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天才魔導士とカナンの猟犬  作者: もにみぃ
魔導士アレットと亡国の姫君
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第46話:レギオン傭兵団

 すぐに宿を出たアレット一行は、オドラン子爵の屋敷の裏から痕跡を追った。優れた五感を持つミレーヌが先導し、すぐ傍に棺を背負ったクリスが控えた。他三人はそれに続く形で周囲を警戒しながら進んだ。


「傭兵団が動いてるってことは、既にカルラの存在はバレちゃまずい人間に知られてるんだよね?」


「ええ、察しが良くて助かるわ。どこから情報が漏れたのか分からないけど、潜伏していた村が急に襲われて……村人を人質に取られ、大人しくついて行くしかなかったの」


「味方集めも慎重にやってたはずなんだがな……」


「……カルラが捕まったのって、いつの話?」


 ミレーヌは彼女が奴隷商に追われていたと言っていた。彼女が身を隠していた村を襲ったのは、間違いなく雇われた者達だろう。しかし、捕まってから売られるまでなにがあったのだろうか。


「村が襲撃を受けたと俺が知ったのは最近だ。それで情報収集のために王都へ戻った。酒場が燃えて情報収集どころじゃなくなっちまったがな」


 ジャンの言葉を聞いて、アレットは驚きのあまり声を荒げた。


「あ、呆れた……カルラが攫われたって言うのに呑気に私と依頼を受けてたの?!」


「焦ったって仕方ねーだろ。それに、うちの姫さんは一月ぐらい放って置いてもくたばるような女じゃねぇからな。ま、野党ごときにしてやられたと聞いた時は、鈍っちまったのかと思ったがな」


「愛槍がこの手に戻ったら、真っ先に貴方の血を浴びせてやろうかしら」


「ほらな。おっかねーだろ?」


 やはり彼女のしなやかな肉体は、戦うためのものだったようだ。しかし、例えそうだとしても命からがら生き延びた王の血を引く人間を行方の分からぬまま放置するなんて、随分と無責任で冷たいように思えた。


「アレット、誤解しないで。ジークが薄情なのではなく、私は滅多なことでは死なないの。私達、アーデルハイトの家系は神の加護を受けているから」


「神の加護……?」


「そう。大陸に伝わる太陽神話は知ってる? 人と神がまだ共存していた時代、太陽神が人の姿をとるために自身の力の半分を神殿に封じたの」


 太陽神の言い伝えはラヴィアの大陸神話に出てくる、有名な話だ。アレットも当然、聞いたことがあった。


「その地がカナンにあるのは有名な話だけど……神の加護なんて本当に存在するの?」


「私も話を聞いた当初は半信半疑だった。けれど実際、大爺様は神殿でその力を授かったことで王にまで昇りつめた。ジークと居て、常人より頑丈だと感じたことはない?」


「それは……常にそう感じてるけど」


「それだけじゃない。私達は生まれてから病気になったことがないし、弱い毒や簡単な呪いなんかも効かない。まぁ、後半は訓練すればなんとかなるでしょうけど」


 訓練しても無理なものは無理だし、体質にもよると思うが、アレットは余計な口を挟まずに彼女の話を聞いた。大変、興味深い話だったからだ。ジャンの異様な生命力の源は、その加護の力だったらしい。

 

「連中に後れをとったのは姑息な手を使われたからよ。神の加護は決して万能じゃない。私は村人を守るために最善の選択をしたまでだわ。その場にいもしなかった男に口を出される筋合いはない」


「それは本当にそうだね」


 女性二人に責められ、短く呻いたジャンは軽率な口を引き結んだ。


「大爺様が何故、神の力に選ばれたのかは分からない。それこそただの偶然かもしれないし、考えても時間の無駄だわ。それよりも、私が知りたいのはその傭兵団のことよ。説明してくれるんでしょ?」


「説明って言っても、よくは知らない。表向きは傭兵団だけど、実体は暗殺や工作なんかも請け負う犯罪集団ってことしか……表の傭兵団を指揮してる団長なら見たことあるけど」


「どんな奴なの?」


「直接話したことはないから分からないけど……体格はジャンと同じぐらいで、傷だらけの顔に竜の刺繍があった。髪は短めだけど雑な感じで流してて、黒装束に矢筒を背負ってた」


「私が村で見た連中の中に、それっぽい奴はいなかったわね」


 アレットが見た団長を名乗る男は、発音もしっかりしていたし、有権者への態度もそれなりに弁えていた。皆が言うほど粗暴なイメージを抱かなかったが、組織を束ねるリーダーが泰然としているのは当たり前なのかもしれない。村を襲った連中がどのような指揮系統で動いているのかはさっぱりだが、元は小さな傭兵団だったと聞いたことがある。人が増えて組織の方針が変わることなどよくあることだ。


「人の気配が濃くなりましたわ。皆様、お気をつけて」

 

 ミレーヌが歩幅を縮めて慎重に歩き出した。後方から続くアレット達も周囲を警戒しながら進み始める。街道を外れて数刻ほどで、遠くに灯りが見え始めた。松明の灯りかと身を低くするが、ミレーヌは隠れようとしなかった。彼女には暗闇でも関係なく周囲が見えていたからだ。


「屋敷が見えますわ。人々の生活の匂いがします」


 アレットは多くの盗賊たちと同じように、傭兵団も天然の洞窟や遺跡、廃村を根城にしていると思っていた。しかし、屋敷を拠点に構えているとなると、厄介である。盗賊なら殺して奪ったという可能性もあるが、相手はある程度統率のとれた傭兵団だ。おそらく、屋敷の持ち主と繋がっているのだろう。


「新しい足跡が屋敷の方角へ続いていますな」


「匂いの痕跡を辿ってまいりましたが、こうもはっきり足跡が残っているのなら必要ありませんでしたわね」


「いや。夜はその足跡も見えにくいし、姉さんのおかげで倍ぐらい早いんじゃねーか?」


 ミレーヌはジャンの呼び方が気になったようで、首を傾げた。


「あねさん……?」


「おう、頼りにしてるぜ姉さん」


「まぁ、なんて可愛気のない弟分でしょう」

 

 風に乗って、控えめな笑い声が聞こえてきた。どうやら彼女はその呼び名が気に入ったようだ。


「問題はどう仕掛けるかね……」


「待って。あの屋敷が貴族の持ち物なら、襲撃するのは止めた方がいい」


 盗人に仕立て上げられ、公の場で裁かれることになってしまえば、カルラを襲った連中の思う壺である。この中で貴族に顔が利くのはアレットしかない。しかし、いくら彼女でもアカデミーの郊外にある別荘が誰の持ち物かまでは流石に分からなかった。

 アレット達は屋敷の近くの茂みに身を隠し、様子を伺った。それほど目が良くないアレットでも、見張りが屋敷の外周をうろついているのが分かった。


「ここに武具があるのは間違いないね。せめて場所さえ分かれば……」


 こっそり忍び込んで、物だけ取り戻すこともできるだろうか。アレットが注意深く屋敷の造りと周囲を観察していると、ミレーヌが小声である提案をした。


「わたくしなら、バレずに様子を見に行くことも容易いですわ」


 ミレーヌであれば、偵察だけでなく屋敷の制圧も容易いだろう。しかし、あと数刻もすれば夜明けである。無理はせず、様子見だけで戻って来るという条件で、アレットはミレーヌに偵察を頼んだ。

 彼女は隙を見て茂みから飛び出すと、屋敷の壁を駆けのぼり、屋根の上から手を振った。その様子を呆然と見ていたアレット達も、彼女が開いた窓からスルリと侵入したのを見て、陽動作戦を練り始めた。

 

「私に策があるわ。私はアレットと二人で正面から連中の気を引くから、貴方達二人はミレーヌの先導で見張りの少ない場所から侵入して」

 

「確かに五人で行動すれば目立つが、正面からいくメリットはなんだ?」


「アレットに一芝居売ってもらうのよ。貴女、成り上がりとはいえ一応この国の貴族なのよね? それも大金持ちの……」


「なるほど。私とカルラなら直ぐに殺されてしまう心配はないってことね」


 アレットはすぐにカルラの言わんとしていることを理解した。二人が正面から騒ぎを起こし、その隙に手薄となった裏口からジャン達を侵入させ、武具の回収を済ませるという作戦だ。アレット達が捕まったあと、同じように最低限の人数で侵入し、助けに入ればいい。異論はなかったが、クリスだけは難色を示した。


「些か、心配ではございますが……他に案がないのであれば仕方ありませんな」

 

 クリスも正面からの同行を申し出たが、彼の見た目では余計な警戒心を与えてしまう。彼の同行はカルラに却下された。


「愉しそうなお話をしていますわね」

 

 不意に暗闇から凛とした声が響き、全員の肩がビクリと震えた。気配が全くしなかったが、ミレーヌが偵察から戻って来たのだ。まるで買い物でも済ませて来たかのような手際に気後れしつつ、アレットは少しホッとした。


「どうだった?」


「厨房に食材を搬入する用の勝手口がございました。そちらは手薄でしたが、各部屋に見張りがいましたわ。まるで屋敷全体がちょっとした倉庫のようでした。邪魔そうな方々は数名眠らせておきましたけれど……」


「姿を見られてはいませんか?」


「いいえ、ちっとも」


 得意気に胸を張ったミレーヌに、クリスは複雑そうな表情を浮かべた。そのあまりにも場慣れした様子は、彼女が夜闇に紛れて人を襲ったのが決して初めてじゃないことを物語っていた。


「……殺してはいませんわ」


「分かっております」


 その短いやりとりに、二人の立場や微妙な関係性が垣間見え、アレットは胸が苦しくなった。解決策が見えない問題だけが積もっていく。しかし、今はとにかく目先の問題を優先するべきである。


「屋敷の中には傭兵団の連中だけだった?」


「いいえ。屋敷の使用人が数名いましたわ。家主は見当たりませんでしたけれど……」


 おそらく、家主に表向きの屋敷の管理を任された使用人たちだろう。


「指揮官っぽい奴はいなかった?」


「どうでしょうか。全てを見て回れたわけではありませんの。盗んだ物が保管されている場所と、脱出経路の確認しか……」


「いや、十分だよ」


 どの現場にも指揮官はいる。しかしまさか、こんな場所に組織の要である人物はいないだろう。カルラの陽動作戦は、それを見越した上でのものだ。例えアレットとカルラが捕まったとしても、猶予があるのだ。現場の指揮官はアレット達の処遇について、どうしても上部に確認を取らなければならないからだ。


「で、”一芝居”って言ってたけど……私はなにをすればいいの?」


 アレットは短く息を吐き出すと、覚悟を決めてカルラへそう問いかけた。


 ◇


 屋敷の正面に立つと、思ったよりも洒落た屋敷であることが分かった。すぐに複数名に囲まれたアレットは、両腕を縛られた状態のカルラの背を乱暴に押した。


「宮廷魔導士のアレット・アダンと申します。王宮の命令である人物を捉えました。家主はいますか?」


 入口の見張り達は、二人をまじまじと見つめた。皆、顔に竜の刺青がある。アレットを警戒しつつ見張りの一人が口を開いた。


「宮廷魔導士の証をみせろ」


「今は持っていません。ただ、王宮からの文はここに」


 最近まで宮廷魔導士として働いていたアレットに、文の偽造は容易かった。上質な紙が使われた解雇通知書に少し小細工をしたのだ。即席ではあったが、王国印は本物である。

 見張りの男がアレットの手から文を奪うように取ると、紙を広げた。男の目は右下の王国印だけを注視していた。おそらく、文字が読めないのだろう。


「用件は分かった。だが、なぜここに……?」


「理由は知りませんし、聞かされていません。ただ、ここへ連れてくるようにと指示されただけです」


「誰に指示された?」


「それを軽々と口にするわけにはいきません。屋敷の主を呼んでください」


 アレットがきっぱりと言い放つと、見張り達に動揺と緊張が走った。


「おい、お前なにか聞いてるか……?」


「い、いや……なにも――」


 概ね、作戦通りであった。アレットは確かな手応えを感じ、更に見張り達を追い詰めた。


「それを言うなら、なぜ傭兵団が貴族の屋敷に……?」


「お、俺達はただの警護で雇われただけだ」


「警護? みたところ別邸のようですが……随分、厳重なんですね」


「知らねーよ、貴族なんだから貴重品でも持ってんじゃねぇのか?」


「おい馬鹿、余計なことを――」


「――その女の問いに答える必要はない」


 よく通る低い声が、辺りに響いた。正面玄関から現れたのは、見覚えのある男だった。


「――、うそ……」


 アレットの口から思わず小さな声が洩れた。背丈の大きな男は黒装束を身に纏い、伸ばしっぱなしの黒い髪を後ろに流していた。顔には無数の傷と刺繍があり、矢筒を背負っている。

 まさか、こんな場所にその人物が居るとは思っていなかった。アレットの脳裏に”失敗”の文字が過る。同時に、事の重大さを知った。団長自らが警護するほど、カナンの王族の遺品は重要視されているらしい。


(マズい……完全に読み違えた――)


「アレット・アダン……アダン商会、ドミニク男爵の次女か。確かにお前の姿は王宮で見たことがある。だが、おかしいな。お前は数カ月前に解雇されたと聞いている」


「私の研究が見直されて、再雇用されました。つい最近です」


 男はアレットの前に立つと、その小さな身体を見下ろした。彼はまったくの無表情で、首を傾げてみせた。

 

「それは妙だな。俺が解雇の事実を知ったのもつい最近だ。再雇用の勧誘を何度も断られ、困っているとエイマーズ卿がボヤいていたぞ」


 ここでもその名を聞くことになるとは思わなかった。考えてみれば、レクト・エイマーズは侯爵家の嫡男である。他人の、特にアレットの研究成果を盗むような真似だけはあの男のプライドが許さない。彼の性格を知っているアレットは、自身を陥れたのはレクトではないと確信していた。しかし、国事に関しては無関係ではない。カルラを攫うよう指示を出した貴族と繋がっている可能性は十分にあった。


「……彼と、親しいのですか?」


「その質問に答える義理はない。文を見せろ」


「あっ、はい……!」


 見張りの男が団長の手に偽装文書を手渡した。彼は文を広げると文面を目で追い、微かに口角を上げた。アレットの作った即席の偽装文書はレギオン傭兵団の団長、バージル・レギオンの眼を欺けるほどの出来ではなかった。


「王国印が本物であるところをみるに、細工をしたのは文章だな。俺には解雇通知書にしか見えんが」


 アレットの顔は火が点いたように赤く染まった。バージルが現れた時点で、捕まらずに正面から屋敷に入れる可能性は低くなった。アレットは稚拙な偽装文書を見破られた羞恥心を堪え、カルラの背中を指で小さく叩いて、別の作戦へ移行するサインを出した。


「やっぱり、貴方の眼は誤魔化せないか。確かにそれは偽物。でも、彼女の身柄を引き渡しに来たのは事実だよ」


「その女が何者なのか、知っているのか?」


「知ったのは偶然だけどね。一緒に居た冒険者仲間がカナン人だったから」


「その仲間を裏切って、女を引き渡しに来たと?」


「そうだよ……一緒に居たら売国奴スパイだと思われるでしょ。これ以上関わりたくない。盗難騒ぎがあった時に、もしかしたらと思って貴方達の足跡を追ってきて正解だった」

 

 つらつらと、アレットの口から心にもない言葉が並び出る。カルラはまだアレットを完全に信用したわけではなさそうだった。両手を縛られたまま、人攫いの集団に囲まれている彼女の心境を想うと、もどかしく感じた。今頃勝手口から侵入しているであろうジャン達の存在が無ければ、彼女は間違いなく暴れ出していただろう。


「偽装文書は何のために用意した?」


「話を聞いてもらうためだよ。いきなり来たって怪しまれるでしょ」


「その女を我々に引き渡したとして、貴様は無事で帰れると?」


「帰れるよ。貴方は私を見くびっているだろうから。せっかく連れて来たのに……欲しくないの?」


 アレットはワザとらしく無邪気に首を傾げた。


「理屈はわかった。だが、リスクを冒すには弱いな。売国奴になりたくないのなら関りを絶てばいいだけの話だろう」


「そんな単純な話じゃないって分かってるくせに……彼女の出現で私は同行していた仲間のカナン人から、聞きたくもない話を聞かされた。彼等にとっても、私は無視しておけない存在になった」


 話の筋は通っていた。バージルは少しだけ考えるような素振りをした。


「ただで引き渡すと思ってたの? もちろん、条件付きだよ」


「条件……?」


「そう。ほとぼりが冷めるまで、私を匿って欲しいの。彼女を連れ出した時点で、追われる身になったから」


「リスクを冒す代わりに、身の安全を保障しろというわけか」


 バージルは無精ひげを撫で、意味深な視線でアレットを見つめた。


「わざわざこんなクソの掃き溜めに助けを乞わずとも、お嬢さんは家に帰ればいいだろう。その方がよっぽど安全だ」


「他人はいつもそういうの。私の家が絶対に安全だって。でも、絶対なんて言い切れないでしょ」


「……受け入れてやらんこともないが、一つ忠告しておく。うちは諜報依頼も請け負っている。嘘は直ぐにバレるぞ?」


 そう言ってバージルは右手を差し出した。アレットは警戒しながらも、交渉成立の証と判断し、革の手袋に覆われた大きな手を取った。その時だった。強い力で引っ張られ、彼女の身体は一瞬で大きな黒い獣にのまれてしまった。


「ちょ……なにっ?! は、放してッ……!」


 咄嗟に懐の魔鉱石を媒体に魔法を発動させるが、何も起こらない。光の矢も、石つぶても、得意の炎すら顕現しなかった。頭上から、クツクツと含んだような笑い声が聞こえ、顔を上げる。


「なぜ魔法が発動しないのか、不思議か? 知りたいなら、俺の手袋を外してみろ」


 身動きが取れないアレットは言われるがまま、細い指で彼の皮手袋に触れた。不安定な姿勢で身を預けているせいで、上手く引っ張れなかったが、やがて節くれ立った大きな手が露わになった。その指には暗闇の中、一層黒く輝く指輪が見えた。


「こ、これ……オブシディアン(黒曜石)……?」


「ご名答。噂に違わず賢いようだ。ならばもちろん、この石の力も知っているだろう」


 あらゆる魔法を無効化し、魔力を吸収する、魔導士にとっては呪いのような代物である。その宝石の正体を知った途端、アレットの心を恐怖が支配した。


「ドミニクの娘、アレット。俺は最初から貴様を見くびってなどいない。だが、貴様は俺を見くびった」


「わ、……私を捕まえてどうするつもり?」


「傭兵団の資金にする。売り飛ばしてもいいが、それだとあまり金にならない。貴様の家に身代金を要求する」


「む、無駄だよ! お父様は私にお金を使ったりなんか――」


「やってみなければ分からん。おい、その女も連れて来い」


「は、はい、団長!」


 バージルはアレットを担いで屋敷の中へと歩き出した。担がれたアレットは、後ろからついてくるカルラと視線を合わせた。時間稼ぎは十分できた。できればアレットは捕まらない状況が理想だったが、”その場で殺されることはない”というカルラの読みは大当たりだった。順調ではないが、当初の作戦に支障は出ていない。


「この女はどうします?」


「地下の牢にぶち込んでおけ。念のため、アダン商会の娘とは別にする」


 二人は玄関で引き離されてしまった。アレットが再びカルラに視線を送ると、彼女は片目を瞑ってアレットの時間稼ぎに称賛を示した。

 

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