第13話 メイドのお仕事
挨拶を済ませた私たちは使用人の女性にある部屋に通された。
「ここがルビー様のお部屋でございます。呼んで参りますので、少々お待ちください」
お嬢様の名前はルビーというらしい。
使用人の女性が部屋をノックすると部屋の中から声がした。
「何〜?なんか用?」
「ルビー様、新しい執事とメイドをお連れしました」
「あっそ。どーぞ、入っていいわよ」
ルビーは気だるそうに使用人の女性に言った。
(機嫌悪そう……。大丈夫かな……。)
使用人の女性の後に続いてレオンと部屋の中に入る。
部屋には綺麗な調度品が並べられ、可愛い天蓋付きのベッドも置いてある。
テレビや映画で見た絵に描いたような部屋だ。
ルビーは中央に置いてある長椅子に座り、興味なさげに私たちのほうを向いた。
するとレオンがすかさずルビーの前に立つ。
「初めましてルビー様。私、新しい執事のレオン・グリーンと申します。以後お見知り置きを」
そう言うとレオンは優雅にお辞儀をした。
ルビーはレオンを見ると途端に笑顔になる。
「あら。素敵な方。気に入ったわ」
ルビーの機嫌が良くなり安心した私はレオンに続いて挨拶をする。
「初めまして、ななかと申しま……」
ここで私の言葉はさえぎられた。
「私レオンと2人だけでお話ししたいわ。あなたたち出てってくれる?」
(えっ?)
私が驚いて何も言えずにいると、使用人の女性がルビーにお辞儀をする。
「かしこまりました。何かありましたらお呼びください。さあ、行きましょうななかさん」
使用人の女性は私を促すと部屋を出ていってしまう。
私はレオンの方をチラッと見る。
レオンは早く行けという顔で私を少し見た後、ルビーと楽しげに話出した。
(何よ!気分悪ぅ!)
むかついた私は足早にルビーの部屋を出たのだった。
使用人の女性はイザベラさんという、この屋敷を取り仕切っている年配の女性だ。
私はメイドの仕事を覚えるため、イザベラさんに付いて屋敷の中を見て回ったり、簡単な仕事を与えられていた。
この屋敷のメイドたちはほとんどが私より年上の人たちだが、1人だけ私と年が同じくらいの少女がいる。
ローラという少女で、一緒に仕事をするうちにすっかり仲良くなれた。
「ななかさんは明日からローラと一緒にルビー様の朝の支度を担当してもらいます」
イザベラさんが私とローラを見ながら言う。
「よろしくね!ローラ!」
「うん、頑張ろうね!ななかちゃん!」
ローラが一緒なら安心だ。
私はホッとして今日1日の仕事を終えるのだった……。
次の日の朝。
私は早起きで眠い目をこすりながらローラと一緒にルビーの部屋に行く。
「ルビー様、朝の御召し物をお持ちしました」
私はドアをノックしながらルビーに声をかける。
しかし中からは何も返事がなかった。
「まだ寝てるのかな?」
「いつもなら起きていらっしゃる時間なんだけど」
ローラはそう言って首をかしげた。
「入ってみようか」
私はそう言ってドアを開けた。
その時。
バシャ!!!!
ドアの上からバケツの水が落ちてきた。
「何これ!どうなってるの?」
私は頭からびしょ濡れになりながら叫ぶ。
「大丈夫?ななかちゃん!」
ローラがあわてて近くの部屋からタオルを持ってきてくれる。
タオルで髪を拭きながらローラとバタバタしていると、廊下の向こうから誰かが近づいてきた。
「ちょっと!何をやってるのよ!嫌だ、部屋が水浸しじゃない!!!」
ルビーがレオンを後ろに連れて部屋に戻ってきたのだ。
「ルビー様、違うんです。ドアの上からバケツの水が……」
ローラが私をかばってルビーの前に出る。
「どきなさいローラ。ななか、だったかしら?さっさとここを片付けなさい」
ルビーはローラの言葉を聞かず、私に告げた。
レオンはルビーの後ろで私を見ながら声を出さずに笑っている。
(ひどい!笑うことないのに!)
悔しい気持ちで下を向くとやっとレオンがルビーに声をかけた。
「ルビー様。別の部屋をご用意いたしますのでそちらでおくつろぎください。ここはメイドたちに任せましょう」
そう言ってレオンがルビーにニコッと微笑む。
するとルビーは上機嫌でレオンと一緒に別の部屋へ歩いていった。
(これって。嫌がらせ???なんか嫌な予感がしたのはこれ?まさか前世で嫌がらせ受けてたの?私!)
色んなことが頭の中をグルグルとよぎる。
(まさかレオンこのこと知ってて言わなかったんじゃ)
怒りがふつふつと湧いてくる。
そんな私の様子をローラは心配しながら見守っていた。
1日の仕事をなんとか終え、自分の部屋に向かって廊下を歩いていく。
その途中、壁にもたれながら腕組みをしているレオンを見かけた。
「レオン!!!」
私はレオンに言いたいことが山ほどあるのを思い出す。
「しーっ!静かにしろ。誰かに見られたらどうすんだよ」
レオンは私の口を手でふさいで私を睨みつけた。
私はレオンの手を振り払って負けずにレオンを睨みつける。
「全部知ってたんでしょ?なんで先に教えてくれないの?」
「教えるわけないだろ。前世体験をキャンセルされたら困るのは俺だからな」
あれこれと私たちが言い合いをしていると向こうから人が歩いてくる気配がする。
レオンは素早く私の腕を掴むと、自分の懐に隠すように私を抱きしめた。
(????)
突然のことに何をされているのかわからず、私はされるがままにレオンの腕の中で固まっていたのだった……。