仕事終わりに…
パトロールを終え、交代の警官に挨拶を済ませた三人は夜の街を歩き出す。
「ひとまず終わり、か……」
肩の力を抜いた魔王は、途中で自分の借家に立ち寄り、酒場へ向かうつもりだった。
――その前に。
魔王は棚から一冊の本を取り出し、狼の獣人に差し出す。
「前に約束していた魔術書だ。精神魔法についてのものだ」
狼の獣人は驚きに目を見開き、震える手でそれを受け取った。
「……本当に……!」
横で警官が問いかける。
「……さっきの魔術師が使った“酩酊”の魔法。あれ、この本に載ってるんですか?」
続けて、狼の獣人も口を開く。
「リーダー……あの人に言ってた言葉って……」
言葉の先を飲み込んだが、その視線には確かな疑念と、ほんの少しの不安が混じっていた。
魔王は答えを探すように沈黙する。
――幾つか誤魔化すシミュレーションをしてみたが、どれも通用しない。
狼の獣人には小声が聞こえていた。
警官は頭の回転が速い。
本来なら一人で片付けるべきだったのか……。
だが警察の情報を得るには警察に居なければならないし、町中で縛りありの“生け捕り”を狙うなら、なおさらあの二人と共闘せざるを得なかった。
沈黙が長引くと、警官が静かに言った。
「この事を他に漏らさない条件は――貴方が警察を辞めず、俺たちと一緒に捜査を続けることです」
狼の獣人は手にした魔術書を胸に抱き、思い返す。
あの精神魔法の効果。
リーダーと一緒にいれば、いつか……
彼女は小さく頷いた。
魔王は二人の様子を見て、わずかに笑みを浮かべる。
「……悪くない交換条件だ」
そして、その提案を受け入れた。




