表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロは当然知っている、読まれる小説の書き方講座 〜書きたい人も、書いてる人も〜  作者: 御子柴 流歌
第1章: 正しい小説の書き方(という空想)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

1-3: 『指南書に従った結果、大して伸びなかった話』の話

※このエピソードはフィクションです。実在の人物・書籍・サイト等とは無関係です。


Ⅰ. 書き始め


 暗い自室に独り、とある青年はモニターに向かっていた。

 机上のキーボードをやたらと大袈裟なタッチで叩きながらも、その視線は机の片隅にある書見台とそこに置かれた『小説の書き方』と題された比較的安価な指南書のような書籍がある。

 横幅の広いモニターには小説の原稿を大写しにしつつ、少し小さなウインドウには執筆用のメモと見られるテキストデータも表示している。案外、準備は万端と言ったところらしい。

 メモを何度も確認しながら、ひと文字ひと文字、一行一行、喧しく入力をしていく。

 あるいは指南書のページをめくりながら、さらに一行と書き足していく。


 彼らはどうやらその書籍で学んだ、あるいはどこからか引っ張ってきた「正しい書き方」に忠実であろうとしているらしい。

 彼の頭の中には、成功者たちが語る同じような言葉が鳴り響いていたからだ。

 喩えば『冒頭三行で掴め』とか、『主人公は平凡な立ち位置から』とか『スキル鑑定を入れろ』とか。その枚挙には暇などない。

 所で入手した『自作品のPV数を伸ばす方法論』とされるモノに縋るようにして、徹底的にそれらに忠実であろうとしていた。

 ――その正当性を吟味することも無く。



---


Ⅱ. 本文断片

(投稿者名:空蝉モノクロ/@utsusemi_mono)


 その夜、俺は気づいた。世界は、音もなく崩壊していたのだ。

 昨日までの何気ない日常は、もう二度と戻ってはこない。


 俺の名前は如月ユウト。どこにでもいる、ごく普通の高校二年生だ。

 部活にも入らず、成績も平凡、特別な趣味もない。

 強いて言えば、ゲームやアニメが好きなくらい。クラスでは影が薄く、女子から話しかけられることも滅多にない。

 そんな俺が??選ばれてしまったのだ。


 突如として現れたまばゆい光に包まれ、気づけば俺は見知らぬ石造りの大広間に立っていた。豪奢なシャンデリアが輝き、赤い絨毯が床を覆い尽くしている。その正面には、王冠を戴いた老人と、甲冑姿の兵士たちが整列していた。

 そして壇上から響いたのは、耳慣れない荘厳な声。


「よくぞ来てくれた、勇者よ」


 ??そう、俺は勇者として召喚されたのだ。


 呆然とする俺の前に、一人の少女が歩み寄ってくる。長い金髪に透き通るような碧眼。真っ白なドレスに身を包んだその姿は、まるで童話から抜け出したお姫様のようだった。

 彼女はそっと手を差し伸べ、微笑みながら言った。


「どうか、この世界を救ってください。あなた様だけが希望なのです」


 心臓が跳ねた。これまで冴えない人生を歩んできた俺に、ついに訪れた大きな転機。そう、これは“ごく普通の少年が世界を救う物語”なのだ。


 案内された部屋で、俺は薄い金属のカードを渡された。角に紋章が刻まれている。『ガイドカード』と記されたそのカードは王国公認の身分証だという。

「ステータス画面を開いて、スキルをご確認ください」

 女官が言う。俺は言われるままに、意識を集中させてみた。


【Name:如月ユウト】

【Class:Hero(暫定)】

【Level:1】

【Skill:鑑定/成長促進(Unique)】

【Note:??】


 胸が熱くなる。鑑定と成長促進。地味に見えるが、わかる人にはわかる強さだ。俺は拳を握った。やれる。やれるに違いない。


 翌朝。王都の大通りは活気に満ちていた。石畳、露店、パンの匂い、遠くで楽器。俺は童話の挿絵みたいな景色を()()()()()した。ここは異世界だ。王都だ。人々はみな善良で、俺の来訪を歓迎している??そういうことになっている。


 大扉を押して入ったギルドは、分厚い木と鉄の匂いがした。掲示板に紙が並び、冒険者たちが談笑している。受付の女性は落ち着いた笑顔で、俺に必要事項の記入を促した。名前、年齢、希望クラス。そして、勇者と書くと、周囲がざわめいた気がした。

「まずは E ランクの簡単なクエストから慣れていきましょう」

 彼女は慣れた手つきで紙束を取り出す。

「おすすめは『狼牙草の採取』か『スライム退治』、あるいは『竜の森の調査(危険度低)』です」

 俺は迷ったが、「竜の森」という響きに惹かれた。きっと物語が動く場所だ。そう直感した。

「これで」

「ではこちらにサインを。それと、クエストに行くのですからポーションと簡単な装備もどうぞ」


 装備屋で一式を揃え、外に出る。剣は軽く、革鎧は俺にぴったりで、まさしく準備は万端だった。俺は理解した。これが冒険者の始まりだ。ここから俺は、ゆっくりと、しかし確実に成長していく。


 城壁の門を抜け、森へ向かう街道を歩く。空は青く、鳥は鳴き、風は心地よい。俺は自然を感じた。やがて樹々が高くなり、空が狭くなっていく。入口の看板には、かすれた文字で「ドラゴン注意」。だが危険度は低いらしい。つまり、俺にとっては大丈夫、ということだ。

 ふと茂みが揺れ、小さな影が飛び出した。透明でぷるぷるした、それはスライムだった。

「来い」

 俺は剣を抜き、ステータスを開いてから最適な攻撃角度を鑑定(ジャッジ)した。芯のある部分を狙うといいらしい。俺はその通りに剣を振るい、スライムは音もなく二つに割れ、消えた。

「ふう……」

 俺は理解した。俺は戦える。俺は間違っていない。


 さらに進むと、小川があり、丸太橋がかかっていた。橋の手前に古びた掲示板が立っている。クエストの古い紙が雨に濡れて貼り付いていた。そこに、黒いフードの男が背を向けて立っていた。俺が近づくと、男は振り返り、低い声で言った。

「気をつけろ、勇者。竜の森は、名ばかりではない」

 言い捨てて去っていく。俺は理解した。これは今後の伏線だ。重要人物に違いない。しかし今は E ランクだ。焦る必要はない。


 森の奥で、俺は奇妙な気配を感じた。葉の擦れる音、遠くの咆哮、そして……何かが、こちらを見ている気配。俺は鑑定(ジャッジメント)の能力で周囲を確認した。結果は「不明」。これは初めてだ。俺は唾を飲み込んだ。

「――来い」

 草むらが割れ、影が走る。俺は剣を構え、成長促進のスキルで身体能力を少しだけ底上げする。軽い足取り、ぶれない視界。俺は理解した。これが成長(グロウ)だ。


 その時、木々の向こうで赤い目が一瞬、光った。咆哮。風圧。俺は踏みとどまる。すると、赤い目はふっと消えた。鳥の群れが一斉に飛び立ち、森は元の静けさに戻る。

「……警告、か」

 俺は独り言を言った。ここで引き返すのが賢明だ。 E ランクなのだから。俺は理性的に判断し、来た道を戻った。帰り道、夕焼けに染まる王都が美しかった。俺は理解した。世界はきれいだ。俺も、きっときれいになれる。


 ギルドに戻ると、受付の女性??名札には **Mireille** とある??が微笑んだ。

「お帰りなさい、ユウト様。報告(レポート)をお願いします」

 俺は簡潔に、スライムを二体倒したこと、竜の森で不明の咆哮を聞いたこと、黒フードの男に忠告されたことを伝えた。女性はうなずき、銀貨を数枚、俺の手に置いた。

「初任務完了です。次はもう少し踏み込んでも良いかと」

 俺は頷いた。胸の奥で、静かな熱が広がる。理解する。

 これは始まりだ。

 ここからが、俺の、物語だ。



---



Ⅲ. 彼の確信


 部屋には静寂が広がっている。既に喧しいタイプ音は収まっている。その代わりにマウスホイールのコロコロとした動作音が、今度は大人しめになっている。

 ゆっくりと画面をスクロールさせながら、彼はその成果を満足そうに眺めた。


 冒頭にインパクト。

 主人公は平凡。

 そして異世界召喚。


 まさしくすべて指南書通り。これでバズらないはずがない。


 もちろん本文は千字程度で区切った。

 短く刻んで投稿すれば更新回数も増やせる。PVを稼ぐには合理的な戦略だ。

 彼は投稿ボタンをクリックした。


 ――しかし、その瞬間を見届ける誰もいなかった。



---



Ⅳ. ブログ愚痴


 投稿作業から一週間後。


「どうしてだ」


 彼は自分のブログに『【空蝉モノクロ】指南通りにやったのに結果が出ない件』と新規記事を作って愚痴を書き連ねていた。


 指南書に書いてあることは全部やった。

 タイトルも説明的にした。主人公も平凡にした。更新も毎日続けた。

 それなのにPVは伸びない。ブクマも増えない。

 どうしてだ。やっぱり才能が必要なのか? いや、違うはずだ。指南書には“努力すれば必ず結果が出る”と書いてあった。


 指は止まらない。

 文章は長く、言葉は熱を帯びていった。何なら小説を書いている時よりも圧倒的にキーボードを叩く指は軽やかで、そしてあまりにも煩かった。

 彼は必死だった。少なくとも、自分は正しくやったはずなのだから。



---



Ⅴ.帰結


 数日後。彼のブログは引用リポストされていた。


「指南通りにやったのに伸びないって、そりゃそうだろw」

「例に出してる本文、めちゃくちゃ既視感ある……」

「“そう、これは勇者の物語だ”って自分で言わせるの最高にダサい」

「指南書コピペで小説書いたら埋もれるに決まってるやん」


 コメントは増え続け、笑いと皮肉が入り混じる。

 彼の文章は拡散され、望んでいない形でバズっていた。


 誰も、彼に優しく教えてはくれなかったのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ