魔族との戦い
森に着く。
魔王は魔術師を地面に降ろし、振り返った。後ろには──人間の身体で出せるはずの最高速度についてきた、“貴族の格好をした何か”が立っていた。
魔王は構えを取る。手にするのは魔術学院支給品のバタフライナイフとタクティカルペン。短い刃と金属の棒、それでも魔王の手にあれば十分な武器だ。
一瞬の攻防。金属音が森に響き、その“何か”は後退すると懐からワインポットを取り出し、中身を一気にあおった。
赤い液体。ワインか?──いや、違う。血だ。
その瞬間、“何か”の身体が変容を始める。皮膚が裂け、黒い角が額から伸び、人に似て非なる姿──魔族へと変貌した。
魔王は即座に魔力を放つ。
「ケルベロス!」
風が牙のように唸り、炎が絡みつき、稲光が咆哮する──三属性を束ねた多段攻撃。
魔族は二発をかわしたが、三撃目が直撃し、肉体が激しく揺らいだ。
「来るか…!」
魔王は耳のピアスを砕き、中に仕込んでいた自らの血を取り出す。回復魔法で血を増殖させ、刃へと変えると、容赦なく振り下ろした。
斬られた肉片は、瞬時に魔力の塵となって消え去った。
解剖の余地もなく、跡形も残らない。
魔術師は目を細め、ただ思考する。
──今の“何か”、知能を持っていた。ならば偵察か。
帰還しなければどうなるか? いや……考えるのはよそう。




