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第22話 柊里城の姫

「では、いってらっしゃいませ、ななか様」

いつものように、リンがドアの横に立って私を見送ってくれる。

(これで最後。どんな前世でも楽しんでこよう)

私は自分に気合いを入れる。

「最後の前世体験、行ってきます!」

私は今までで一番の笑顔でドアの外に出た。


 ここは、森?

ドアの外は緑が生い茂る森の中のようだった。

「こんな山奥みたいなところにお城があるの?」

私は、見渡す限り同じ景色の森の中でひとり佇んでいた。

「おい」

後ろから肩を叩かれる。

「きゃあ!」

こんな誰もいない深い森で、いきなり肩を叩かれたら誰でも絶叫するだろう。

私は恐る恐る後ろを振り返った。

「そんなに驚いたか?すまん」

そこには爽やかに笑う青年が立っていた。

「俺は(はやて)。ここ日本のスタッフだ。よろしく」

そう言って(はやて)は私に握手を求めた。

「あ、ななかです。よろしくお願いします」

私は(はやて)の手を取り、握手をした。

「さて、前世体験をする城だが、ここよりさらに山の上らしい」

「えー!もっと上なんですか?」

「ああ。日が落ちる前に城を目指そう」

(はやて)はそう言うと、どんどん前を歩いていってしまう。

「待ってください!」

そう言って、私は必死に(はやて)を追いかけた。


「ハァ、ハァ」

どのくらい山道を登っただろう。

私の体力はもう限界にきていた。

(はやて)さん、もうダメです。歩けません……」

私が息も絶え絶え地面に座ろうとしたその時、(はやて)が私に言う。

「見てみろ!あれが柊里(しゅり)城だ!」

柊里(しゅり)城?」

私は(はやて)が指差すほうを見つめる。

その城は木が生い茂る森の中にひっそりと建っていた。

私が想像していたきらびやかで大きな城とは大分イメージが違う。

「あの、(はやて)さん?ここって人が住んでいるんでしょうか?」

「住んでいるはずだ。とにかく近くまで行ってみよう」

そう言う(はやて)は思い出したように続けて私に言う。

「ここでのお前の立ち位置は姫君。それで俺は、お前のお目付け役だ。覚えておけ」

「は、はい」

「行くぞ」

そうして、私たちはひっそりと人目を避けるように建っている柊里(しゅり)城へ足を踏み入れようとしていたのだった……。


 少し歩くと城門が見えた。

門の横には、一応門番らしき男が1人おり、暇そうに城門に寄りかかっている。

「誰かいますね?」

私は門番の男に見つからないよう、木の影に隠れながら(はやて)に尋ねる。

「大丈夫だ。あいつから見たらお前はこの城の姫だからな。堂々と門をくぐるぞ」

「わかりました。行きましょう」

(はやて)の頼もしい言葉に勇気づけられる。

門の前まで歩いて行くと、門番の男が私に気付き姿勢を正した。

「ななか姫様、おかえりなさいませ」

そう言って深々とお辞儀をする。

私が申し訳なく思い、門番に声をかけようとした時、(はやて)が咳払いをした。

「コホン」

(声をかけるな!お前は姫なんだからな)

小声でそう言われ、私はなんとも言えない思いを抱きながら無言で門番の前を通り過ぎた。

(お姫様も大変なんだな。私に務まるか心配になってきた……)

不安が募るが、(はやて)が近くにいてくれるから大丈夫、と自分を奮い立たせて城にさらに近づく。

すると、城の中から厳格そうな老人が出てきた。

「ななか様!どこをほっつき歩いていたんですか!今日は和歌のお勉強の日ですよ!まったく!」

「えっ?和歌?」

私は(はやて)の顔を見る。

(はやて)はうなづきながらその老人に話しかけた。

「これは申し訳ない、次晴(つぐはる)殿」

(はやて)、お前も姫のお目付け役ならもっと気をつけてもらわないと困る」

「承知いたしました」

(はやて)が片膝をついて頭を下げると、やれやれと頭を振って次晴(つぐはる)はその場を離れた。

「あの人は?」

私は去っていく老人を見ながら尋ねる。

(はやて)は検索をするため、懐からオールを取り出した。

「あのお方は、家老の山岡次晴(やまおかつぐはる)殿だ。この城の総取締だな。言うことをちゃんと聞けよ」

そう言って(はやて)は意地悪く笑う。

「さあ、城の中に入るぞ」

私はうなづいて(はやて)についていった__。


 城の中では侍女たちが私を待ち構えていた。

「ななか様、着替えのお手伝いをいたします。こちらへ」

そう言って私に着物を見せる。

「いってらっしゃいませ。ななか様」

(はやて)はそう言うと、私から少し離れて正座をした。

(えー、待って!心の準備が……)

そんな私の心の声は届くわけもなく、私は侍女たちに引っ張られて着替え部屋に連れて行かれるのだった__。



 










 

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