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第18話 ベーカリー復活

 後ろから声をかけられて振り向くと、そこには可愛いらしいという言葉が似合う小柄の女性が立っていた。

「初めまして。私はアメリカ出張所のジェーンです」

ニコッとしながら女性は手を差し出した。

「あ、初めまして!ななかです」

(なんかほんわかしてて癒される人だなぁ)

ジェーンは優しい笑顔で私に接してくれる。

「ななかさんに会えるの楽しみにしてたんですよ。今までの活躍すごかったですね!今回ななかさんの担当になれてほんとラッキーだわ」

(レオンも言ってたけど、私の噂がまた?恥ずかしい!)

私が少し照れているとジェーンが微笑みながら時計を見る。

「日が暮れる前に前世体験するベーカリーを見に行ってみましょうか」

「はい!」

私とジェーンはこの近くにあるはずのベーカリーを探すべく動き出した。


「ここですかね?」

ジェーンの情報をもとにしばらくベーカリーを探していると、一軒の古いお店にたどり着いた。

「中に入ってみましょう!」

ジェーンはそう言うと、ベーカリーらしき建物のドアを開けた。

「こんにちは〜」

誰もいない店内にジェーンは挨拶をする。

「おかしいわね。誰もいないのかしら」

私も店内を隅々まで見てみる。

しばらく2人で誰かしらが来るのを待っていると、店の奥のほうから1人のおじいさんが出てきた。

「あんたたち誰だね?うちはもうパンは売ってないんだよ。せっかく来てくれたのに申し訳ないが帰っておくれ」

「え?」

私とジェーンは顔を見合わす。

「このお店、辞めてしまったんですか?」

ジェーンがおじいさんに尋ねると、おじいさんは寂しそうな顔でうなづいた。


 おじいさん、フィリップの話によると、この辺りの大きな不動産屋が大金を出して他の古いお店を次々と買い取っているらしい。

当然このベーカリーにも不動産屋の人間が買取りの話を持ってきたのだが、フィリップはそれを断り続けている。

そのためにひどい嫌がらせを受けたりしたため、パンを焼いてくれていた職人さんや店員さんたちがみんなベーカリーを辞めてしまったのだった。

「そういうわけでね。もうこの店ではパンは売れないんだよ」

「そんな……」

(パンをお腹いっぱい食べる夢が……)

そんなことを思って残念な気持ちになっている私の横で、ジェーンがフィリップに笑顔で質問する。

「だったら、パンを焼ければいいんでしょ?」

「うん?まあ、そうだが……」

おじいさんは(いぶか)しげにジェーンを見る。

「私がパンを焼くわ!」

「えっ?」

「はぁ?あんたが?」

驚く私とフィリップを交互に見ながらジェーンは大きくうなづいたのだった。


 次の日の早朝。

美味しそうなパンの匂いがまだ誰もいない通りに広がる。

パンを焼くことを引き受けたジェーンが色々なパンを焼いていく。

「ジェーンさん、こんな才能があったんですね!すごい!」

私は可愛らしいパンを眺めながらジェーンに尋ねた。

「趣味でパンとかお菓子とか作ってるの。役に立って良かったわ!」

お店のエプロンをつけたジェーンがパンを焼くかまどの火を見ながら笑った。

「私はお店の掃除をしますね!今日からまたお客さん来るといいなぁ」

しばらく店を開けていなかったせいかクモの巣が所々に張っていたり、埃が落ちている。

「開店時間までにピカピカにして、花や小物も置かなきゃ!」

私たちはそれぞれの役割を開店時間までに終えるよう努力したのだった。


 パンのいい匂いに釣られて近所に住む人たちがベーカリーを訪れていた。

「フィリップじいさん。またベーカリー復活したのか!良かったな!」

「そうなんだよ。この人たちが手伝ってくれてねぇ」

フィリップは私とジェーンを見て言う。

「ここのパンを買えなくなってから困ってたんだよ。隣町のベーカリーまで行かなきゃいけなかったからさ。ほんと助かったよ。明日もまた買いにくるね!」

客の男性はそう言うと焼きたてのロールパンを買って嬉しそうに帰っていった。

「またお客さんの笑顔が見れるなんて思わなかったよ」

フィリップはベーカリーに詰めかける客たちの顔を見ながらしみじみと言った。

私とジェーンはそんなフィリップを見て安心していた。

しかし、そんな私たちを店の外から憎々しげに見ている者がいるとは、この時は全く気づきもしなかったのであった__。

















 




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