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第7話 小太りな怪盗

「ななか様、まもなく次の前世へ到着いたします。ご準備よろしくお願いいたします」

「はーい!」

部屋でゆっくり休めたおかげで疲れも取れた。

次の前世も存分に楽しもう!

気合いを入れたところでリンがやってきた。

「では行きましょう、ななか様」

リンが私の前を歩き、出口のドアへと誘導してくれる。

初めてではないがやはりドアを出るのは緊張する。

「では、いってらっしゃいませ。今回も良い旅になることを願っております」

リンはそう言ってドアを開けた後深々とお辞儀をした。

「うん!行ってきます!」

帰ってきたらまたリンが待っていてくれるという安心感を感じながら私は元気よく外に出た。


 ここは街中の一角だろうか。

前に見える大通りにはたくさんの人が行き交っている。

私は大通りから少し奥に入った細い道にいる。

今回のスタッフさんはどんな人なんだろう。

そう思いながらふとパン屋の前を見ると1人の小太りなおじさんが立っているのが目に入った。

おじさんと目が合うと、こっちだというように手招きされた。

(え?私?)

周りをキョロキョロ見ても他に人影はない。

私は怪しさを感じながらおじさんに近づいた。

「あのー。何ですか?」

言葉が通じるのかわからないがとりあえず聞いてみる。

するとそのおじさんはニコニコしながら答えた。

「あんたがななかちゃん?わし、サノって言います。よろしくお願いしますね」

小太りでニコニコと人当たりが良さそうなおじさん。

名前はサノというらしい。

「あ、フランスのスタッフさんですか?」

「そうやで。わからんことあったら何でも聞いてや」

「は、はい」

(このおじさんと怪盗の前世体験をするの?大丈夫?)

そんな私の思いも知らず、サノさんは事務的なことをいくつか説明している。

私は目の前の小太りなおじさんを見ながら絶望的な気持ちになっていた。


「そんじゃ行こか」

「え?どこにですか?」

「そんなもん、まず美術館の下見やで」

「え、ルーブル美術館とかですか?」

フランスの美術館といえばそこしか知らないのだ。

「ななかちゃんねぇ、ここはフランスだけどパリみたいな大都市じゃないんよ。田舎なの」

そう言ってサノさんはこの地域の地図を見せてくれる。

「パリがここ。で、今いるとこはここな。すごく離れてるやろ?」

「あ、そうなんだぁ。パリ行ってみたかったなー」

「そんなんは自分で海外旅行で行き〜。今から行くところはリーヴ美術館や」

「リーヴ美術館……」

「そこにあるルミエールっちゅう、別名『天使の光』と呼ばれる宝石を見に行くで」

サノさんは持っていたカバンから美術館のパンフレットを取り出す。

「わあ、なんか本格的!」

小説やテレビのドラマでよく見かける宝石の呼び名に興奮する。

「旅行気分は捨ててもらうで。ここからは怪盗になりきって行動や」

サノさんは厳しい顔つきになってオールをポケットから取り出し、何やら操作をしている。

するとどこからともなく1台の黒い車がこちらに来て私たちの前で止まった。

「さぁ、これに乗って。出発や!」

私を助手席に乗せ、サノさんは運転席に乗り込む。

怪盗というイメージを全く持てないサノさんを横目に見ながら背筋を伸ばして気持ちを落ち着かせる。

「第2の前世体験ツアースタート!」

サノさんはそう言うと颯爽(さっそう)と車を走らせた。


 街中からどんどん山のほうに進んでいく。

街の景色とは変わり、森の木々しか目に入ってこないような道をひた走る。

「こんな山奥に美術館があるんですか?」 

「うん。観光地としても美術館はあるからな。観光客を取り込む作戦らしい。ここらは避暑地やからな」

「へぇ」

難しいことはわからないのでとりあえず返事をする。

そうこう話しているうちに目的地のリーヴ美術館に到着した。

リーヴ美術館は白いお城のような造りの美術館だ。

山奥の緑の中にあるとそこだけ浮きだって見える。

入り口には何人か観光客が行き来していた。

「じゃあわしらも観光客のふりをしてお宝を拝みにいこ」

「はい……」

私は緊張でつい小声になってしまう。

「そんな緊張せんでもええよ。おどおどしてると逆に怪しまれるからな」

サノさんは笑いながら私の緊張をほぐしてくれる。

「まぁ、美術館巡りに来た親子っちゅう設定でいくか」

「サノさんが私のお父さん?」

私は思わず吹き出す。

「お父さんって呼びなさいよ」

「う、うん、お父さん……」

思わず2人で爆笑しながら美術館巡りは始まったのだった。















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