瑠衣の過去と未来への葛藤
私の人生は、記憶を遡れば遡るほど痛みと悲しみに染まっている。
最初の不幸は4歳の時、私は一瞬にして家族を失った。
旅行の帰り道、楽しさの余韻がまだ残っていた車内。
次の瞬間には耳を裂くブレーキ音と強い衝撃が私を包み込んだ。
事故だった。両親と姉は即死。私だけが独り、生き残った。
「瑠衣ちゃん、ここが今日からあなたの家よ」
数日後に連れて行かれた親戚の家。
その言葉は優しげだったけど、その後の現実は全く違った。
親戚の家では、私は透明な存在だった。
食べさせてもらえないことも珍しくないし、
他の子どもたちと同じように甘えてみたら叩かれた。
布団の中で痛みと孤独に耐え、泣きながら眠った日々が続いたけれど、誰も助けてはくれなかった。
パパやママ、お姉ちゃんに会いたいと毎日そんなことばかり考えていた。
7歳の時、酒に酔った叔父に蹴られた時、机の角で頭を打って大怪我を負った。
病院で診察を受けた際、明らかな発育不全と無数の痣を指摘され、叔父は傷害罪で逮捕。
私は施設に保護された。
施設の人はみんな優しかった。
温かいご飯、清潔な服、安心して眠れる夜。ここに私を傷つける人はいない。
それだけで幸せだと思えた。
けれど、学校はそうはいかなかった。
「瑠衣ちゃんのランドセルぼろぼろ」
「パパもママもいなくてかわいそう」
「施設の子は入っちゃダメ」
「何でいつも同じ服ばっかりなの?」
同級生たちは容赦なかった。純粋な言葉は私の心を抉るには十分だった。
いつの間にか友達を作ることを諦め、一人でいることに慣れようとした。
中学に上がる頃には、純粋な言葉から悪意ある言葉に代わっていった。
この頃の私には友達だと呼べる存在が1人だけいた。同じ施設で育った2歳年上の女の子だった。
私は彼女のことを本当の姉のように慕っていたし、
お姉ちゃんが生きていたらこんな風にお話しできたのかななんて考えたりして、
彼女と過ごす時間が大好きだった。
しかし、幸せな時間はまたしても簡単に崩れ去っていった。
彼女は私が施設の職員に特別扱いをされていると勘違いし、
「瑠衣は〇〇さんとヤッてる」と嘘の噂を広めた。
些細な悪意は雪だるまのように大きくなり、ネットには私と職員の写真まで出回っていた。
そのうち悪質なコラ画像まで出てきて私は絶望した。
誰も真実なんか知ろうとしない。目の前に転がっている面白いネタに飛びついて
より面白くなるよう脚色して拡散させて。
それが本当かウソかなんて奴らにとってはどうでもいいのだ。
それならば、と私は抗うことすら諦めた。
姉のように慕っていた、たった1人の友達に裏切られ
ネット上は私のこと好き勝手にネタにしたり誹謗中傷するやつで溢れかえっている。
怒り、悲しみ、虚無。もうすべて何もかもどうでもいいと思った。
そんな時、ふと思い出したのが祖母の存在だった。
1度だけ会ったことがあるその姿はとても美しく穏やかな女性だった。
「おばあちゃんのところに行きたい」
施設に何度も何度もお願いし、祖母の連絡先を教えてもらった私は
15歳でようやく祖母と再会することができた。
私の現状を知った祖母はすぐに引き取る手配をしてくれた。
祖母は記憶に違わずとても優しく、温かく私を迎え入れてくれた。
彼女のそばにいると、辛かった日々が少しずつ癒されるようだった。
しかし、ささやかなそんな幸せさえも長くは続かなかった。
高校を卒業して間もなく、祖母が病気で亡くなった。
その瞬間、私は再び一人ぼっちになった。
そして現在。
私はラフェルの話を思い出す。自分がそんな特別な存在だなんて、到底信じられない。
でも、彼らが嘘をついているとも思えない。自分がこの数時間で体験したことが物語っている。
今はただ衝撃の事実を知ったことで胸がずっしりと重たくなっている。
「おばあちゃん・・・。私、どうすれば・・・。
私もみんなのところに行きたいよ・・・。」
私は祖母との思い出が詰まったこの部屋を見渡し、面影に縋りつく思いで本音を零した。
突然、たんすの引き出しから光が漏れだした。
「え?何?」
恐る恐る引き出しを開けると、そこには一通の手紙が入っていた。
まるで昔の王族かなんかが使っていたのではないかと思うほど
立派な封筒には封蝋印まで施されていた。
私は封を開け中身を確認した。
そこには見覚えのある字が書かれていた。
【瑠衣、あなたは特別な子です。あなたには果たすべき使命があります。
生きる意味がわからなくなっても、きっとその答えは見つかるはずだから、諦めないで。
大丈夫、あなたは一人じゃない。今も私とあなたは繋がっている。
あなたならいつかきっと感じ取れるようになるはずよ。
もっと周りを頼って。今のあなたには助けてくれる人たちがいるはず。
最後に。瑠衣、愛してるわ。笑顔で強く、生きていってね。】
最後の文字を読み終えると同時に手紙が強く光り出し、私は思わず目を閉じた。
そして私の手の平にはキラキラと輝くクリスタルが残っていた。
私は手紙を読んでなお、答えを出せないままでいた。
私なんかにそんな力を託されても困る、というところが本音だった。
今の私には守りたいと思えるものが何一つないのだから。
ふと、帰り際に見たリアの姿を思い出す。
ところどころ黒く焼け焦げ、さらに片翼を失っていた。
それはとても天使のものとは思えない歪な翼だった。
翼を失い、いくつもの傷跡を刻み、それでも戦い続けるって
いったい何が彼女をそこまで奮い立たせるのだろう・・・。
私が果たすべき使命。
きっとそれはラフェル達とともに悪魔と戦いこの世界を救うということなのだろう。
彼らと行動を共にすれば、何か違う視点が持てるのだろうか。
今は、私はどちらかというと、理不尽なこの世界を嫌い、短絡的で利己的な人間達を憎み、
大切な人すべてを失った悲しみに明け暮れている。
まごうことなき悪魔的思想だ。
こんな私にできることなんて本当にあるのだろうか。
何度考えても、「人間達を守るために戦う」という結論は出なかった。