村の噂
現在は村周辺を散歩中だ。
この村は迫害された獣人たちが嫌気をさして集まった村であり、観光施設などはほとんど存在しない。
私もライカと一緒でなければ、白い目で見られていただろう。
しかし、この村特有の噂の伝達速度は異常に速い。
私とライカは、すでに「恋人」として認知されている。
原因は、顔が広いライカの母親と――今、私の腕に捕まっているライカ自身だろう。
「ライカ……この村には“あいつら”はいない。もう少し安心しても良いと思うぞ?」
ライカはきょとんとした顔をしている。言っていることは理解しているようだが……。
続けて私は言った。
「腕に掴まっていると、恋人だと思われるぞ? 良いのか?」
ライカは少し顔を赤くしたが、それでも手を離さなかった。
――まぁ、いいか。
そう思いながら村周辺を一周する。
一周を終えると、魔法陣を繋げて結界を構築する。
とはいえ出入りを不可能にする類のものではなく、一定以上の魔力を持つ存在が通過すれば光を放つ仕組みだ。
魔族は魔力で肉体を構築しているため、その魔力量は人間の比ではない。
本当は、私個人に通達が来るような結界を張りたかったが、構築条件が複雑なため今回は簡易的なものにした。
「ライカ、村で少し遊ぶか?」
私の誘いに、ライカは驚いた顔をしつつも尻尾を振って喜んだ。
遊びの最中、村人たちにこう伝える。
「空や村周辺が光ったら、すぐに私へ知らせてほしい。このことを他の者にも広めてくれ。」
村人たちは首を傾げながらも了承してくれた。
店を回っていると、奇妙な店に辿り着いた。
そこでは魔物の血で作られた飲料が売られている。値段は少々高いが、よくできている。
――なるほど。ライカの母親もここで“媚薬ジュース”を買ったのだろう。
私は一番高いワインを購入した。飲むのが楽しみだ。
購入時、店主は「一番高いものを買ってくれたからサービスだ」と言って、私ではなくライカに小包を手渡した。
店を出ると、ライカの姿が見当たらない。
振り返ると、彼女はまだ店主と話しているようだ。
人間の聴覚では内容までは聞き取れないが、ライカが顔を俯け、小包をぎゅっと抱きしめる様子が見えた。
やがてライカは戻ってきた。
「サービスってなんなんだろうな? 試しに飲んでみたいところだ」と私が言うと、
ライカは顔を赤くしながら小さく呟いた。
「……そのうち。」
小包の中身が強力な媚薬だと知っているのは、店主とライカだけであった。




