第8話 天使の光
サノさんと親子のふりをしてリーヴ美術館の中に入る。
美術館には数々の絵画や彫刻が展示されていた。
ルミエール、別名『天使の光』は建物の最奥に展示されているようだ。
「お父さん、色んな作品があるね!」
「せやな。綺麗やなぁ」
親子のふりでたわいもない会話をしながらどんどん奥の方へ歩いていく。
そのうちにたくさんの警備兵に囲まれた一角に観光客が群がっているのをみつけた。
「あそこやな」
サノさんがそう言って群がる観光客の隙間を進んでいく。
私は後ろからついていくので精一杯だ。
最前列までいくと厳重に箱の中に保管されている宝石が目に入った。
「これが『天使の光』……」
思わず声が出てしまうほど綺麗な宝石だった。
ルミエール、別名『天使の光』はある貴族の家に代々伝えられてきた宝石で、最後の当主が亡くなったためにこの美術館に寄贈されたのだそうだ。
人々はそれを一目見ようと連日ここを訪れている。
今ではこの土地の観光を支えている宝石なのだ。
この世にあまり数がないイエローダイヤモンドであり、その名の通り優しい光を発している。
今までも数多くの怪盗や盗賊によって盗まれそうになったというが結局誰1人として盗めた者はいなかった。
前世の私も盗めなかった因縁の宝石。
私たちはしばらくルミエールを観察した後、これからの作戦を話し合うために外に出る。
「本当にこの宝石を盗むんですか?」
「まぁ、前世体験やしな。怪盗の体験なんてこういう機会がないと出来んよ」
サノさんはそう笑って答える。
「前世の怪盗エマでも盗めなかったルミエールを盗んでやろう?」
「そうですね。前世の私のために!」
サノさんの言葉に勇気づけられ、私は怪盗エマに因縁の宝石を捧げると誓うのだった。
深夜2時。
黒塗りの1台の車がリーヴ美術館近くの森の中に静かに停車した。
その車から静かに降りる影2つ。
黒い全身タイツを身にまとった少女とおじさん。
2人は警備兵の隙をつき、美術館の中へと潜入した。
「サノさん、この格好なんですか?」
私が小声で尋ねる。
「これじゃ怪盗じゃなくて泥棒なんじゃ……」
私が文句を言うとサノさんはしーっというジェスチャーをし、私に小声で話しかけた。
「静かに!これが1番動きやすいんや。文句言いなさんな」
「えー。怪盗っていえば、シルクハットにマントだと思ってたのに」
私はテレビや映画で観た怪盗を思い出していた。
「そんなもん、また今度コスプレでもなんでもしたらええやん」
くだらない会話をしながらルミエールが置いてある部屋に向かって物音を立てないように進む。
この時代はセンサーや防犯カメラもない。
ただ駐在している警備兵がいるだけだ。
しかし兵士の数が多いため見つかればすぐに捕まってしまう。
細心の注意が必要になるのだ。
「この時間は警備兵は立ってないからチャンスや」
サノさんはそう言ってルミエールが置いてある部屋の前を確認すると私に言う。
「中に入るで」
「う、うん」
緊張で汗ばむ手を抑えながらサノさんの後について部屋の中に入った。
薄暗い闇の中にルミエールが入っている箱が部屋の中央にぼんやりと見える。
私たちはゆっくりとその箱の前に近づいた。
「ん?」
「えっ?」
2人が声を上げたのは同時だった。
「無い!ルミエールが無い!何で……」
ルミエールがあると思っていた箱には何も入っておらず
空っぽだったのである。
予想していなかったことに慌てる私にサノさんも額に汗をかきながら考え込む。
「どうなってるんや。しょうがない。とりあえず退散や。それから考えよ」
そうして私たちは元来た通路を戻るのだった……。
翌朝、私たちは美術館の近くのカフェで朝食をとりながら昨夜の件について話し合っていた。
「ルミエール、一体どこにいっちゃったんだろう」
私はハムエッグを食べながら頬杖をつく。
「今、出張所の他のスタッフに調べてもらってるから」
サノさんはそう言うとコーヒーを飲み干した。
すると、サノさんのオールの着信音が軽快な音を響かせた。
「はい?うん、うん、そうか、わかった」
サノさんは手短に電話の相手と言葉を交わすと私の方を向いた。
「ルミエールの行方がわかったで」
「え?そうなんですか?」
サノさんは周りの客に聞こえないような小さな声で私に説明する。
「ルミエールの最後の持ち主の子孫が盗んだらしい」
「子孫が?」
「どこからか自分の先祖の噂を聞いたんやろな。欲に目がくらんだ犯行や」
その子孫は別の地域で地主をしている男だという。
「ななかちゃん、どうする?今回は残念だけどこれで体験ツアー終わるか?」
サノさんはすまなそうな顔をして私を見た。
私もこれで終わるのは仕方がないなと思ったその時、ある人のことが思い出された。
怪盗エマ。
彼女だったらどうしただろう。
きっとこうするに違いない。
「子孫の家からルミエールを奪いましょう!美術館に返さないと!」
私は驚くサノさんを前に闘志を燃やすのであった。