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一日目 確実に偽名

朝。俺はいつもと同じ時間に目が覚める。

少し開けた窓から風がそよそよと舞い込み、外から通学中の小学生の声が聞こえる。

カーテンの隙間から日が差し込み、小鳥が囀るさわやかな朝に、掃除機の轟音が聞こえた。

母親からのグータラしている俺への嫌がらせだ。

俺が予備校に通わなくなってから、毎朝、妹と父親が家を出てすぐに母親が掃除機をかける。

時間は8時。

目覚ましの代わりだと割り切っているが、母親からの無言の圧力に抵抗を感じる。

言いたいことがあるならはっきりと言えよ。

まぁどうせ朝寝てないで「仕事探しなさい」か「家を出なさい」だろうけど。


「おはよう」


不意に聞こえた声に驚いた。

ベットから飛び起き、カーテンを開ける。

外に昨日のウエディングドレスの少女が立っていた。



「いきなり部屋に入ったら悪いと思って」

少女は無表情な顔で言う。

昨日のことは家に帰ってからすぐに、夢だと判断した俺は、すっかり頭から彼女の事を消し去っていた。

しかしすぐに思い出した。

コイツ、人から普通に見えるんだった。

さっきから聞こえていた小学生の声は、少女が窓に張り付いていることへの驚きの声だったのだ。

俺は思い切り窓を開けると、少女の腕を掴んで部屋に引きずりこんだ。

そしてカーテンを閉め、小学生たちが一刻も早く忘れてくれるように願いながら、少女に聞いた。

「なんでお前がいるんだよ?」

「私はあなたを監視しなければいけないの」

「だからって窓に張り付くことないじゃないか!」

しかしベランダもない部屋の窓にどうやって張り付いていたのか。

「それより、あなた、死のうなんて考えてないでしょうね」

少女はどうでも良いと言わんばかりに話を変えた。

「昨日も言ったけど、人は二度死ねないんだから、やめてよ。面倒くさい」



俺は着替えて部屋を出た。

母親が買い物に行ったのを見計らい、ドアを開ける。

食パンを二枚焼く。

「お前も食べる?」

と少女に聞いたが、彼女は「いらない」と言った。

遅めの朝食を食べながら、今後のプランを考えた。

「三日後に俺は死ぬんだろ」

「明後日の17時45分」

俺はサクサク食パンを食べる。焼きすぎたようだ。

少女は俺が入れた牛乳を飲んでいる。

「俺はどうやって死ぬんだ?」

「人間が欄干のボルトを緩めたの。人を殺すために」

「俺は殺されたのか」

俺は、俺に恨みを抱くような人物を思い浮かべた。

職場(昨日辞めたから正確には元職場)の人物は浮かばず、出てくるのは母親や父親、そして高校のときのバスケの顧問だった。

「あなたを狙ったんじゃないの。違う人」

「誰?」

「さあ?」

少女は関心が無いように肩を竦めた。

いかにも外国人らしい仕草だった。

「あなたは明後日の午後5時45分に湘南Xビルの屋上で、欄干に背もたれそのまま落ちてもらう」

「死ぬの分かってて、行くのかぁ」

俺はバイト先のビルを思いだす。

そんな名前だったことも知らなかった。

昨日は自殺しようとしていた俺が言うのもなんだが、もっとこう、テンションとタイミングが無ければ自殺なんて出来ねぇよ。と思った。

「あなた、天国に行きたいの?」

少女が聞いた。

「もちろん」

俺は答えた。

こんな地獄のような現代で生き長らえるより、天国で永久にのんびり寝て過ごしたい。

「じゃあ、良い事、頑張って」

「おう」




「で・着いてくるわけか」

「そう」

少女は思った通り、と言うか、やっぱり着いてきた。

俺は良い事するために取り合えずボランティア活動をしようと思い至って、高校の時、ボランティア部の友達に会いに来た。

「誰? その子」

高校時代ボランティア部で三年間同じクラスだった友子は、開口一番少女を訝しそうに見て、俺に聞いた。

「親戚」

俺はとっさに答えた。

「何人よ?」

友子はそれでも納得がいかないようだ。

当たり前だ。

金髪、青い目、白いウエディングドレス。

日本人顔の俺の親戚のわけがない。

「親戚の、友達」

俺は答えた。

少女が言った。

「マリリン・モンローです。マリーって呼んで」

複雑そうに笑った友子に聞こえないように俺は少女に言った。

「お前、よく真顔でそんなこと言えるよな」



友子が紹介してくれた。

というより、友子が今日訪れる予定だった老人ホームに俺たちも着いて行った。

少女(本人曰くマリリン)はマリーの愛称で老人達や介護師さんから可愛がられた。

フランス人形みたいだもんな。

少女はやはりどこに行っても無表情だったが。


「ねぇ、マリーって笑わないじゃない?

 何かあったのかしら?」

優しそうな小さいおばあさんが俺に声を掛けた。

何をしていいか分からなかった俺は、カラオケのオリエンテーションの間中、隅っこで小さくなっていた。

「さあ、分かりません」

俺は死神だからです。と言いたいような気がしたが堪えた。

「あなた、ご親戚でしょう」

「ええ、まあ」

「偉いわねぇ。色んなところに連れて行ってあげなさい。

 そうすればマリーも心を開いてくれるわ」

「ええ、はい」

無理だと思う。

そもそも心とか多分アイツには無いし、そもそもマリーじゃ無いし。

て言うか、俺が良い事するために訪れた場所で、アイツが目立っててもしょうがない。

という事に気がついた。



「ありがとう、また来てね」

老人ホームを出るとたくさんの人にそう言われた。

人々はみんな笑顔で、俺が彼らを笑顔にしたのなら、良い事をしたことになる。

俺が天国へ行くための「良い事」。

しかし「ありがとう」の大半は少女に言っているようだった。


駅まで友子と三人で歩いた。

友子は随分少女と打ち解けたようだった。

「マリーちゃんは素敵なドレスを着ているね」

「そう?」

少女は何処までも無表情だ。

「もしかしてウエディングドレス?」

友子はめげずに言う。

「俺もウエディングドレスだと思ってた。」

俺も話しに加わってみた。

少女は考えるように間を置いたあと、言った。

「寝巻き。ネグリジェ」


俺と友子は顔を見合わせ、そして笑った。


「また呼ぶね!」

駅での別れぎわ、友子はそう言って手を振った。

俺と友子はいい友人だと思う。

そう言えば彼氏とは上手くいってるのだろうか。

一年の時に付き合って、すぐに分かれ、卒業間近に再び付き合ったと聞いている。

「じゃあな」

と俺も軽く手を振った。

隣にいた少女が俺の手を握って言った。

「もう会えないわ。もう死んだんだから」

俺は聞かなかったことにした。

読んでくださってありがとうございます。

全部で5話ぐらいに収めたいと思っています。

感想・誤字脱字のご指摘・ご意見、宜しければください。


主人公の名前、「ユウ」にしたけど未だ誰からも呼ばれていない……

次回こそ、誰か呼んであげて!!

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