第1話 第1のドア
トキヤがベルを鳴らすと1と書かれたドアが現れた。
「さあ、お嬢様。こちらのドアをお開けください」
私は緊張して震える手をドアノブに伸ばす。
(もうどうにでもなれ!)
覚悟を決めて震える手でドアノブを掴み、勢いよくドアを開け中に入った。
「いってらっしゃいませ。良い旅を」
トキヤがドアの外でお辞儀をすると非情にもドアはバタンと閉まってしまった。
ドアの中は真っ白な空間で何も無かった。
たった1人、どうしていいか分からなくなる。
「あー!閉まっちゃった!どうしよう!本当に信じていいの?」
不安で泣きそうになる。このまま帰れなかったらどうしよう。そう思いながらうなだれていると奥の方から声が聞こえてきた。
「お待ちしておりました。お客様!」
その声はだんだん私の方へ近づいてくる。
(今度は誰???)
身構える私の前に1人の女性が現れた。
茶髪で毛先をカールし、綺麗にお化粧をしている20代くらいのその女性は乗務員のような格好をしている。
女性は私に近づくと恭しく頭を下げた。
「いらっしゃいませ。前世往路便へようこそ。私はななか様の客室係のリンと申します」
「え?前世往路便?」
「はい。寝台特急と言えば分かりやすいでしょうか。前世までのご案内をいたします。お部屋にご案内いたしますのでこちらへどうぞ」
そう言ってリンは私の先に立って歩き出した。
白ばかりの空間を少し奥に入っていくと自動ドアがあった。
「こちらがななか様のお部屋でございます」
リンは自動ドアの横に立つと私にそう告げた。
「さあ、中へどうぞ」
リンが自動ドアを開けるとそこにはホテルのスイートルームのような部屋が広がっている。
「わぁ!綺麗!こんな素敵な部屋泊まったことない!」
黒をベースにしたモダンな部屋には黒猫の絵がついたテレビやベッド、テーブル、ソファなどが綺麗に並べられ、壁には窓がない代わりに風景の映像が流れている。
興味津々に部屋を見ている私にリンは部屋の説明を始めた。
「前世に到着するまでこちらのお部屋でごゆっくりお過ごしください。必要な物がございましたら念じてみてください。何でも出てきますので」
「念じる……。それだけでいいの?」
「はい。試しにやってみますか?」
私は半信半疑で念じてみることにした。
「じゃあ、お腹空いてるから、ハンバーガーとポテトをお願いします!」
そう言いながら頭の中で念じる。
すると目の前のテーブルにハンバーガーとポテトが現れた。
「ええ!ほんとに出てきた……」
リンは笑顔になると姿勢を正した。
「では、前世に着く頃にまた参ります。ごゆっくりお寛ぎください。何かありましたらテーブルの上のベルを鳴らしてください。失礼いたします」
お辞儀をして出て行くリンを見送ると一気に疲れが出た。
なんだか全てが夢なんじゃないかと思えてきた。
「とりあえずご飯食べよ……」
私はさっき念じて取り出したハンバーガーとポテトを食べることにしたのだった。
食べ終わった頃、どこからか声が聞こえてくる気がした。
「ななか様、、、ななか様、、、聞こえますでしょうか?」
聞き覚えがある声に私は辺りを見回す。
「トキヤなの?どこにいるの?」
「ななか様の脳に直接語りかけております」
(あ、そんなこと出発前に言ってたな)
「どうしたの?」
「今回の第1のドアより繋がります前世の大まかな説明をいたします。そちらにあるテレビをおつけください」
私は言われるままにテレビをつけた。
するとテレビ画面に見たこともないような風景が映る。
「ここは?」
「そちらは太古の昔。邪馬台国の時代でございます。
ななか様はその当時、ある小さな村で巫女をしておりました。名前を旭陽と申しました。今回はそちらの前世を体験していただきます」
「巫女!え、卑弥呼みたいな感じ?」
「左様でございます」
「うわ〜。めっちゃ楽しみ!」
卑弥呼は邪馬台国の女王をしていたと学校で習ったことがある。自分もそんな感じなんだろうかと考えるとワクワクしてきた。
「それでは私はこれで。引き続きお楽しみください」
頭に響いていたトキヤの声が聞こえなくなる。
私はテレビに映っている風景をもう一度眺めた。
(ここが私が前世で暮らしていたところ……)
テレビの画面の中では、緑豊かな大地に鳥が空高く飛び、ピーッという大きな鳴き声を響かせている様子だけが永遠と映されているだけであった……。