獣人とは、テイム事件
テイム――それは冒険者に人気の高い魔法のひとつだ。
魔物を気絶させ、自身の血を与え続けることで契約が成立する。
最初はただの物質操作の延長のように感じられる。
しかし、慣れるにつれ魔物の感覚を共有し、ついには視界までもが重なる。
完全にシンクロしたテイマーは、あたかも自分の身体のように魔物を操れるのだ。
だが、その代償も大きい。
本体は動けず、ベッドに寝たきりとなる。
――ある日、一人の冒険者が依頼から戻った。
ただし彼の姿は、人間ではなく魔物のそれだった。
仲間たちは驚き、本体が寝かされている部屋へ駆け込む。
そこにあったのは、冷たく動かない彼自身の身体。
脈をとっても止まっている。
「しまった……慣れていたはずなのに、無理が来たのか」
だが奇妙なことに、横に置かれた魔力測定器を確認すると、数値は安定しているどころか増えていた。
自分の本体は死んでいるはずなのに、魔力は健在。
――ならば、自分はいったい何者なのか?
それから日が経っても、テイムは解けなかった。
報告を受けた学者たちは驚愕し、大規模な調査が行われる。
やがて分かったのは、一年以上シンクロを続けると、この現象が起こるということだった。
本体は死ぬが、魔物の体で冒険者は生き続ける。
さらに研究は進み、なぜ二度とテイムを使えなくなるのかも明らかになった。
冒険者の意識が表にある一方で、魔物の意識は奥底に潜み、生き延びるために契約主を抑え込んでいる。
つまり「常時テイム」の状態で、他の魔物を支配する余地がなくなってしまうのだ。
この事件をきっかけに、魔物の体を持つ冒険者が次第に増えていった。
そして彼らと人間の間に子が生まれる。
――それこそが「獣人」の始まりである。
後にこの出来事は《テイム事件》と呼ばれ、魔導史に深く刻まれることとなった。




