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第2話 丸メガネの少女

「ななか様!ーーーななか様!」

耳元で私を呼ぶ声がする。

「ん〜〜〜!」

軽く伸びをして目を覚ます。どうやらテレビを観ながらソファで眠ってしまっていたらしい。

名前を呼んでいたのは客室係のリンだった。

「ぐっすりお眠りのところ失礼いたします。あと10分ほどで第1の前世に到着いたします」

「え、もう着くの?」

「はい。出発のお支度(したく)をお願いいたします」

支度(したく)も何も持っているのは塾のカバンだけだ。

「特に荷物とか無いんだけど、大丈夫なんだよね?」

急に現実的な不安が出てくる。そこでの生活は大丈夫なのだろうか。

「現地には出張所もありますし、何より現地スタッフがおりますのでご安心ください」

「そうだよね。ありがとうリンさん」

私がお礼を言うとリンは笑顔で(うなず)き、話を続けた。

「それではそろそろ到着となりますのでドアの前まで行きましょうか」

そう言ってリンは初めにここへ来た時と同じように私の前に立ち歩き出した。


 ドアの前まで来るとドアに書かれている1という文字がピカピカと光り出した。

「到着でございます。それではドアをお開けいたします」

リンは手慣れた様子でドアを開けると素早くドアの横に立ち、私に向かってお辞儀をした。

「いってらっしゃいませ、ななか様。良い旅になりますよう心より願っております」

私は緊張と不安で少しドアから出るのをためらったが思い切って外に出た。

「ありがとう!行ってきます!また会おうね、リンさん」

「はい!第2のドアでお待ちしております」

リンに手を振るとリンも笑顔で手を振ってくれた。

そして別れを惜しむ暇もなくドアは閉まり、そのまま消えて見えなくなった。


 何もない自然だけが豊かな地に1人……。

「ん?」

私はドアが消えてから思い出した。

「1人って!!!!なんで!!!!」

そう、現地スタッフがいないのだ。

「こんなところに1人置き去りにされても無理でしょ!」

叫んでもただ(むな)しく声が消えていくだけ……。

今自分はどうするべきか考えなきゃいけない……。

とりあえず落ち着こう……。

バクバクと音を立てている心臓を抑えながら周りをキョロキョロと見渡す。

「そうだ、トキヤと連絡取れないかな?」

(トキヤ〜〜〜!トキヤ〜〜〜!)

頭の中でトキヤの名前を叫んでみるが何の反応もない。

あちらからしか繋がらないらしい。

「何でこういう時に繋がらないのよ!」

怒りの感情が爆発しそうになり、小石を蹴ったその時。

遠くから誰かの声が聞こえてきた。

「お客様〜〜〜〜!!!すみませ〜〜〜ん!!!お待たせしました〜〜〜!!!」

誰か来てくれた。それだけで力が抜けてその場にしゃがみ込んでしまった。


 丸メガネに黒髪をゆるく三つ編みにしている少女。

彼女は息を切らせながらこちらに走ってきた。

「ハァ、ハァ、す、すみません、お客様、、、お待たせいたしました、ハァ、、」

苦しそうな彼女に私は怒るのも忘れて声をかけた。

「こっちに座って!」

近くの草原に彼女を座らせると私はたずねる。

「あなたはここの現地スタッフ?」

やっと少し落ち着いたのか彼女ははずかしそうに話し出す。

「はい。わたしはこちらの前世の現地スタッフのカエデといいます。よろしくお願いします」

同じくらいの年齢に見えるカエデに学校の友達が重なって親しみが持てた。

「私はななか。よろしくね、カエデちゃん!」

「はい!」

カエデも嬉しかったのか笑顔で返事をした。

「とりあえず今からどうする?」

私が聞くとカエデは持っていたカバンからスマホのようなものを取り出した。

「ななかさんが前世で住んでいた家に行きましょう。ちょっと調べますね」

そう言ってスマホ(仮)を見ながらいろいろ調べ始めた。

「うーん。こっちがこうで、あっちがこうで……」

カエデはうなりながらマップを見ている。

(大丈夫かなぁ)

心配になりながらカエデに聞いてみる。

「わかった?」

「こ、こっちです!行きましょう!」

カエデは山の向こうを指さすと先頭に立って歩き出した。


 どれくらい歩いたのか。

歩いても歩いても変わらない風景にイライラしてきた。

「カエデちゃん。ほんとにこっちで合ってるの?」

すると前を歩いていたカエデが泣きそうな顔で振り向いた。

「わからない、です……」

消えそうなくらい小さな声で返事をするカエデ。

「えっ?」

私が聞き返すとカエデが突然泣き出しながら謝った。

「す、すみません、ヒック、わたし、道に迷ったみたい、です、ヒック、」

「えぇ……」

私が言葉を失っているとさらにカエデが泣き出した。

「ごめんなさい、わたし、いつも同じことをしてお客様に怒られて、、、」

さっき私がドアから出た時も道に迷っていて遅くなったのだろう。

かわいそうになった私はカエデに声をかける。

「そのスマホみたいなやつ、ちょっと借りていい?」

「あ、はい」

カエデからスマホ(仮)を受け取るとマップを見てみる。

いつも使っているマップと同じような感じなのですぐに理解できた。

「こっちじゃなくてあっちだよ!戻ろう!」


 初めからこれで大丈夫か?という思いを感じながら、泣いているカエデを励まして元来た道を戻るのであった……。










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