魔術師と魔王
魔術師の隠れ家にて――。
魔術師は、かつて最強の肉体を持っていた魔王に向かって言った。
> 「ずいぶんと大荷物ね。……まさか、人間の死体でも入っているの?」
魔王は、そんな趣味はないと言いたげに無言で首を横に振る。
荷を開けると、中には金銀財宝がぎっしりと詰まっていた。
魔王の願いはこうだった。
「この財宝の半分をやる。代わりに、残りの半分で食料と金を定期的に運んでほしい」と。
魔術師は小さく眉をひそめる。
> 「……なぜ?」
魔王は静かに答えた。
> 「ライカ――一緒に暮らしている女がいる。魔族を恐れていて、私から離れたがらない。
そのせいで、家から出られんのだ。」
魔術師は内心でつぶやいた。
(弱みは、もう無いと思っていたけれど……。
高跳びすると思っていたが、人間の身体になって情が移ったのかしら)
魔王はワインを注ぐ。それは魔物の血で造られた、魔王軍特産の酒だった。
勧められた魔術師は、ひらりと手を振って断る。
> 「何をしているの? ……交尾でも?」
魔術師が皮肉っぽく笑う。
魔王は即座に切り捨てた。
> 「そんな関係ではない。」
魔術師は少しだけ笑みを引き、(自分を客観視できていないな)と心の中で評価を下げる。
魔王は話題を変えた。
> 「根城は叩いた。あそこには人間はおらず、魔族だけだったからな。暴れやすかった。
一人を除いて壊滅状態だ。ゲートも閉じた。」
魔術師は肩をすくめる。
> 「意味のないことをしたものね。……ゲートを繋げる技術は、もう確立されているのに。」
だが心の中では、(抑止力としては及第点か)と思っていた。
> 「あなたのお願いは聞いてあげるわ。仕事もしてくれたみたいだし。」
そう言って、魔術師は戸棚から指輪を取り出す。淡く光る魔力が常時循環している。
> 「これは精神安定の指輪よ。魔導具の一種。
精神的ショックを緩和できるし、恋人さんも少しは安心できるでしょう。」
> 「恋人ではないが……感謝する。」
魔王が静かに頭を下げた。
魔術師はふと尋ねる。
> 「さっき“ひとりを除いて”って言ってたけど……どういう意味?」
魔王の瞳がわずかに鋭く光る。
> 「魔族の王だ。ゲートを閉じるのに専念したせいで、奴には逃げられた。
普通に戦っても勝敗は五分五分だろう。だが、残存魔力は半分以下まで削った。
あそこにいる可哀想な奴を検体に差し出せ。今のうちに討伐隊を組め。」
魔術師は小さく頷く。
> 「了解。……研究が進めば、対魔族用の魔法も開発できる。」
魔王が去った後、魔術師は独りごちた。
(上位個体はケルベロスすら凌ぐ……。弱い個体でも、上級冒険者のチームでやっと狩れるレベル。
確かに、対策は急務ね……)




