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天才魔導士とカナンの猟犬  作者: もにみぃ
魔導士アレットと誓いの腕輪
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第3話:そんな貴方に騙されて

 明け方。目を覚ましたアレットは、見覚えのない宿のベッドに寝そべっていた。

 酷い頭痛に呻き声を上げ、怠い身体をなんとか起こす。そこで、自身が服を着ていないことに気付き、動揺する。下着すら身に付けていない生まれたままの姿になっていた。服を探そうと視線を落としたところで、ようやく傍らに寝そべる男の存在に気付いた。ギョッとして身を引いた拍子に、ベッドから転がり落ちる。バクバクと煩い心臓を抑え、恐る恐る、もう一度ベッドの上を確認する。

 見知らぬ男だった。昨晩、テリーという男に絡まれ、仕方なく酒を酌み交わした記憶まではあった。だが、寝そべる男はテリーより若く、筋肉質だが均衡のとれた身体つきで、精悍な顔をしていた。しかし、垂れ目がちな眼元にある泣き黒子が、誠実そうな顔立ちを軟派に見せていた。


「う、うそ……」


 信じたくはないが、ここまで状況が揃っていれば、アレットも認めざるをえなかった。もちろん、見知らぬ男と互いに全裸で朝を迎えたという事実をだ。

 頭を抱えながら、なんとかベッド下へ散らばった服に手を伸ばし、袖を通す。昨晩のことがぽっかり記憶から抜け落ちているアレットは、男から事情を聴く必要があった。しかし、頭の整理と心の準備が必要だった。

 暫く放心状態だったアレットも、窓から日が差し込む頃になってようやく、目の前の現実を嫌でも受け止める覚悟ができた。アレットは深呼吸すると、隣に寝そべる見知らぬ男を揺すり起こした。


「ああ、おはようお嬢さん」


 あまりに気の抜けた挨拶に、アレットは思わず「おはよう」と返事をしてしまった。均衡のとれたしなやかな肉体をくまなく観察するが、見れば見るほど見覚えのない男だ。

 彼は短く切り揃えた前髪を撫でつけながら、大きな欠伸をした。


「昨晩は凄かったなぁ。この俺が酒の力を借りずに爆睡とは……信じられねぇよ」


 品のある顔から、品の無い言葉が紡がれる。その不整合さに不快感を覚え、寝ぼけたニヤケ面を引っ叩いてやりたくなったが、アレットは耐えた。


「……まったく記憶がない。テリーって人と乾杯をしたのは覚えてるけど……何故こうなったのか聞いていい?」


 男はバランスのとれた美しい筋肉を惜しげもなく晒しならが、伸びをた。


「へぇ……この状況なのに意外と冷静だなアンタ」


 まったく質問に対する回答になっていなかった。全身が怠いだけでなく、酒の所為で頭痛がする。身勝手な話だが、アレットには男の無駄話を聞く心の余裕はなかった。


「質問に答えてくれる?」


「答えてやってもいいが……実際見た方が早いだろうな。部屋を出る準備をしろ。『旅の果て亭』へ行くぞ」


 ますます混乱するばかりだったが、とりあず言われるまま外出の準備をした。宿を出たアレットは先導する男の後ろをフラフラとついて歩いた。そうして昨晩訪れた酒場の前の通りまで来ると、異変に気付いた。店の前に人だかりが出来ている。異様な空気を感じ取り、思わず早足になる。人だかりを押し退けて店の前に立った時、アレットはあまりの光景に呆然とした。

 ちょっとしたボヤ騒ぎどころじゃなかった。昨晩まで酒場があった場所は全焼し、瓦礫の山になっていたのである。


「な、なにこれ……どうして一晩で、こんな――」


 現実を受け止めきれずにいると、まだ辛うじて記憶にある顔が瓦礫を掻き分けて出てくるのが見えた。彼の大きな隈を拵えた瞳がアレット捉えると、直ぐに鬼のような形相で突進してきた。


「おいクソ女!!! テメェ、どうしてくれんだ、えぇ!?」


 胸ぐらを掴まれ、ほとんど足が宙に浮いた状態で身体を前後に揺すられる。吐き気が込み上げ咄嗟に両手で口を覆うアレットに、酒場の店主はギョッとして身を引いた。

 まったく状況が掴めていないアレットは阿保のように目を丸くし、吐き気を必死に堪えることしかできなかった。


「まぁ待てマスター。この女、どうも昨晩の記憶が一切ないらしい」


「なんだと?! お前がっ、お前が俺の店をッ……!」


 悲痛な男の叫び声に、吐き気が引っ込んだ。嫌な予感が胸を過る。アレットの顔をみて怒り狂った店主、焼け落ちて瓦礫の山になった酒場。この惨状の原因が自分にある可能性が浮上する。


「も、もしかして……わ、私がこれを? すみません……彼の言う通り、何も覚えてなくて。順を追って説明してくれませんか?」


 店主はアレットの言葉にショックを受けたのか、茫然としたまま黙り込んでしまった。代わりに、宿から連れ添っている男が一部始終を説明し始めた。


「まず、テリーのことからだな……」


 昨晩、アレットに酒を勧めたテリーという名の男は、身体中に火傷を負い搬送されたらしい。町医者では治療できないほど酷い火傷らしく、教会で治療を受けているという。恐ろしい外見に似合わず人当たりが良さそうに見えたが、彼はアレットのような若い女性の冒険者を酔い潰して遊ぶのが趣味だったらしい。


「こんな汗臭いゴロツキしかいねー酒場に、見るからに育ちのいいお嬢さんが来たんだ。ここらじゃ娼婦以外、女は夜に出歩かねぇ。自分が場違いだった自覚はあるか? アンタに世間の厳しさを教えてやろうって連中は他にもいたが、テリーが早かったんだよ」


 アレットは昨晩の店主の失礼な態度を思い出す。もしかしたら店主だけは、最初からアレットの身を案じて酒場から追い出そうとしていたのかもしれないかった。しかし、ただ世間知らずの若い女が拐かされただけであれば、大した事件じゃなかった。一番の悲劇は、テリーの標的がアレットだったことだ。彼が酔ったアレットの身体を抱き上げ、”公開処刑”と題して外套を無理やり剥いだ途端、テリーの身体は炎に包まれた。酔い潰れてとっくに自我を喪失していたアレットは無意識に魔法を放ち続け、酒場を文字通り火の海にしてしまった。

 その瞬間まで酒を片手に盛り上がっていた客たちが必死で逃げ惑う中、暴走したアレットを止めたのは今朝から連れ添っている男だった。魔力を使い果たして気を失ったアレットを自分が借りている宿へ移してくれたらしい。


「貴方の親切に感謝します。あの、お名前は……?」


「俺はジャン、ジャン・ブラックだ」


 ジャンのおかげで、アレットは何も分からぬまま牢の中で目を覚まさずに済んだ。


「これはテリーの軽率な行動が招いた結果でもある。優秀な魔導士はその身体に防護魔法を施してるらしいからな。昨晩はそれが作動しちまったんだろ。相手の実力を見誤って手を出しちまったのは、テリーの落ち度だ」


 心が広いというよりは他人事だからか、ジャンは意外にもアレットを擁護した。アレットは自身の軽率な行動を猛省したが、ジャンの主張に違和感を覚えた。魔導士にとって防護魔法は最終手段であり、それが発動するような事態となれば命の危機である。テリーが身体を弄っただけで発動するはずがない。それに、アレットは防護魔法に不備がないか、今朝真っ先に自身の身体を確認した。だが、魔法が発動した痕跡はなかった。

 アレットだけは知っていた。昨晩の魔法による暴走は危機管理のための防御装置が発動したのではなく、単に酔って暴れただけであると。しかし、どうやらジャンが都合よく勘違いしているようなので、アレットも防護魔法については深く言及しなかった。


「なぜ俺の忠告を聞かなかった?! アンタのせいで俺の店が……ッ」

 

「す、すみませんでした! まさかこんなことになるとは……あの、弁償します。営業できない期間を含めて金貸10枚ほどならすぐ用意できますので……」

 

 アレットは改めて焼け落ちてしまった酒場の残骸に目を向けた。昨晩の活気など見る影もない。焼け焦げた木材の匂いと、今だに天へ登る煙が虚しく空気中を漂っていた。


「まぁまぁ、お嬢さんもこう言ってるし、幸い俺様のおかげで怪我人はでなかったんだ。それに金貨10枚あれば建て直せるどころか釣りが返ってくるだろ」

 

 アレットの提示した金額なら、少なくとも建て直しの費用は補えるだろう。賠償費用として十分な額かどうかは分からないが、金貨10枚はいまアレットが所持している全財産だった。いざとなればラヴィア王国を出るために大切に貯めていた資金だったが、こうなってしまっては仕方がない。


「俺が地道に貯めてた金はどうなる?! ジャン、てめぇのツケだって残ってんだからな!」


「お、おいおい、俺のおかげで怪我人も出なくて済んだんだぜ? 俺がこの女を止めなかったら、マスターの店で人が死んでた。そうなりゃ裁判で国から補助金が降りても、精々金貨3、4枚が関の山だ」


「確かにお前さんは腕が立つ。ここらのどんな荒くれ者も、お前の言うことには逆らえねぇよ。だがな、金の話だけは別だ。テメェが酔って暴れて壊した棚や机の弁償代、調子こいて娼館の女を全員連れ込んで奢りまくった酒代、その時の貸し切り代……他にも散々やらかしてるだろ。占めていくらになると思ってやがる? 金貨100枚はくだらねぇんだぞ!?」


 ジャンという男のイメージが、アレットの中で一変した。

 

「おいコラくそオヤジ、それは流石に吹っ掛けすぎだろ! どう見積もっても金貨100はねぇ! 精々50か80程度だろ!」


「借りてる自覚あんじゃねーか! 威張るなバカ野郎!」


「いつだったか、まとめて返したじゃねーか!」


「お前から返って来たのは金貨30枚だろ! 借用書が燃えちまったからって有耶無耶にできると思うなよ!」


 金貨30枚をまとめて返せるなら、残りの借金だって返せそうなものである。地道に依頼をこなして貯金していたアレットですら、金貨10枚が貯金額の限界である。


「金貨10枚は私が支払える全額なんだけど……まさか、それでも足りない?」


「建て直しにはそれで十分だよ。だが、店に置いてた売り上げ金も燃えちまってるし、建て直しの間は収入がなくなる。……だがまぁ、自警団にアンタを突き出しても金は返って来ない可能性が高いのは確かだ」


「だから、待てって。今回の件はテリーにだって責任があんだろ。そういう細けぇ損失はテリーに請求しろよ」


「あの黒焦げのロクデナシに銀貨1枚だって稼げると思うのか!? ジャン、お前も見ただろ。あの火傷じゃ全治九カ月はかかる」


「だからそれは自業自得だ。腕のいい神官に預けてんだ。火傷程度ならすぐ治る。それに、ここはアンタの店だろ。テリーの勝手を許してたアンタにだって落ち度はあるんだぜ? とにかく、全ての責任をこのお嬢さんに負わせるのは筋違いだ」


 ジャンの正論に対し、返す言葉がないのか店主は言葉を呑み込んで唸った。

 テリーの行為はほぼ犯罪に近い。それを黙認していた店側にも責任はある。アレットはようやく自分がここへ連れて来られた理由を理解した。おそらく店主は最初から直談判を望んでいたのだろう。テリーのことも含めて店側にも隠したい事実があるということだ。しかし、どこまでがジャンの取り計らいなのかは、アレットにも分からなかった。

 アレットの心臓は派手に脈を打っていた。裁判や自警団の調査を挟まず、このまま直談判にしてくれたほうが、彼女にとっても有難かった。ジャンの勘違いで正当防衛ということになっているが、防護魔法が発動したかどうかなど調査が入ってしまえばすぐに分かる。

 全てがジャンの説得に掛かっていた。アレットは祈るように拳を握りしめた。


「……分かったよ。俺の店を燃やしたのはそこのクソ女だが、テリーの素行の悪さには俺も参ってたんだ。アイツにも責任を取らせる。だがジャン、さっきから妙にその女を庇うじゃねーか。まさかお前――」


「やい、暴走魔導士! テメーは俺に恩があるよな? 俺のおかげで牢にぶち込まれず済んだんだ。酒場の客が一人でも死んでたら、アンタは今頃、裁判に負けて火あぶりだ」


「は? え、……えぇッ!?」

 

 清々しいほど、鮮やかな掌返しだった。


「お前さんがもしテリーのおこぼれで楽しんだってーなら、テリーの分はジャン、てめぇが支払いな。燃えちまった売り上げと建て直しまでの売り上げの見積もりでざっと銀貨80枚ってとこか。しっかりツケに追加しとくぜ……それにしても、女の趣味が変わったな」


「な、だッ、誰が……こんなガキみてぇな女に俺が手ぇ出すわけねーだろうが!」


 テリーにはよっぽど支払い能力がないのだろう。責任をとらせろと言っていたジャンに負債が飛び火した。アレットの暴走を止めたというからには実力は確かなのだろうが、店主の話を聞いた今、悪印象の方が強い。見た目に反して、いい加減な男かもしれない。少なくとも、アレット本人を目の前にして「手を出してない」なんて堂々と嘘を吐く、ろくでなしであることは確かだ。

 ここまで擁護してくれた恩を感じようにも、結局アレットにとっては相手がテリーだったかジャンだったかの違いしかない。加えて、アレットはどうしても金貨10枚で手を打ちたかった。


「全焼させた責任はとるし、金貨10枚ならすぐに用意できる。でも、他のお金に関してはテリーかその男に請求してください」


「はァ!? テメー、それは流石に恩知らずにも程があんだろ!」


「私の暴走を止めてくれたことには感謝してるよ。でも、その後のことは私が頼んだわけじゃない。たとえ裁判になっていたとしても、正当防衛で情状酌量の余地はあったはずだし、テリーの罪が明るみにでれば見て見ぬふりをしていた連中も共犯になる。恩は感じてるけど、過剰に恩を着せられるようなことでもないから」


 榛色の瞳が大きく見開かれる。借金を負うか否かの瀬戸際に立っているアレットは、彼に文句を言う隙を与えず、たたみ掛けた。


「このまま直談判で話を進めるなら、あの男にも支払わせるっていうのは確かにいい案だと思う。状況的にも、流石に全部をこっちの所為にされたら、きちんと裁判を通した方が私にとってはマシだしね。まぁ、最終的に誰にその支払い責任を負わせるかは私が決めることじゃないし、店主の判断でいいと思うけど」


「だってよジャン。残念だったな! 魔導士って連中はどいつもこいつも理屈っぽくて好かねーが、この件に関しちゃ俺も同意見だ」


 悲嘆に暮れていた店主の顔には、笑みが戻っていた。どうやら店でのジャンが働いた迷惑行為は事実のようだ。対して、青褪めたジャンの表情は引き攣っていた。


「おい、アンタ……ここにいる禿オヤジ含め、昨晩ここにいた連中が燃え盛る酒場を見ながら、何を考えてたと思う? アンタを裸にひん剥いて八つ裂きにすることだぞ? それでも恩着せがましいとぬかしやがるのか?」


「貴方の前でも裸にはなったでしょ」


 途端に、店主の顔が鬼のような形相になった。


「ジャン、てめぇ……やっぱりやることやってやがったな! 滅茶苦茶な野郎だが、犯罪にだけは手を染めねーと思ってたのに」


 アレットに昨晩の記憶はないが、今朝のジャンの物言いからまったく何もなかったとは考えにくい。自業自得とはいえ全身に火傷を負ってしまったテリーより、ちゃっかりアレットを連れ帰り美味しい思いをしたジャンの方が、傍から見ても罪深い。


「は、はぁッ?! マジでなにもしてねーよ! あー、あれか……今朝のを真に受けてんのか? 安心しな。あれは女に恥をかかせないための礼儀ってやつだ。一切手を出しちゃいねーよ。防護魔法を警戒して、装備を全部引っぺがしたってだけだ」


「それなら貴方まで脱ぐ必要はなかったよね?」


 店主の汚物を見るような視線が、ジャンに向けられる。


「俺はベッドで寝る時は全裸派なんだよ! ……なんだ、もしかしてそれで俺をテリーの奴と同罪だと言いたいのか? さっきも言ったが、テリーみてぇな節操なしと一緒にすんな。俺にだって好みがあんだよ!」


「そいつは苦しい言い訳だろ……」


「言い訳なもんか。ここらの娼婦だって安くても銅貨60枚はするんだぞ? 誰がリスクを負ってまで幼児体系の女なんか抱くかよ。どう見たって銅貨50枚の価値すらありゃしねーだろ!」


「……、……」

 

 その瞬間、ジャンに対する感謝の気持ちは一瞬で掻き消えた。アレットは内心で”何もなかったこと”に安堵していたが、このまま何もなかったことになっては困る。男の品の無い失言は、アレットにとっては有難いものだった。これでなんの罪悪感もなく、彼を追い詰めることができるからだ。


「おい、ジャン……いくらなんでも今のは流石に男として最低だ。確かにクソ女だが、見てくれだけなら間違いなく上玉だろ。しっかり裸に剥いといてそれはねーぜ」


 店主の顔が青褪めたのを見て、流石に言葉が過ぎたと焦ったのか、ジャンは慌てて先ほどの発言を撤回した。


「あー……いや、今のは言葉の綾ってやつで……。その、あれだ。金で例えるのは良くなかったな!」

 

 アレットはこの状況を冷静に見ていたが、心が少しも傷ついていないかと言われれば、否である。銅貨50枚では安宿を三泊もできない。下手をすると葡萄酒にすら劣る金額だ。アダン家は爵位を貰った成り上がりの貴族だったが、品格やマナーはもちろん、常に美しくあることを強要された。宮廷魔導士になれなければ嫁ぐことが決まっていた彼女は、その状況から抜け出すために己の価値を磨き続けたのだ。そんなアレットが、よく知りもしない他人に自分の価値を量られて不快に思わないわけがなかった。

 しかし、物に価値を付けるのは人だということも、商人の娘であるアレットは痛いほど理解していた。だからこそ、ジャンの言葉に不快感を覚えた。

 

「貴方から見た私の価値になんて興味ないし、別にいいよ。それより、この状況で貴方がどんな言葉を並べようが、無駄ってことの方が重要だよ。私には昨晩の記憶がないから、貴方の潔白を証明する証拠なんてどこにもない。私は別に今から自首してもいいんだよ? そうなったら困るから、私を自警団に突き出さなかったんでしょ? 自分だけ上手く立ち回ったつもりでも、ボロがでたね。偉そうに他人の価値を量るよりも、その空っぽの脳みそに知恵を詰め込める容量がどれだけあるのか量ったほうが有意義な時間を過ごせるんじゃない?」


「は、……? か、空っぽ――」


「とにかく、私は残りの損失を貴方が払おうがテリーが払おうがどっちでもいいから。まぁ、中途半端に親切を装って恩を着せてこないだけ、テリーの方が善良だけど。店主、金貨10枚はすぐお渡しします。銀行で手続きをしたいので、ついてきていただけますか?」


「お、おぅ……分かった」

 

 アレットは有無を言わさず店主を連れて銀行へ向かって歩き出した。さっさと現場から離れたかったのである。

 防護魔法が発動していないことがバレれば、不利な状況に追い込まれるだろう。実力だけは確かであろうジャンが、それに気付いてしまう可能性もある。流石に売り上げの損失分まで支払うことになっては生活もままならなくなってしまう。

 本当に裁判になれば、アレットに情状酌量の余地などない。酔って暴れて酒場を燃やし怪我人を出したという情けない真実が露呈し、社会的に終わるだろう。

 

 アレットは件の秘密を墓場まで持っていくと固く決意したのであった。

 

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