を取れたでしょうか」


「それにしても、これだけ長く共に過ごしながら、妖魔の生態系や習性に関する情報を全く引き出していないのはどういうわけだ?」


「妖魔に核とも言える部分があることは突き止めました。あと、<骸神>の有する知性や生命力、圧倒的な能力に関しても」


抑揚をつけずに、頭に浮かんだままを答えた。


初老の男が立ち上がって厳つい声で言った。


「先程から聞いていれば、君は全く謝罪の言葉を述べておらんな。反論大いに結構だが、罪の意識だけは認めたまえ!」


「…なにが罪だと?」


「小僧!増長するのもいい加減にせい!」


議長役の正面の眼鏡の男が「静粛に」と宥めにかかる。


「曲宮八式。言葉には気をつけたまえ。発言は全て記録される。審問委員には敬意を払うように」


言って、男は衛藤を指名した。


「衛藤係長。<九王会>を代表して意見を述べたまえ。彼の罪は償えるレベルのものかどうか」


衛藤はおれを見ずに、起立して一同に礼をする。


「<骸神>の隠匿に第一級の罪を認めます。特別政令によれば、即刻死刑でしょう」




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