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魔導歴史書  作者: ルイ
31/83

パトロールの成果

夜、三人でのパトロール中。

狼の獣人が私の裾を掴み、不安げに言った。

「……何、あれ……」


こいつも気付けるのか と魔王は思う。


狼の獣人は続けた。

「匂い、心音……人間じゃないのに、見た目は人間……」


魔王はそいつに近づき、小声で囁いた。

(――お前の同種は殺した。根城はどこだ?)


……その小声を、狼の獣人の耳はしっかりと拾っていた。


次の瞬間、戦闘が始まる。

魔王はバタフライナイフとタクティカルペンのみで応戦。ケルベロスの魔法も、血の斬撃も、この場では使えない。だが幸い、相手は以前戦った魔族より弱い。


背後では警官が通信魔道具で連絡を取っていた。魔王は"合言葉"を大声で言う。

「――酔っ払いだ!」


二人は そんな訳あるか と内心ツッコむが、その声は傍受されていた。

空から急行するのは、飛行魔法を開発した魔術師。


町中ゆえ魔族は真の姿を見せない。それでも三人の連携は苛烈で、敵は防戦一方。

ただ――確信した。


「こいつ、体力の概念が無い……!」


三人は息が上がっているのに、相手は平然としている。

だが攻撃が効かないわけではない。傷口からは血ではなく魔力の粒子が散り、時間が経てば塞がる。折れた骨も、潰れた臓器も、内部から魔力で修復していく。


……だが魔力の回復速度は人間より遥かに遅い。

じわじわ削れば必ず消耗に追い込める。


魔王は推測する。血が力の条件である以上、人間という“血の塊”はその点で優れているのだろう――と。


やがて、魔族の滞在魔力は三分の一を切った。

そこへ魔術師が空から舞い降り、魔族の肩に手を置き、眼を覗き込む。


「魅了、混乱、鎮圧……」


精神魔法の奔流が相手を飲み込む。


――間に合った。


応援の警官が駆けつけたのはちょうどその時。あと少し遅ければ、失敗していたかもしれない。


魔術師はしなやかに言った。

「すみません、知り合いが……酔うとすぐ手を出してしまうんです」


精神魔法で酩酊状態になった魔族の肩を撫でながら。


隣の二人は呆然としていたが、周囲からは「確かに連絡で“酔っ払いだ”って言ってたな……」という声も聞こえてくる。


魔王は魔術師を一瞥し、告げた。

「大した騒ぎにはなっていません。ここはお姉さんに任せましょう。ただし――厳重注意。次は無い。それでいいですね?」


周囲は頷き、場は収まった。

だが狼の獣人が振り返った時には、魔術師の姿も、先ほど戦っていた魔族の姿も消えていた。


……警官は気付いていた。

“酔っ払い”という合言葉の意味を。だが、ここで問いただすのは無駄だと判断し、黙っていた。

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