第四話
晴れ渡る秋の午後。
公爵令嬢ビアンカ様と末弟ニール様のお出かけに、侍女ヘレン(20才)は護衛兼世話役として付き添っていた。
(お出かけ! ビアンカ様とニール様と、私、三人きりでの移動!)
ヘレンの心は職務への忠誠心と、ビアンカ様の「ぷにり」を間近で観察できる密かな興奮で満たされていた。
その隣には別の護衛のラードン(34才)がいるのだが、もはやヘレンの視界からは排除されていた。
馬車から降りた一行は、王都郊外にある王立庭園へと向かう。
道中、ビアンカ様は歩き疲れたニール様を軽々と抱き上げていた。
そしてビアンカは歩きながらも「ぷにり」を怠らない。
「ぷに、ぷにぷにぷに……ニール、可愛いわねぇ」
ビアンカ様の親指と人差し指が、ニール様のふっくらとした頬を、まるで炊き立てのお餅でも扱うかのように柔らかく挟み、何度も何度も優しくぷにられていた。
「おねーたまのぷに、あったかいでちゅ」
ニール様は満足そうにビアンカ様の肩に顔をうずめていた。
(ああ、なんと慈愛に満ちた光景……、 そして、なんと羨ましいニール様……)
ヘレンは自分もビアンカに抱き上げられ、あの歩きながらの流れるような「ぷにり」を受けたいと、下心を隠しながら静かに二歩後ろを歩いていた。
庭園へとたどり着く。
庭園にはすでにたくさんの子どもたちが、秋の陽光の下で遊んでいた。
その多くは公爵家ほどではないにせよ、王都の裕福な貴族や豪商の子どもたちだ。
そこで一人の男の子が、興奮して庭の小道を横切ろうと猛スピードで駆けてきた。
「危ない!」
ヘレンが思わず声を上げた瞬間、その男の子はビアンカとぶつかりそうになり寸前で急停止した。
男の子(推定10歳)は鼻先に汗をかき、額には土が付いていた。
そしてぶつかりそうになった相手が自分より背の低い少女だと見るや、生意気にも苛立った表情を浮かべた。
「お前邪魔だな! どけよ! 俺様の高貴な遊びを邪魔するな!」
男の子はその言葉とともに、ビアンカ様に向かって小さな拳を振り上げた。
ニール様を抱きかかえたビアンカ様は、静かに、そして冷たい目でその男の子を見据えた。
「だめよ?」
ビアンカ様は静かにそう言った。
その声は春風のように穏やかだが、抗えないほどの絶対的な圧を含んでいた。
次の瞬間、ヘレンは自分の目を疑った。
ビアンカ様は、ニール様を抱いているにもかかわらず、まるで魔法のように一瞬で男の子の背後に回り込んだのだ。
その機動力は公爵令嬢というより、熟練の騎士のようだった。
さすがの公爵令嬢である。さすこれ。
その頃、背後で控えていた本当の騎士ラードンは、子供の喧嘩に参戦して良いものかとあたふたしていた。
男の子が驚きで硬直している間に、ビアンカは抱いているニールを胸に密着させつつ、自由となった右手を男の子の頬へと伸ばした。
ぷにっ。
男の子の頬が背後からの予測不能な攻撃により丸くひしゃげた。
「な、なんだよ、これ……! やだ、だめだよ? おかしくなっちゃうー!」
男の子は背後からの密着された羨ましい「ぷにり」と、首を回し覗き見たビアンカ様の圧倒的な笑顔に、羞恥心と不思議な快感で体をよじらせて悶えた。
だがビアンカ様はその手を緩めない。
ニール様が飽きないように彼の頬を時々「ぷにーん」と弾きながら、その男の子の頬を弄び続ける。
「ぷにっと、ぷにぷにぷにぷに……」
男の子はあっという間にビアンカ様の「ぷにり」の虜となったようだ。
その顔は真っ赤に染まり、ついに地面に座り込んでしまう。
「ひぐっ……お、お婿に行けない……」
彼はわけのわからない敗北感に打ちひしがれていた。
ビアンカ様は勝利を確信し、満面の笑みで宣言した。
「なら決まりね! 将来はお婿ではなく、私の従者として、わたくしに尽くしなさい!」
その出来事をきっかけに、子どもたちが集まりだした。
何事かと集まってきた野次馬たちだったが、ビアンカ様のぷにりの威力を目の当たりにし、自らの好奇心に抗えなくなったのだ。
「僕もぷにってほしいです!」
「私の頬、どうなの?合格かしら?」
気付けば男の子も女の子も、次々にビアンカ様の前に列を作り、「ぷーにぷに」を要求し始めた。
ビアンカ様は集まった子どもたちの頬を、優しく、時には厳しく、次々とぷにり始めた。
もちろんニール様を退屈させないため、合間合間にニール様の頬を「ぷにーん、ぷにーん」とぷにって愛情を注ぐことも忘れていなかった。
さすがです、ビアンカ様!さすびあ!
こうして、わずか数分のうちに庭園で遊んでいた多くの子どもたちが、ビアンカの「ぷにり」によって懐柔され、彼女の未来の従者候補としてビアンカの後ろに整列させられた。
その従者者候補たちを引き連れながら、庭園を堂々と散策するビアンカ様の姿は、まるで凱旋パレードの主役のようであった。
「すごい……、まるで魔法ね」
ヘレンは驚きと羨望の眼差しでその光景を見つめた。
その時、集まった子どもたちの誰かが小声で、しかしはっきりと呟いた。
「ぷにマドンナ……」
公爵令嬢に新たな通り名がついた瞬間だった。
集まっていたのは貴族家の子供たちである。ビアンカ様は公爵家の囲いを超え、王都の社交界で自身の「ぷにり」による影響力を今まさに拡大させたのだ。
(ああ、ビアンカ様……、私も、その従者になりたいのですが……)
間違いなく従者なはずのヘレンは、この日、ビアンカ様の圧倒的な魅力を目の当たりにしたことを、絶対に忘れないと誓い日記に綴った。
今日も王都は、ビアンカの「ぷにり」によって、新たな平和と秩序を見出しつつあるようだ。
ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。




