日常
あれから日常が過ぎた――結局のところ、後は人間に任せることにした。
仮にも私をリンチして倒した人間たちだ。どうにかするだろう。
魔族の急所や出どころの情報は、すでに警察に渡してある。
私は隠密魔法を使い警視庁長官の部屋の真ん中に、メモ書きを置いてきた。
……それなのに、こちらに情報が来ないということは、極秘扱いにされているのだろう。
魔王城周辺の森に棲むクローンスライムの情報も渡してある。
やろうと思えば「人間に擬態したクローンスライム」という形で処理できなくはない。
もっとも、奴らは完全なコピーを作るが、知性もなく、魔術を扱う頭もない。
本体と比べれば鈍く、弱い存在だ。
――日常、といえば。
少しだけ、変わったことがある。
「レオンさん! ご飯できました!」
呼ぶ声に振り返る。
レオン。それは、適当に付けた私の人間名だ。
「ありがとう、ライカ」
狼の獣人――ライカは、仕事以外では私を名前で呼ぶようになり、私も名前で呼んでくれと頼まれた。
以来、そうしている。
……時々、口止めしているとはいえ、彼女の願いを聞きすぎではないかと思うこともある。
だが、気がつけば仕事以外に遊んだり、食事をしたり、会う頻度は少しずつ増えていった。
今では、仕事中も仕事外も――常に一緒にいるようなものだ。
食事をしていると、ライカが不意に口を開いた。
「レオンさんって……何か好きなもの、あるんですか?」
唐突な問いかけに、私は一瞬だけ考え――短く答える。
「魔物と、魔術だな」
ライカは部屋を見渡す。
分解された魔道具。出所の分からぬ魔術書。魔物の魔法に関する記録。
「あぁ、やっぱり……」
納得したように小さく笑うライカ。
ふと、遊びに出かけたときに、魔道具店を巡る私の姿を思い出したのだろう。
ほんの少しだけ、楽しげな顔をしていたことも。
――なら、今度は。
故郷にいる両親に頼んで、魔道具を送ってもらえばいい。
それを“プレゼント”にすれば……レオンさん、喜んでくれるかもしれない。
そう考えた瞬間、ライカの尻尾は抑えきれず、ぱたぱたと揺れていた。




