第12話 鬼畜執事
「ななかちゃん、ゆっくり出来た〜?入るねー!」
レイさんが元気よく部屋に入ってくる。
その場に立ちつくしていた私はようやく現実に戻された。
「どうしたの?大丈夫?」
何やら様子がおかしい私にレイさんが尋ねる。
「次の前世がイギリスの貴族のお嬢様付きメイドらしいんです」
私はトキヤから聞いた通りにレイさんに話した。
「メイドかぁ。でも別に普通にありそうじゃない?心配しなくても大丈夫よ!」
元気がない私をレイさんが慰めてくれる。
「そうですよねぇ…。なんなんだろうこの感じ」
何か心に引っ掛かりを感じるのだ。
「ほらほら!元気出して!そろそろ次の前世に到着だよ!」
レイさんは私の肩をポンポンと軽くたたくと私を促して出口へと歩き出した。
次の前世へと繋がるドアの前に立つ。
少しドアを開けるのをためらっている私を見てレイさんが笑いながら言った。
「もし向こうで何かあったら私を呼んで!出張所のスタッフに言えば連絡してくれるから!」
「そうなんですか?ありがとうございます!」
レイさんが来てくれれば心強い。
私は勇気をもらって一歩前に踏み出す。
「次の前世も楽しんできますね!行ってきます!」
「その調子!ななかちゃんは笑顔が似合うよ!」
レイさんはそう言いながらドアの横に立つ。
「いってらっしゃいませ!良い旅を!」
深々とお辞儀をするレイさんの横のドアノブを力強く掴んでドアを開けた……。
ドアの外は霧の街。
空一面を厚い雲が覆っている。
街を行き交う人たちもこのどんよりとした天気の下ではあまり元気がないように見える。
そんな中を堂々と背筋を伸ばして歩いてくる男の人が見えた。
栗色の短髪に仕立ての良いスーツ。
挑戦的な青い瞳が一層華やかさを引き立てていた。
男の人はまっすぐ私に向かって歩いてくる。
(もしかしてここのスタッフさん?)
私がそう思っていると男の人は私の目の前で止まった。
「お前がななかで合ってるか?」
いきなり名前を言われて焦る。
「は、はい」
私が緊張しながら答えると男の人は私を上から下に舐めるように眺めた。
「ふ〜ん。特に面白味のない普通の女だな」
「えっ?」
「お前のこと、『黒旅』じゃ結構噂になってんだよ。本来の前世の時より派手に動いてるってな。だからどんな女なのか楽しみにしてたんだけど」
その男の人はそう言うと私が立っている後ろのビルの壁に手をつく。
(か、壁ドン???顔近いよ?!)
いきなり整った顔を近づけられ顔が赤くなるのを感じる。
すると男の人は吹き出して笑った。
「バーカ。何もしねーよ。ほら、行くぞ」
男の人はそう言うとどんどん歩いていってしまう。
「ま、待ってください!」
私は必死に男の人を追いかけるのだった……。
私は男の人を追いかけながら尋ねる。
「あなたはイギリスのスタッフさんなんですよね?」
そんな私の問いかけに、面倒臭そうにチッっと舌打ちすると男の人は渋々話出した。
「俺はレオン・グリーン。ここイギリスのスタッフだ。レオンと呼んでくれればいい」
「はい……」
呼び捨てで呼んでもいいのか少しためらう。
「ほら」
「はい?」
「呼んでみ?」
レオンはそう言うと私の顔を両手で挟んで自分の方に向けさせる。
「なっ……!」
突然のことに抵抗しようとするがレオンが離してくれない。
私は恥ずかしさと緊張で逃げ出したい気持ちを抑えて小さな声で言葉を発した。
「レ、レオン……」
「良く出来ました」
レオンは勝ち誇った顔で意地悪に笑うと私を解放した。
(何なのよこの人〜!)
レオンにすっかりペースを乱されながら歩いていると、目の前に大きな屋敷がそびえ立っている場所に出た。
「ここが俺たちがこれから住み込みで働く屋敷だ」
レオンが屋敷を見上げながら言う。
「俺がお嬢様付きの執事。お前がメイド。くれぐれも俺に迷惑掛けんなよ」
「そんな言い方!」
反論しようとする私には目もくれず、レオンは屋敷の敷地の中へ入っていく。
「もう!待ってよ、レオン!」
私は玄関先までかなり長く続く庭の小道をレオンを追って小走りに進んだ。
玄関までたどり着くとレオンはノッカーをコンコンと打ち付けた。
「どちら様?」
玄関先に使用人らしき女性が現れる。
レオンはスーツのヨレを直し、ニコリと微笑む。
「私、今日からこちらのお屋敷で執事としてお世話になりますレオン・グリーンと申します。よろしくお願いいたします。こちらはメイドのななかです」
さっきまで意地悪だったレオンが一変して丁寧になる。
あまりの変わりように言葉を失っているとレオンに軽く睨まれた。
「さあ、ななかもご挨拶して」
言葉は丁寧だが目は笑っていないレオンに少しおびえつつ、女性に挨拶をする。
「ななかと申します。よろしくお願いします」
私はお辞儀をしながら、ただただ不安だけを感じるのであった……。