第3話 旭陽の村
マップを見ながら元来た道を戻り、しばらく歩いて行くと村の入り口のような場所に出た。
「カエデちゃん、ここじゃない?」
「確認してみます!」
すっかり泣き止んだカエデはスマホ(仮)を使って村の位置を確認する。
確認ボタンを押すとピンポーンっと音が鳴った。
「ここですね!やっと着いたー!」
「それ私のセリフだから!あはは!」
2人で顔を見合わせて笑う。
「てかさ、そのスマホみたいなやつ、何て名前なの?」
「これはオールラウンダーです。何でも出来るっていう意味ですね。オールって呼んでます」
オールは現地スタッフが必ず持っており、いろいろな機能を備えているらしい。
「何か欲しいものがあった時は言ってください。3つまでならすぐに取り出せますので!」
「3つかぁ。慎重に選ばないとね」
村への入り口を見ながら、私はこれから始まる前世体験に期待と不安を感じるのだった…。
「そろそろ村の中に行きましょうか」
私は緊張しながらカエデと並んで村の中に入っていく。
入っていくとすぐに目の前に高い建物が見えた。
村の中心にあるそれは櫓という高さがある建物で、これが巫女であった時の私が住んでいた家だという。
その周りを取り囲むように村人の住む竪穴式住居が5〜6棟建っていた。
村人たちは海や川で漁をして魚をとったり、森の中で狩りをして獣を捕まえたりしているようだった。
「村人の数は30人ほどだそうです。各地を移動して暮らしていたようですよ」
カエデがオールで当時の様子を教えてくれる。
初めて見るものばかりでその場に立ち止まっていると後ろから声が聞こえてきた。
「旭陽様!こんなところにいらしたのですか?」
(旭陽?もしかして私のこと?)
後ろをゆっくり振り向くと1人の老人が近づいてくる。
「カエデちゃん、あれ誰?どうしよう」
「あの人はこの村の長老さんだと思います。ななかさんの姿はここの人たちには旭陽さんとして見えているのでそのように接してください」
「え、大丈夫かな?」
「ここは前世を模した幻想の世界なのでそんなに気にしなくても大丈夫ですよ!わたしもななかさんの付き人として横にいますから!」
カエデに励まされて少し落ち着いたところで、長老が私の目の前で止まりお辞儀をした。
「そろそろ祈祷の時間でございますよ。家にお戻りください」
「あ、はい、わかりました」
なるべく聞こえないような小さい声でうなづく。
長老はもう一度頭を下げると村の中央の方へ歩いて行った。
「祈祷ってお祈りのことだよね?やり方わかんないよ?」
「体験なので、やってみましょう!さぁ、家に行きましょう!」
そうして私たちは村の中央にある高い建物を目指して歩き出した。
自分の住んでいたらしい建物を下から見上げる。
「わぁ!高いね。どうやって上に登るんだろう?」
「横にあるはしごのようなところから登りましょう」
カエデが先に登っていくのを追いかけるように登っていく。
かなりの高さに途中で怖くなったが何とか登りきれた。
建物の中は人が4〜5人入れるような広さの作りになっており、祈祷する時の道具だろうか、葉っぱのついた木の枝が置いてあった。
興味深く部屋を見回していると下の方に人が集まってきた気配がする。
1番先頭に立っている長老が声をかけてきた。
「旭陽様。本日の祈祷よろしくお願いいたします」
「わかりました」
ドキドキする胸に手をやりながら、旭陽になりきって答えた。
1人ずつ村人が建物の上に登ってくる。
彼らは私の前まで来るとお辞儀をし、座って床に頭をつけた。この体勢で祈祷してもらうようだ。
私は置いてあった木の枝を持ち、小声でカエデに話しかけた。
「この枝を適当に振っておけばいいよね?」
「はい!大丈夫です」
カエデも小声で答えて私の隣に座った。
とりあえず、村人の頭や身体に向かって木の枝を振り、お祓いの真似をしてみた。
それを何回か繰り返すと、村人は私に手を合わせ嬉しそうな表情で下に降りていった。
「あ、これでいいんだ。良かった〜」
「ななかさん、すごく上手でしたよ!」
カエデもホッとした表情で笑った。
村人全員の祈祷を終えると最後に長老が登ってきた。
「旭陽様、ありがとうございました。では、明後日に年に1度の祭りの件でまたこちらに伺います」
長老はそう言うとお辞儀をして帰っていった。
「年に1度の祭りの件って何だろね?」
私がカエデに聞くとカエデも首をかしげた。
「その情報は記録されてないですね」
疑問には思ったが祈祷を無事に終えた疲れですぐに忘れてしまう2人なのであった…。