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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

魔法のえんぴつ

作者: 夏月七葉

 何時何処で手に入れたのかは覚えていない。それは気づいたら私の手元にあって、自由に使うことができた。

 何でも良い。文章でも絵でも、とにかくしたいこと、実現させたいことを一枚の紙にこのえんぴつで表現することさえできれば、それが現実になるのだ。

 それは現実的なことだけでなくても良い。空を飛びたいとか、空想上の動物に会いたいとか、魔法のようなファンタジーなことであっても、それは叶えてくれる。それは正に、〝魔法のえんぴつ〟だった。

 私に悩みなどなかった。魔法のえんぴつさえあれば、何だって思いのままなのだから。

 最初に願ったのは、可愛いものだった。欲しいものがあるのに手持ちの小遣いでは足りなくて不足分のお金を出したり、出先で喉が渇いたから好きなジュースを手許に呼んだり。

 けれど、そうしている内に欲求はどんどん大きくなっていった。

 金持ちになりたい。美しくなりたい。全員が自分の意見に頷いて欲しい。

 そんな風に全ての欲求を叶えていたら、気づけば魔法のえんぴつは小指の先ほどの短さになってしまっていた。

 えんぴつは削って使えば、いずれなくなる。そんな簡単なことに今更気がついた私は、それは焦った。自身の欲望は全て叶えてきたのだ。それができなくなるなんて、とても耐えられそうになかった。

 一度、魔法のえんぴつがもう一本欲しいと書いてみたが、何も起こらなかった。どうやらその願いは無効らしい。こんなことは初めてだったが、漫画などではそういったルールもあるから、不思議ではない。

 どうしたものかと考えあぐねているところへ、一人の青年が現れた。彼は何でも思い通りにしている私のことが気に入らないらしく、汚い言葉を吐き出して行ってしまった。

 私は頭にきた。久しく覚えていなかった感情に、気づけば私は短いえんぴつを手にしていた。

 この長さでは、きっと叶えられる願いはあと一つ。けれど、そんなことも忘れて私は怒りのままに書き殴った。

『あいつを殺して』

「あーあ。それだけは願っちゃいけなかったのに」

 不意に背後から声がして、身が凍った。姿は見えないが、〝それ〟の視線に殺されてしまいそうな気がした。

 私の肩に、骨張った硬い手が載る。

「駄目なことをした君には、罰を与えないとね」

 悲鳴を上げることもできない私は、〝それ〟に闇の中へと引き摺り込まれた。

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