デート
魔王は休暇を利用し、魔術師の隠れ家へ向かおうと歩を進めていた――その時。
背後から慌ただしい足音と共に声が飛んできた。
「リーダーっ!! あの、その……遊びに行きませんか?」
振り返れば、耳をぴんと立てながらも、尻尾を落ち着きなく揺らす狼の獣人が立っていた。
魔王は断ろうとしたが、口止めの件を思い出し、しばし悩んだ末に承諾する。
「……仕方ないな。少しだけだぞ」
その一言で獣人の表情はぱっと輝き、耳も尻尾も嬉しさを隠せず揺れた。
---
二人は町を歩きながら、さまざまな店を巡る。
市場では、香ばしい匂いの焼き串に惹かれた獣人が豪快に食べ歩き、魔王に差し出す。
「ほら、リーダーも! ……あ、ちょっと辛いので気をつけて」
その気遣いに、魔王は苦笑しながらも口にした。
魔道具店では、珍しいランプや浮遊石を手に取り、目を輝かせる獣人。
「すごい……これ、灯りが勝手に色を変えるんですよ! リーダーの部屋にもどうです?」
無邪気な提案に、魔王は「騒がしい光景は落ち着かん」と淡々と返すが、その様子がむしろ獣人を笑わせた。
演劇が始まると、舞台の光に照らされる俳優たちの熱演に獣人は食い入るように見入り、
「……すごいなぁ。自分もこんなふうに、誰かを守れる存在になりたいです」
と呟いた。その横顔を見た魔王は、一瞬だけ胸の奥に熱を覚えるが、言葉にはせず視線を舞台へ戻した。
夕暮れ、広場では太鼓の音と共に祭りが始まる。
「リーダーも一緒にどうです?」
差し出された手に、魔王は少しだけためらう。
だが、その手を取れば――ほんのひととき、秘密を抱えた関係ではなく、ただの仲間でいられる気がした。
「……少しだけだぞ」
その瞬間、獣人の尻尾は抑えきれずに大きく揺れていた。
---
夜。酒場で二人並んで杯を傾けていると――ふいに魔力探知の波が辺りを覆った。
気付いたのは魔王だけ。(……あいつか)
間もなくして、魔術師が現れる。
「あっ! あの時の警官さん! 知り合いがすみません。お礼に奢るので、一緒に飲みませんか?」
ありがたい申し出だと思い顔を上げた魔王だったが、魔術師の表情はどこか怒気を含んでおり、
隣の狼の獣人は困惑した顔で固まっていた。
「……“デート中”でしたか。すみません」
低い声で告げられ、狼の獣人は一気に耳まで真っ赤に染め、魔王は(後で謝らねば)と内心で苦笑した。
場を取り繕うように、魔王は口を開く。
「あのお兄さん、大丈夫でしたか? 随分酔ってましたけど」
魔術師は苦笑しながら答える。
「二日酔いがまだ続いてて、今は私の家で寝込んでます。一応薬を飲ませたり看病はしたんですけどね。会話はできますから、その分しっかり説教もしました!」
魔王は杯を口に運びながら考える。
(……拘束は継続、研究も尋問も進んでいるな)
そんな二人を見て、狼の獣人は小さな声で問いかけた。
「……二人は、どういう関係なんですか?」
魔王は舌打ちを飲み込む。
(やはり、ある程度は勘づかれたか……)
だが、魔術師は何食わぬ顔で肩を竦めた。
「先日は初対面でしたよ? 本当に」
とぼけるその声色は芝居じみていて、かえって狼の獣人を惑わせるのだった。




