第13話 デレージア・オーディンヴァレー
デレージア・オーディンヴァレーは村長の孫娘である。
なんだって辺境の開拓村にオーディンヴァレー等と言う大層な名前が付いたのか彼女には分からない。
村長である祖父の客として、家に最近寝泊まりしている役人は言っていた。
「そう言えば、谷と言うのは何処にあるのです?…………」
「無いのかよっ?!
なんでだよ!
オーディンヴァレー、って。
最高神の谷、って意味だよ。
何も無い辺境の村に着けるような名前じゃ無い。
こんな辺境でオーディンとまで言い出すからには、さぞ険しい谷底があるのだろう、と思ってた俺がバカみたいじゃないか!!
ならば、何故この村はそんな大層な名前なんだっ!?」
「さぁ、誰かオエライさんが名付けたとか言う話で、ワシにここの村長を頼むと言って来た領主の方も知らんかったみたいですな」
「オーディンですよ、最高神。
気楽に名乗って良い名前じゃ無いと言ってる!!
おかしい。
おかしいだろう。
谷も無いのになんで最高神の谷なんだよ!!!」
王国の基本としてラストネームはその住んでいる土地の名前が付けられる。
まー、そんな訳でなんでだよと言われようと、オカシイと言われようと、デレージアの名前はデレージア・オーディンヴァレーなのである。
じゃあ、マーティン一家はと言うと、最初からラストネームを名乗ってる一族に無理に土地のラストネームを名乗れと強要する事はあまり無い。また引っ越す可能性だってあるのだ。
とは言うモノのお役所への届けなんかはオーディンヴァレーを使わなければいけない。
だからナイトは正式名ナイト・マーティン・オーディンヴァレーになる筈だ。
デレージアはあまり都の事を知らないが、有名な王都グレートベンでは様々な地方から移住してきた人が多数住むと聞く。だからラストネームにグレートベンと名乗ったりはしない。いままで住んでいた土地の名前を名乗ると言うのである。
徐々にラストネームのしきたりも変わっていくのかもしれない。
とすると……デレージア・オーディンヴァレーからデレージア・マーティンなんて名前に変る事も……
いや、何をワケの分からないコトを妄想しているんだ、ワタシ!
「デレージアさん、村の中央部の柵が壊れかけているらしいんだ。
ちょっと見て来てくれるかな?」
助祭のヤコブタさんはそんなセリフをデレージアに言った。
この村は辺境、子供達だって子供だからと言う理由だけで村の仕事から完全に逃れられはしないのである。
10歳を越えれば、見習いとして農作業やら猟を始める。稀に凄く頭の出来が良い子なんかは高等学校へ行く。推薦を受けて、役人や神父への道を歩むのである。デレージアは迷っている。高等学校へ行って勉強をして、その知識を村長として役立てるべきなのか。村に居て村の仕事を肌で感じ、村人達と触れあって良い村長を目指すべきなのか。
それはそれとして。
村の農作物を守る柵が壊れかけてる。簡単な修復なんかも子供達に回って来る作業。本気で倉庫が壊れたみたいな話になれば、大工や専門家を呼ぶ。柵が壊れた程度なら高学年の子供でも対処可能。
だから、デレージアにその話が回ってくるのは当然の事。
「了解しましたわ。
ナイト・マーティン、高学年として手伝いなさい」
「……いいだろう」
素直に少年は立ち上がる。
そうよ、いつもそんな風に素直に言う事を聞けばいいの。
「……あのあの、あたしも手伝います」
「うーん、そうだねぇ。
僕も一緒に行くべきかな」
言い出したのはアンネトワットとジーフクリード。デレージアより二つ年下、ナイトと同学年の子供達。
「大丈夫よ、アンネ。
こんなの大したことじゃないわ。
ジーフ!
アンタは年下の子達の面倒を見てちょうだい」
アンネにはジーフに対する言い方より10倍は丁寧に接したつもりだけど……
何故か年下の少女は哀しそうな顔をしている。
ええっ!
ワタシ言い方きつかったかしら。
「……いいんです。
アンネ罰があたったんです。
小さい子達の事を忘れて、シルフィード様と一緒に歩ける!、なんて舞い上がっちゃった。
欲張っちゃダメですね」
「アンネ、別にアナタが役に立たないとか、アナタの細腕は必要無いとか、言ってるんじゃ無いのよ。
ホラ、柵を直したりするのって、泥にも触るし力仕事じゃない。
だからアナタみたいな少女よりも、
このガサツで!
ぶっきらぼうで!
いっつも、愛想が無くて!
繊細さの欠片も無くて!
都でたむろしているって言う路地裏の不良少年みたいに態度が悪くて!
大魔王の残忍な手下みたいに目つきがキツい!
ナイトみたいのに向いてるかなー、ってそれだけなのよ」
「……デレージアさん……
なにかフォローしてくれようとしてるのは分かるんですけれども、
フォローされてる気がしません」
「デレージアさん……必死過ぎだねー。
普段頭も良いし、しっかりした人なのに。
ナイトが絡むと知能指数が大幅に低下するよね」
「そうか。
俺は女子からはガサツで、ぶっきらぼうで、いつも愛想が無くて、繊細さの欠片も無くて、都でたむろしているって言う路地裏の不良少年みたいに態度が悪くて、大魔王の残忍な手下みたいに目つきがキツい、と思われているのか」
あれあれあれれー!!!
上手く話しを進めたつもりだったのに、どーしてこうなっちゃうの?!
あわあわしているデレージアを見て、ジーフクリードは一つため息をついた。
「アンネトワット、僕と君は留守番して小さい子供達を見てよう。
デレージアさんもナイトくんも小さい子達の面倒見るには不器用だからね。
僕らの方が適役だよ」
ジーフクリード、分かってるじゃない。
アンタは出来る男の子だと思ってたわ。
そんなデレージアにジーフは軽く眉を上げて見せた。
「デレージアさん、なんで上手くいったみたいな顔してんの!
ゼンゼン上手く行ってなかったからね。
アンネ、泣きそうになってたからね!
ナイトも!
なんで落ち込んでるの。
キミが落ち込む要素一つも無いからね。
全く何一つ無いからね」
「俺としては……女子からは怖いくらいに思われているのは承知していたのだが。
まさか、ガサツで、ぶっきらぼうで、いつも愛想が無くて、繊細さの欠片も無くて、都でたむろしているって言う路地裏の不良少年みたいに態度が悪くて、大魔王の残忍な手下みたいに目つきがキツい、とまで思われていたとは。
そこまで思われているとはさすがに予想の範疇を越えていて、若干のショックを受けているのだが」
「なんで!
なんで、デレージアさんの言ったコト真に受けてるの?!
かつ何を言われたか奇麗に暗唱してるのさ。
そんなトコロに暗記力発揮しなくていいよ!
誰も思ってないから。
ちょっと目つきこえーな、くらいには思ってる子もいるかもしれないけど。
ガサツで、ぶっきらぼうで、いつも愛想が無くて、繊細さの欠片も無くて、都でたむろしているって言う路地裏の不良少年みたいに態度が悪くて、大魔王の残忍な手下みたいに目つきが歩い、とは誰も思ってないからー!!!」




