第21話 第5のドア
「私たちの勝ちね!」
ジェーンが不動産屋の男に新しいベーカリーの売り上げ表を投げつける。
「くぅぅ……」
男は両膝を床につけ下を向いた。
「やった!勝ったぁ!!!」
私はジェーンの元に駆け寄る。
ジェーンもそんな私にハグをしてくれた。
これでこれからもフィリップのベーカリーはみんなに愛されて営業を続けることが出来るだろう。
私はホッと胸を撫で下ろした。
対決が終わってからすぐ、前にフィリップのベーカリーで働いていた従業員たちがフィリップの元に集まっていた。
「フィリップさん、俺たちまたここで働かせてもらえないだろうか。図々しいお願いだとは思うんだが、頼む」
代表してフィリップに話しかけたパン職人がフィリップに頭を下げる。
フィリップは彼らを見渡すと、自分も深々と頭を下げた。
「私からもお詫びをさせてくれ。何も守ってやれなくてすまなかった。こんな店でよければまた働いて欲しい」
そんなフィリップに従業員たちは労いの言葉をかける。
「これからはみんなでこのベーカリーを守っていこう!」
「おー!!!」
みんなの歓声と笑い声が静かな田舎の夜にいつまでも響いていた__。
「色々とありがとう。ななかちゃんとジェーンのおかげだよ。ふたりに守ってもらった店をこれからも大事にしていくからね」
フィリップはそう言って私たちと握手をした。
「本当に良かったです。これでお別れですけど、遠くから応援しています」
「そうよ!これからはフィリップがこのベーカリーを引っ張っていくんだから。みんなと仲良くね!」
ジェーンはそう言ってウインクをする。
「ああ。今度は必ずこのベーカリーを守るよ」
力強くうなづくフィリップに手を振って、私とジェーンはベーカリーを後にしたのだった。
私とジェーンは、第5のドアと書いてあるドアの前に立っている。
「ここでお別れね、ななかさん。噂に聞いていた通り、すごく楽しい前世体験だったわ!」
「私もすごく楽しかったです。実は最初にジェーンさんに会った時、可愛らしくて癒される感じの女性だなって思ったんです。でも、すごく頼りになるカッコイイ女性で!助けてもらうことばかりでした。ありがとうございました!」
私がお辞儀をすると、ジェーンは照れたように笑った。
「ありがとう!私もこの体験を次の旅に活かすわ!またね、ななかさん」
私たちは固く握手を交わして笑い合った__。
ドアの中に入り、少し通路を進んでいく。
4回目ともなれば慣れたものだ。
すると、私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おかえりなさいませ。ななか様」
「あ、リンさん?」
「はい。先日は妹のレイがお世話になりました」
リンはそう言って頭を下げる。
「私のほうがすごくお世話になったんだよ!助かりました。また会いたいなぁ」
私はレイの活躍を思い出しながら、そうリンに話した。
「そうですか。レイもそれを聞いたらすごく喜ぶと思います。私からも伝えておきます」
リンと話をしながら廊下を歩いていると、いつもの部屋に到着した。
「しばらくごゆっくりお過ごしください。次の前世の到着前にまたお迎えに参ります」
「ありがとう、リンさん」
リンがお辞儀をして戻っていくと、私はいつものように猛烈な眠気に襲われる。
ベットにやっとの思いで入ると、すぐに深い眠りに落ちた。
目が覚めると、そこは見慣れた部屋だった。
「私、また知らぬ間に寝てたんだ。うーん、よく寝たぁ!」
そう言って伸びをしていると、頭の中に聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ななか様、聞こえますでしょうか?」
トキヤだ。
「聞こえるよ!」
「アメリカでの前世体験はいかがでしたでしょうか」
「楽しかったよ!美味しいパンも食べれたし、満足!」
私はフィリップのベーカリーのロールパンを思い出す。
「それは良かったです。では、今回の旅最後のドア。第5のドアについてご説明いたします」
(ついに最後のドアか)
最後という言葉に少し緊張する。
「最後の前世体験の舞台は日本の戦国時代」
「え、戦国時代?」
「はい、その当時ななか様はあるお城の姫君でした」
「本当に?」
(ずっと思い続けたことが現実になる!)
「本当でございます。映像をご覧ください」
私がテレビをつけると、確かにお城が見えている。
「では、私はこれで。次回も楽しい時間をお過ごしください」
プチッ
そう言ってトキヤとの会話は終了した。
「戦国時代かぁ。お姫様だったってずっと思ってたけど、実際に言われるとちょっと信用できないな……」
私は、テレビに映る森の中のお城を見ながらそうつぶやいたのだった……。