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枯れたおっさんシリーズ

天才リシュンは全てを理解する、はずだった

掲載日:2026/04/30

本作は、本編第26話および第28話の出来事をもとに、

リシュン視点で再構成した短編です。


砦での出来事を、彼なりに「理解」した結果、

少しだけ(あるいは盛大に)解釈が飛躍しております。


本編をお読みの方は「あのシーンか」と、

未読の方は一つのエピソードとしてお楽しみください。

ユージア国の酒場は、いつも通り賑わっていた。


杯がぶつかる音と笑い声が、絶え間なく響いている。


その一角――


「だから言っているでしょお!ユージ様はぁ、もっとぉ、ご自分の立場を――!」


「はいはい、わかったわかった」


ナーチャンの説教に、ユージが適当に相槌を打つ。


「おい誰か、この酔っ払いをなんとかしてくれ」


「酔ってなんかいませんよぉ!わたしはぁ、ユージさまのことを心配して言ってるんですぅ」


ある意味でいつものナーチャンだ。


その横で、


「おかわり」


「まだ飲むのか、お前ら……」


神楽耶とタケシトが、涼しい顔で杯を空けていた。


――その少し離れた席。


リシュンとアルノルトが、向かい合っていた。


「ユージ様の良くわからない凄さは、確かに誰もが認めるところです」


アルノルトが静かに言う。


「ですが正直に言えば、私にはあなたの方が優れているように見えるのです」


リシュンは小さく笑った。


「いや、俺なんかあの人の足元にも及ばんよ」


「どうしてですか」


「……それを言うならな」


一拍。


「俺は、あの人に“完全に負けた”ことがある」


アルノルトの目がわずかに細まる。


「負けた……?」


「ああ」


リシュンは杯を傾けた。


「砦での話だ」


⸻


◆回想


「――誤作動したら怖いよな」


ユージの、何気ない一言。


それだけだった。


だが、その瞬間。


リシュンの中で、すべてが繋がった。


(フェイルセーフ……!)


壊れた時、どう壊れるか。


最悪の事態を想定し、被害を制御する設計思想。


それを、あの男は――


何気なく、口にした。


⸻


さらに翌日。


魔王軍の大軍が現れた。


砦の上に、緊張が走る。


誰もが「来る」と分かっていたが、誰もが「止められない」とも思っていた。


その時、砦に現れたのは――


巨大な“砲”。


いや、正確には。


幻影だった。


だが、それはあまりにも“本物”だった。


空気を震わせる光。


収束するエネルギー。


発射寸前で止まる、あの一瞬。


――そして。


魔王軍は、撤退した。


⸻


◆現在


「……あの時、確信した」


リシュンが静かに言う。


「リーダーは、“撃たなかった”んじゃない」


アルノルトが問い返す。


「……違うのですか?」


「違う」


リシュンは首を振る。


「撃てる状態を“見せた上で、止めた”」


一拍。


「つまり――抑止だ」


アルノルトの表情が引き締まる。


「なるほど……」


「だが、それだけじゃない」


リシュンの声が低くなる。


「幻影を使った」


「コスト削減……では?」


「違う」


即答だった。


「“本物かどうか分からない状態”を作ったんだ」


アルノルトが息を呑む。


「……確証を持たせない」


「そうだ」


リシュンは頷く。


「相手は“最悪”を想定するしかなくなる」


「結果――動けない」


一拍。


「完璧な心理戦だ」


沈黙。


酒場の喧騒が、遠く感じられる。


「そして、あの時――」


リシュンはゆっくりと目を閉じた。


「リーダーは、こう言った」


『砦の諸君。心して聞いて欲しい。

星さえ滅ぼしかねない力……

我々は、禁断のメギドの火を手に入れてしまったのだろうか……

いや、今は思うまい

これが試しであるならば、我々はその行動で、良き道を示していくだけなのだ。

抜錨!

ヤマット発進!』


「なんですかその思春期の男の子の心を惑わすセリフは!」


「だろう?」


リシュンは続ける。


「本人は、それを“偶然”のように振る舞っている」


アルノルトが、ゆっくりと言う。


「……無自覚を装っている?」


「そうだ」


リシュンは迷いなく頷いた。


「意図を隠すための構造だ」


アルノルトの指が、わずかに震える。


「……そこまで」


「当然だ」


リシュンは静かに言った。


「偶然で、あそこまで揃うものか」


一拍。


「揃った時点で、それは“設計”だ」


長い沈黙。


アルノルトが、ぽつりと呟く。


「……では、あの方は」


「最初から戦う気などなかった」


リシュンは言い切った。


「和平に盤面を動かすための一手だ」


⸻


「何の話してんの?」


間の抜けた声が割り込む。


ユージだった。


「いや、ちょっと昔話をな」


リシュンが答える。


「砦の話です」


アルノルトが補足する。


「ああ……」


ユージは顔をしかめた。


「やめろ、その話は」


「どうしてですか」


「黒歴史だからだよ!」


リシュンは首を振る。


「違うな」


「は?」


「あれは高度な抑止戦略だ」


「違うわ!」


ユージが即答する。


「ノリだよノリ!勢いでやっただけだ!」


リシュンは、静かに言った。


「それが“自然に見せる技術”だ」


アルノルトが、小さく息を吐く。


「……無意識すら制御しているのですね」


「してねえよ!!」


ユージの叫びが、酒場に響いた。


⸻


だが。


誰一人として、その言葉を本気にはしていなかった。

お読みいただきありがとうございます。


ナーチャンが「評価を誤り」、

リシュンが「理解したつもりになる」。


このシリーズは、だいたいそんな感じで進みます。


今後とも、当人の知らないところで評価が上がっていくユージを

温かく見守っていただければ嬉しいです。

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