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暖色  作者: 辰巳劫生
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恋愛経験のないダメギタリスト伊藤達也が、特別女心が分かる高校の先輩涼太を頼りながら運命の人を探す物語。

ギタリストとして一朝一夕にはいかない日々に疲弊しながらもがく中で、あの出会いが達也を変える、、、。

 最近彼女の返信が早くなった。自分が追われる前提で急に走り出す小さい子みたいに、彼女は僕から遠ざかるふりをしては呼び戻すように僕に甘えて見せた。なすがままにされてうんざりしている僕に気付いたのかは分からないけど、彼女の返信は日に日に早くなった。

 バイト先やスタジオまでは山手線で一駅、酒もタバコも趣味もない僕は家賃だけは奮発して都内駅近に居を構えている。

 微雨、傘を忘れた。雨なんかもろともしない子供が3人で鬼ごっこをしている家の近くの公園。そのベンチで、負けじと雨に耐えながら子供達を眺める。ちっちゃい頃よく居たよ、ベンチから自分達をずっと見てる薄気味悪い人。ああいう風にだけはなりたくなかった。過去、そういう人を気味悪がっていた自分の感情がかなり鋭角に自分を攻めてくる。

 そのうち雨に降られていることを忘れて、お気に入りの小説をカバンから取り出す、濡れた本を見て気づいた。今僕は何かオカシイ。

「調子狂うな」

今の僕の声は極小さい雨音にすら描き消された。

 圧倒的に足が速い男の子が、女の子を全力で追って泣かせてしまっていた。まだ加減が要るなんて分からなかったんだと思うし、彼は不器用なんだ、悪気は全くないはず。でも彼はその後、すぐにその子に背を向け、自分を追ってみろと言わんばかりの、彼女でも追いつきそうな歩き方で挑発していた。泣き止んだ彼女は彼を追う。女の子はほんとうに強い。

 僕の隣にポンッと置かれている背負いバックに「なぞなぞ100連続君には解けるかな!」とかいう本が見えた。なんて無防備なんだ。

 というか、なぞなぞなんて誰が考えてるんだろう。大人になった今、誰かがこの一冊に魂を込めたと思うと少し可笑しい気持ちになれた。なぞなぞを考えつくなんて童心がないと難しい。仮に僕が作るとこうなる。

 「よく考えたら何が楽しいのか分からない。でもその最中は常に夢見心地だし、その後しばらくして振り返ったら綺麗な思い出。これなーんだ。」

 答えは、小さい頃の鬼ごっこと大人になってからの恋愛。こんなのただのQandAだし、適当に考えるつもりが、あからさまにキメにいってる自分が恥ずかしくて少し赤面した。

 夜中、独特で懐かしい匂いがする自分のアパートに、ビショビショに濡れた僕が帰ってくる。「ハーッ」と深く、色々混ざった重いため息を一つ。

 「何してんねん!そんなんばっかやないか!」僕はすぐに小さいテレビがつけっぱなしであると気づき、落ち込む間もなく部屋のドアを開けた。僕は何もせずそのまま出てきたらしい、まるで誰かが今ここで生活をしているような状況だった。


僕の背筋が凍った。





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