第15話 旧友との再会
「バカかお前は」
仕事の休憩中、レオンに相談をするといきなり却下される。
「自分にひどいことをした奴を助けたいとか、お前どんだけ頭お花畑なわけ?ついてけねーわ」
やれやれとため息をつきながらレオンは首を振る。
「そうかもしれないけど。でも理由がわかった以上見過ごせないでしょ?」
私はローラから聞いた話を思い出しながらレオンを説得していた。
「レオンだって恋人と離れ離れになったらルビーみたいになるかもしれないよ」
「あのなー。俺をあの女と一緒にするな」
レオンは面倒臭そうに懐から煙草を取り出し、口にくわえた。
「お願い!このまま見過ごして前世体験を終わるのは嫌なの!」
私はレオンの目を真正面から見つめて手を合わせる。
レオンはネクタイを緩め、煙草に火をつけるとしばらく考えながら煙を吐いた。
「オプション料金、トキヤに請求するからな」
「えっ?いいの?」
「そういう奴なんだろ?お前は。しょうがないから付き合ってやるよ」
そう言うとレオンは少し面白がっているような顔をして笑った。
「ありがとうレオン!」
今回の旅で初めてレオンとちゃんと向き合えた気がして嬉しかった。
「とは言うものの……。敵対してる以上直に会いにいくのは無理だ。どうしたもんか」
レオンが腕組みをして考え込む。
「ハリソン家のほうにスパイを送り込むしかねーな」
「スパイ?」
「あぁ。出張所に連絡して手配してもらっとくわ」
そう言うとレオンはズボンのポケットからオールを取り出し、画面をタッチすると出張所のスタッフと話を始めた。
「んじゃ、そういうことでよろしく〜」
レオンは電話を切ると私のほうを見る。
「三日くらい探らせたら情報収集だな」
私たちは顔を見合わせてうなずくと、またそれぞれの仕事に戻るのだった。
三日後。
ハリソン家に潜入中のスタッフに会うため、深夜レオンと一緒に屋敷を抜け出した。
レオン行きつけのバーがあるという場所に向かう。
バーの扉を開けると、カウンター席に黒猫の絵が描いてあるリボンを髪につけた女性がちびちびとカクテルを飲んでいる。
レオンは優雅にその女性の席の隣に座る。
私もあわててレオンの隣に座った。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
バーテンダーがレオンに尋ねる。
「俺はギムレット。こいつにはオレンジジュースを頼む」
「かしこまりました」
バーテンダーがカクテルを作り始めると、レオンは隣の女性に声をかけようとして一瞬止まった。
「げっ!」
「レオン?どうしたの?」
私はあせっているレオンを見つめた。
「な、なんでお前がここにいんだよ」
レオンは隣の女性に少し大きな声で尋ねた。
するとその女性はクスクスと笑い出し、こちらを振り向いた。
「ヤッホー!ななかちゃん!元気してた?」
「えっ、レイさん???」
なんとそこにいたのは客室係のレイさんだったのだ。
「今回の担当がレオンだって聞いてね。心配になったのよ。ななかちゃんがいじめられてないか見に来たってわけ」
レイさんはそう言ってウインクしながら楽しそうに笑った。
「ちゃんとこいつのわがままに付き合ってんだろうが」
レオンは動揺を抑えるためか、ちょうどバーテンダーから差し出されたギムレットを一気に飲み干す。
「でもあんたがイレギュラーな仕事を引き受けるなんてね。雪でも降ってくるんじゃない?」
レイさんはレオンを見ながら感心しているようだ。
そんな2人を見て私はレイさんに尋ねる。
「おふたりは知り合いなんですか?」
「レイとは同期なんだよ。腐れ縁っていうやつだ」
レイさんが答える前にレオンが口を挟む。
私はワイワイと思い出話に花を咲かせる2人を微笑ましく眺めていたのだった。
その後、話は本題に入った。
「ハリソン家のノア様なんだけど」
レイさんが声をひそめてノアさんの現況を私たちに伝える。
「ルビー様に会えなくなってからほとんど笑わなくなったらしいの。口数も少ないしね。最近じゃお見合いの話も持ち上がって」
「え、お見合い?」
「そうなの。それも1週間後に」
レイさんはカクテルに入っているさくらんぼを掴んで口に含んだ。
「場所は隣国で1番大きいホテル『ホテル グランド』よ」
「会えるとしたらそこしかないな」
レオンが2杯目のギムレットを飲みながらつぶやく。
「俺はななかと一緒にルビーを何とかしてそこに連れて行く。レイはノアに付いてホテルで待機しててくれ」
「りょーかい!なんだかほんとにスパイになったみたいでワクワクするわね!」
レイさんは空になったカクテルグラスを確認すると立ち上がる。
「じゃあ当日また連絡するわ。またね、ななかちゃん!」
そして笑顔で私に手を振ると足早に夜の闇に消えていったのだった。
「相変わらずうるさい奴だ」
レイさんが帰り、少し静かになったバーに流れる音楽を聴きながら私とレオンはしばらくその場に佇んでいた。