僕達と瑠璃と足跡
テレビを消して欲しいと頼んだのはイサキだった。
サトウは少し嫌な顔をしてテレビの電源を落とした。
布団をふた組み敷けば足の踏み場が無くなるほどの広さしかないこの部屋で、僕達は呼吸をしていた。
イサキとサトウと僕。僕の名前はコンドウ。
僕は立ち上がって台所に向かい、冷蔵庫の中からパックに詰まった牛乳を取り出した。
その牛乳はイサキが、この部屋の中で一番気まぐれである住人のために、買ってきた物だった。
僕は牛乳を水色のプラスチックの容器に注いだ。
すると、どこからともなく瑠璃が現れて、そのままつんと立てた尻尾を左右に揺らしながら、ミルクのある方向へと歩み寄った。
僕達がこの部屋で共同生活を初めて3日が経とうとしているのに、机の上の画用紙の白い部分はいっこうに埋まらないでいた。
課題の提出日はあと三日後に迫っている。
サトウは単位を取ることよりも麻雀の腕を上げることに夢中だし、イサキや僕もどうしてか今回は筆が進まないでいた。
イサキがタバコに火を付けるのとほぼ同時に、僕は冷蔵庫からビールを取り出した。
すると、いきなりサトウが立ち上がって瑠璃に近寄り、何を考えたのか瑠璃のミルクを取りあげた。
食事を邪魔された瑠璃はギッとサトウを睨み付けた。
サトウが瑠璃のミルクを手に持ったまま、テーブルの向こうへと移動する。
瑠璃は攻撃的な鳴き声を上げてサトウに真っ直ぐに歩みよった。
やがてテーブルを乗り越えた瑠璃がサトウの足下に置かれたミルクにたどり着く頃、画用紙の上からは一つの作品が生まれようとしていた。
僕らはその絵を「6月の夜の奇跡」と名付け提出した。