敵
レオンは魔術師の隠れ家へ向かっていた。
目的は、アレンが“飴玉”を使った際の報告だ。
森へ入ると、彼は足を止めた。
――適当な場所だ。ここなら暴れても問題ない。
「出てこい。予定があるんだ、手短に済ませたい。」
言うが早いか、魔力の弾丸が飛んできた。
レオンは一歩、後ろに下がりながらそれをかわす。
(ライカを襲った連中と同じ魔法……方角は掴んだが、距離があるな)
木の影から伸びた手が掴もうとした瞬間、掌から爆発。
アレンは避け、すかさず蹴りを入れる。
だが次の瞬間、水の玉が飛んできた。避けた先の木が燃え上がる。
(間違いない。ライカを襲った奴らだ……)
「あと二人いるのは分かってる。さっさと出てこい。」
その声に応えるように、突如として横から衝撃。
蹴り飛ばされ、大木に叩きつけられる。
吹き飛ぶ瞬間、反射的にケルベロスの魔法で反撃するが、あっさり避けられた。
(……驚いた。魔族でもない、身体強化も使っていない。素の力でこれか)
蹴り飛ばした相手を見る。
魔力の気配はある――だが、流れがない。
「ふーん……魔法使いは熟練になると他人の魔力を知覚できるようになる。
けど稀に、自分の魔力すら知覚できない奴がいる。
魔道具も扱えず、それでこのレベル……大したもんだな。」
追撃は来ない。静寂の中、気配が揺れた。
全身を黒いローブで覆った人間が、のんびりと歩み出てくる。
レオンは即座に構えを取る。
「すまない、話し合いに来たんだ。魔術学院の優秀な教師さんをスカウトにね。どう? 僕らの仲間に――」
ケルベロスの魔法が炸裂した。
「話だけでも聞いてくれな――」
加速魔法で一気に間合いを詰め、足に最大出力の魔力を込めて蹴り飛ばす。
相手は木に叩きつけられ、地を転がった。
「ゆっくり話、できないかな……」
ピアスを砕く音。次の瞬間、血の斬撃が走り、敵の背後の木々が切り裂かれた。
「まぁいいや。どうせ僕らが束になっても君には勝てない。“君”にはね。
多少面倒ではあるけど、君は一人だ。いずれ限界が来る――また会おう。」
「逃がすかよ!」
レオンの叫びと同時に、水の魔法使いが水蒸気爆発を起こす。
一帯は濃い霧に包まれ、視界が真っ白に染まった。
(……消えた。足音も気配も、すべて)
思考を巡らせる。
ケルベロスの魔法も血の斬撃も、確かに命中していた。
だが――蹴り飛ばした感触。確かに肋骨を砕き、内臓を潰したはずなのに、
回復魔法の痕跡すらない。
(あのローブ……足が通り抜けた。逃げ方も異様だった。
濃い霧ごとき、私の目には隠れ蓑にもならないのに……全員逃げ切った?)
「……まぁいい。これも含めて魔術師に相談だ。」
レオンは霧の残る森を抜け、予定通り魔術師の隠れ家へと向かった。




