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プロは当然知っている、読まれる小説の書き方講座 〜書きたい人も、書いてる人も〜  作者: 御子柴 流歌
第1章: 正しい小説の書き方(という空想)

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8/8

1-5C: コラムC・書き出し三行・実演篇【あやかし×お仕事10連】


 本エピソードはフィクションではございません。


--------------------


   はい、モニターの前のそこの貴方。

   ええ、そうです。貴方です。


   ぜひチャレンジを。


--------------------



 こんな煽り文句を入れておいてやらないのもアレかと思いまして


 してみむとてするなり。

 3行と言いつつ4行くらいになっているモノもありますが、それはご愛嬌ということで。




     ○



○お題目:C)あやかし × お仕事(ゆるふわ系)

<共通出来事(固定)>

・神楽坂の古道具店『灯心堂』、逢魔が時から開店。

・今日から新人店番(主人公=女子大生想定)。

・もとは客として入店したが、ひょんなことから働くことに。

・帳簿が勝手に書き込まれる(最初の客は“姿のない誰か”)。



     ○





[C-01]

 お客として入っただけのつもりが、気づけばエプロンを渡されて、逢魔が時から開店する古道具店のカウンターの内側に立っていた。

「帳簿は勝手に書くから」と店主は言い、ほんとうに万年筆が勝手に走り始めたと思っている間に《最初の客:姿のない誰か》と書き付けていった。

 閉店は一番星が消えるまで??働き方の説明より、星空のほうがよくわかる。

 どうやら今店番役の彼女の目の前にはお客様がお見えになっているらしい。


[C-02]

 神楽坂の石畳に風が触れる音は、古道具店『灯心堂』の風鈴だけに届くようにできている。

 新人の彼女は“見える人”ではなく“聞こえる人”なのだが、帳簿はその差を容赦なく運用した。

 最初の伝票は《割れた茶碗(声あり)》、そして椅子は??“見えない席”の前にだけ、かすかに沈んだ。


[C-03]

「いらっしゃいませ」を練習する。

 戸は開かないのに、風鈴だけ鳴る。

 帳簿が書く??《姿のない誰か》。

 練習のはずの挨拶は、いきなり本番用になっていたらしい。


[C-04]

 街の灯りが一段階小さくなったような雰囲気。

 逢魔が時の開店。

 万年筆が、勝手に走りはじめた。

「いらっしゃいませ」


[C-05]

 エプロンの紐を結び直す指が、緊張でほどけやすい性格をしているのは昔からだ。

 店主は「見えないお客さまには、見える場所を作ってあげる」と言って、私に椅子を指した。

 私は何もない空間へ椅子を引き、座布団が数ミリ沈んだ音を聞いた。


[C-06]

 帳簿は日付より先に客名を書く癖がある??という半信半疑のままに聞いた店主の教えだったが、本当にその通りに墨跡が浮かんでいく。

《櫛(未練)》の予約は二件、どちらも夜半前に受け取りの予定。

 新人は“聞こえる”側の役目として、まず最初の「はい」を正しい方角に向けて置くことを教わった。


[C-07]

 畳が鳴る。

 誰も見えない。

 でも、小銭の音だけはする。


[C-08]

 彼女は椅子を引いた。

 座布団だけが、少しだけ沈む。

 それとほぼ同時、帳簿の上を万年筆が忙しそうに走り始めた。


[C-09]

 最初の質問は研修の有無だったけれど、返ってきた答えは「『いらっしゃいませ』が言えれば合格」というざっくりとした幸福論みたいなやつだった。

 幸福は簡単には見えない。要するに客も簡単に見えないのかもしれない。

 閉店の合図は一番星が消えること??その星がどこにあるのか、私はまだ知らない。

 何もかもが判然としないままだった。


[C-10]

 灯心堂の奥の時計は秒針を持たず、時間は客の数で進む仕組みらしい。

 一人目の客は音で来て、二人目の客は匂いで来る??店主はそう言って湯呑を並べた。

 さっぱり理解もできないままに新人は湯気の向こうの空席に会釈し、帳簿は《お支払い:小銭の音》と淡々と記録した。

 満足そうに店主は頷く。――どうやらこれで合っているらしい。







      ○



 お疲れさまでした。


 もしかするとこのような千本ノックを耐え抜いたモノが短篇や長篇となって世に出ている――のかもしれませんね。



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