第二話
公爵家の侍女ヘレン(20才)は、今日も子ども部屋の一角で優雅に公爵家の子どもたちを見守っていた。
彼女の仕事はビアンカ様とニール様の身の回りのお世話と、彼らの日々の行動を公爵夫妻に報告することだ。
しかしヘレンの心の中は、職務とは全く別の……、ある秘めたる願望で満たされていた。
(ああ……、今日もビアンカ様の「ぷにり」は完璧でいらっしゃる……)
さすがです、ビアンカ様!さすびあ!
ヘレンは前日に起こったばかりの光景を反芻していた。
長男ナイト様が末弟ニール様をいじめる。
ビアンカ様が稲妻の如き速さでナイト様の背後に回り込む。
屈辱的な「ぷにり」でナイト様を撃退。
ニール様をベッドに運び、徹底的な「ぷにり」で救済。
その一連の流れはヘレンにとって、もはや日々の公爵家の平和を象徴する芸術的なルーティンとなっていた。
ビアンカ様のぷにりによって涙を乾かしたニール様の、あの幸福に満ちた笑顔。
そして羞恥心で真っ赤になりながら逃げ去るナイト様の、哀れだがどこか面白い光景。
(ニール様はビアンカ様の「ぷにり」を受け取ることで、あれほど満たされた表情をなさる……。あれは、ただの戯れではありません。あれは、最高の愛情表現、絶対的な信頼の証!)
ヘレンは胸の前で両手を固く握りしめた。
彼女の秘めたる願い……。
それはその「ぷにり」の輪に加わることだった。
ヘレンのささやかな願いの第一歩。
それはまず御二人と「ぷにり」すること。
そして、叶うならその返礼として「ぷにり」されることだった。
(ああ、ニール様のようなふかふかで柔らかい頬を、私も思い切りぷにりたい……!あの感触はきっと極上の癒しに違いありませんわ!)
ヘレンはニールに寄り添い読み聞かせをしているビアンカ様の横顔を見た。
ビアンカ様は読み聞かせの途中でも、時折ニール様の頬を「ぷに」と弾んでいる。
そのたびにニール様はくすくす笑う。
(そして何よりも……、ビアンカ様にぷにられたい!ぷにられるなら、こんな私の頬程度、引きちぎられたって良い!)
ビアンカのぷにりは愛情の証であると同時に、絶対的な支配の象徴でもある。
あの勇敢で才知に溢れた公爵令嬢に、顔をひしゃげさせられるほど「ぷに」っとされてみたいのだ。
それは主従関係を超えた特別な親愛の情を注ぎ込まれることに他ならないからだ。
ナイト様が嫌がって逃げるのとはわけが違う。
ヘレンにとっては至高のドリームプレイなのだ。
しかしヘレンは侍女だ。
主である公爵令嬢にそんな戯れを強要する権利も、口にする立場もない。
彼女は今日もその下心を隠し、聖女のような微笑みを顔に張り付けながら、静かに公爵家の面々を眺めている。
その日の午後、ビアンカ様はニール様と床に座り、お菓子を分け合っていた。
「ニール、これはあなたの分よ。落とさないでね」
「わーぃ! おねーたまぁ、ありがとぉ!」
ニール様は満足そうに頬を膨らませ、カステラを口に運ぶ。
その膨らんだ頬がビアンカ様の好奇心を刺激したようだ。
「ぷにっ」
ビアンカ様はニール様の頬を、カステラが飛び出さないように注意深く、そっと一回だけぷにった。
「ふふ、可愛いわ」
「あうー、ぷに、ぷにー」
ニール様は嬉しそうに笑った。
その一瞬の「ぷに」を見たヘレンは、思わず持っていた銀のトレイを落としそうになるのをこらえた。
(あぁ、今……! 今のあの優しいぷに……、 私にも、あの程度のひとぷにを……、いえ、もっと、もっと強烈な十連ぷにを……)
彼女の心臓は高鳴り、自分の頬が熱くなるのを感じた。
しかし冷静なヘレンはすぐに仮面を被り直す。
「ニール様、お菓子で手が汚れてはいけませんよ。すぐに拭き取りましょう」
そう言って彼女は静かにニール様の元に近づき、布でその口元を優しく拭う。
この至近距離! 彼の頬は布越しでも伝わるほど、ふかふかだ。
(ああ、今なら、ほんの少し、布越しに……)
ヘレンは衝動的に親指に力を込めるが寸前で思いとどまった。
ここで欲望に負けてしまえば彼女の立場はなくなる。
彼女のぷにりへの渇望は、公爵家の侍女としてのプライドと激しくぶつかり合っていた。
その日の夕刻。
ビアンカ様は泥遊びをして汚したドレスを着替えようとしていた。
ヘレンがそれを手伝う。
「ヘレン、背中の紐を結んでちょうだい」
「かしこまりました、ビアンカ様」
ヘレンは公爵令嬢の細い背中に回り、コルセットの紐を丁寧に結びつける。
ビアンカ様は、鏡台の前でぼんやりと自分の顔を眺めていた。
(ああ、ビアンカ様の、この透き通るような美しい頬……)
ヘレンの視線は無意識のうちにビアンカ様の頬に釘付けになっていた。
引き締まった、しかし子どもらしい柔らかさも残るその頬を、一度でいいから思い切り、慈愛と情熱を込めて……、ぷにりたい!
そしてビアンカ様のその力強い瞳に、「ぷにり」を強要した無礼な侍女として、驚きと怒りの表情を浮かべさせたい!
ヘレンは紐を結び終えた手を、無意識のうちにビアンカの肩から首筋へと滑らせた。
「ビアンカ様、少し、お疲れではありませんか? お顔色が……」
そう言って彼女はビアンカの耳のすぐ下の、目立たない部分に、ほんのわずかに親指の腹を押し当てた。
(ぷに……)
それはほんの僅かな……、愛情を装った接触であった。
しかしヘレンの心の中では、それは紛れもない「秘められたひとぷに」であった。
ビアンカ様は首をかしげる。
「そう? 別に疲れてはいないわ。さあ、晩餐の時間よ!」
ビアンカ様はヘレンの小さな「ぷにり」に気づくことなく、颯爽と部屋を出て行った。
ヘレンは一人残された部屋で、まだ熱を持つ自分の親指を見つめる。
(いつか必ず……。ビアンカ様とくんずほぐれつ、ぷにりぷにられ、あのニール様のようなドリームを……)
公爵家の一日の終わり、ヘレンの胸には秘めたる願望が、静かに、しかし確かな火力をもって燃え続けていた。
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