三日目前編 事件が起こりました
「おはよう」
この声で起こされるのは三度目だ。
いい加減慣れてきた。でも今日で終わりなんだよな。
俺はベットから起きつつ昨日の事を思い出した。
昨日。
鎌倉観光から帰って来た俺は寝る前、ベットの中で考えた。
きっと、世の中が最悪だったんじゃない。
俺が世界を見つめなかったから、生きにくかったんだ。
そう思い、目を瞑ったとき、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
あの少女か? と思い身を構えたがそこには妹が立っていた。
リビングに行くといつも通りの様子の妹が朝食を食べていた。
食パンをモサモサ食べながら、俺に「おはよう」と言ってくる。
今日は土曜日だ。
妹は「塾あるからマリーちゃんと遊べない!」と昨日、嘆いていた。
昨日の夜。
「私、マリーちゃんと遊びたいから、塾休みたいって言ったんだけど、ママがダメだって」
「そうだろ」
わざわざ俺を起こしてまで言う事か。
そう思いながら、部屋の電気を付けた。
見ると妹の後ろに少女が立っている。
「座るか?」
俺は妹に椅子を勧めたが、妹は「いい」と言って立ったままだった。
俺が妹に勧めた椅子に少女が座った。
「お兄ちゃんの所為で、私、一生懸命勉強しなきゃいけないんだよ」
「は?」
「お兄ちゃんが大学落ちて、だからあんな風になるなってパパに言われた」
「お前失礼じゃね?」
父親に失望されていたのは知っていた。
だけど妹に俺の分の期待を背負わせているなんて。
「でもね、ママが言ってた。お兄ちゃん頑張ってるって。
だから私も頑張ろうと思うんだ」
妹はそう言ってはにかむように笑った。
「じゃあね。おやすみ。パパと仲直りしてね」
そして少女の手をとって部屋から出た。
俺は一人になった部屋の中で、どんどん世界が変わってきた。と思った。
俺が変わるだけで、世界はこんなに変わるんだ。と。
もしかしたら、父親とも仲直り出来るんじゃないかって。
でも、それには時間が無さ過ぎた。
明日、俺は死ぬんだから。
電気を消し、モヤモヤした気分を抱えたままベットに入った。
寝れるわけない。と思ったがいつの間にか寝ていたらしい。
俺の人生は明日の17時45分に終わる。
朝。
妹が塾の時間まで、部屋に勉強しに戻り、母親が買い物に行っている間、俺は少女と話した。
父親は誰よりも早く起きて、会社に行っている。
「なぁ、カミサマっているの」
「いるわ」
少女はテレビを見ながら答えた。ニュースがやっていた。
「お前、死神って言う位なら、お前もカミサマなんだ?」
「私は違う。神様がこの世の全てを作った偉大な方だとすれば一人しかいない」
俺もテレビを見ながら聞く。まるで何でもないハナシのように。
「私は人間の死後を円滑に決めるために存在している。神ではないわ」
「カミサマってどんな人?」
「残酷な方。
自分で作った命同士殺しあうのを見るのが好きなの」
少女はテレビから目を離さず答える。
「弱肉強食?」
俺はふと出てきた言葉を言った。
「そう。生き物は何かを殺してそれを食べ、生きる。
その掟を作ったのはあのお方」
「ふーん」
「多様な宗教や飢えや災害、資源の偏り、それらを作ったのもあのお方」
「ふーん?」
「あの方は人々が殺し合うように、戦争が無くならないようにしているの」
テレビの音が消えたように感じた。
「じゃあ、俺の死後の世界って、そんな奴の下で暮らすのかよ?」
「そうね」
「天国って平和で幸せな世界じゃねえの!?」
俺は目の前がグラグラしてきた。
どんなカミサマだよ。そんなの。意味分かんねえ。
「じゃあ、どうしてみんな、カミサマを信じているんだよ?」
俺は仏教を信じている伯母さんや、キリスト教徒の高校の時のサッカー部の顧問を思い出した。
「さあ、知らないからじゃない?」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
俺が声を出しすぎたのかもしれない。
妹が心配してリビングに降りてきた。
「あ・このビルって!」
妹はテレビを指差して言う。
妹が話しを聞いていなくて良かった。
そんなことを思う前に、俺はニュースに釘付けになった。
「面倒なことになった」
少女がポツリと言った。
『湘南Xビルで今日朝8時頃、女性の飛び降りがありました。
警察は屋上の欄干のボルトが緩んでおり、他殺の可能性も視野に入れ捜査をしています』
俺が死んだ場所で、他の人間が死んだ。
もし三日前、俺が死んだままだったら、この人は死なずにすんだに違いない。
読んでくださってありがとうございました。
今回出てきた「カミサマ」のお話。
不快に思う方もいると思います。
全て私の個人的なお話です。ごめんなさい。
「神は暴力を好む」
映画「シャッターアイランド」に出てきたこのセリフから考えました。
次回で完結予定です。
このまま波に乗って、速やかに終わりたいと思います。
よろしくお願いします。




