そして時間は
それから、1年が経ち。
私は少しずつ、社交というものをこなすようになっていった。
王族しか持ちえない金髪と薄紫の瞳、母によく似た美貌に加え、王族として美々しく着飾った私は、それはそれは目を惹く存在であったらしい。
社交界に出始めて間もなく、私の周りにはたくさんの取り巻きがついた。
彼らの魂胆は見え透いている。
多少の違いはあれ、ほとんどは王族である私に取り入りたいのだ。
兄王子や姉王女に気に入られ損ねた者、野心が留まることを知らない者、或いは私の美貌目当ての者。
信頼できそうな者など一人もおらず、故に私は常に華やかな笑みを浮かべ、時に王族らしく傲慢で奔放な振る舞いをしながら、誰にも付け入られないように細心の注意を払った。
……ああ、反吐が出る。
みんなみんな、上っ面の笑顔ばかり。
豪勢に飾り立てられた会場や参加者のドレス、食べきれない程盛り立てられた食事、ぶくぶく太った貴族ども。
湯水のように使うその金が、国民たちの怨嗟から成り立っているとも知らず、己の欲にのみ忠実な、王族と変わらない醜い生き物。
表面上は美しくとも、あの虚構と欲に塗れた空間に、私は何の魅力も感じられなかった。
唯々、醜い。気持ち悪いと、思う。
もっとも、それを心の中で嘆いているくせに進んで足を運び、彼らと同じように華やかに振舞うだけで未だなんの行動も起こせていない私が、一番醜いのだけれど。
社交界には、沢山の情報が集まる。だから、私は通うのをやめるわけにはいかなかったのだ。
そんなことと同時に、私は財産の管理を、自分自身の力で行い始めた。その重要性に気が付いたのは、マギーがいなくなって間もなくのことだった。
正式で煩雑な手続きを踏んで、自分の財産を、自分の希望通りに使用する。
それは、特に私のような目的を持つ者にとっては、ひどく重要な事だった。
私の周りに信用できる者はほとんどいない。マギーの死から、彼女の役割であった筆頭侍女に代わる人材を役人から紹介されたことがあったが、一目見て信用できない者ばかりだったから断った。
これは、文字通り、私の命綱だ。
私は私の財産があるから生きていけるし、こうやって秘密裏に行動を起こすことが出来る。
けれどやっぱり、大変だ。
社交界で王女らしく振る舞いながら、残りの時間は密かに学び、考え、普通は使用人に任せるようなことも、全部ひとりでやっている。
嗚呼、マギー。どうしてあなたは死んでしまったのかしら。
今日も私は空っぽな笑みを浮かべながら、取り巻きたちを率いて一時も気の休まらない時間を過ごす。
そんな、時だ。あの言葉が聞こえたのは。
「――死んでくれないか」