それから
共和制となって数年経った、とある国。
辺境の村――シグニという村に、一組の、その地域では有名な夫婦が住んでいた。
そこは長閑な村であったが、一方でその地一帯の復興を進める重要な拠点となっており、その長を、いまだ年若い一人の青年が務めているという。
その傍らには、凛と立つ一人の女性――青年の妻。
彼女は表立って動くことは無かったが、彼女を知る者は口々にこう言う。
「いやあ、あれほど素晴らしい方はどこにもいませんよ!」
「彼女を妻に持てた長は果報者ですなあ」
また別の人々――昔からシグニに住む人々なんかは、こんなことを言う。
「長の事は、まあ、気に入りませんが――あの方が幸せなら、それで良いんじゃないですか」
「まあ、素直じゃないこと。長が来てくれて良かったと、酒の席で叫んでいたじゃあありませんか」
「なっ――お前だって! 昔はあんなに邪険にしとったくせに」
「まあ、言うに事欠いてそれですか!」
ぎゃあぎゃあと言い合う中年夫婦を尻目に、子どもたちはこんなことを言う。
「おれ、大きくなったら、二人みたいなひとになりたいなー」
「いつ遊びにいっても、優しいし。たのしいし」
「ねー」
そう言って、彼らは軽やかに笑うのだ。
暴虐な王の、王族たちの爪痕は、まだまだ残っている。
けれども、もう彼らは居ない。
後は前を見て、真っすぐ進むのみである。
とある日の、爽やかな早朝。
シグニの小高い丘にある家で、今日も彼らは、誰よりも早く身支度を始める。
「まだ寝ていて良いのですよ、アトリ。貴女にはまだ睡眠が必要でしょう」
「いいのよ、エディ。今日は体調が良いし……この子も目が覚めてしまったみたい」
ほら、蹴ってるわ、と、彼女が優しくお腹をさする。
「本当だ。……今日も村の方に、頼んでおきますから。お願いですから、無理はしないように」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ? 張り切りすぎて倒れたあなたの看病なんて、もう二度としたくないわ。心臓に悪いもの」
そんな風に言い合う二人は、ややあって顔を見合わせくすりと笑う。
「いってらっしゃいエディ。お願いだから、気を付けてね」
「行ってきます、アトリ。貴女も」
触れるような、優しいキス。
そうして二人は、今日も活気に満ちた日々を歩むのだ。
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