87 学園長に話を聞く
犯罪奴隷。
奴隷と一言で言っても色々と種類がある。
借金奴隷、戦争奴隷、違法奴隷、そして犯罪奴隷。
奴隷の中で一番多いのは借金奴隷だそうだ。
名前の通り借金を返せなくなった者が堕ちる奴隷だ。
初めて孤児院の子供達、リュウ達と会った時は借金奴隷になることでオレ達から食べ物を分けてもらおうとしていた。
戦争奴隷とは戦争中に捕らえた敵国の捕虜、もしくは戦争に敗れた国の住人がなるものらしい。
違法奴隷は悪人に騙されたり拐われるなどして違法に奴隷に堕とされた者のことだ。
スミレはこの違法奴隷だったな。
奴隷になった者は隷属の首輪、もしくは腕輪をつけられ主人として登録された者の命令に逆らえなくなる。
逆らえば苦痛か死が待っている。
良い主人であれば奴隷でもそれなりの生活の保障はされるが大抵は人間以下の扱いだとか。
そしてミールが言った犯罪奴隷。
これは犯罪を犯した者が堕とされるもっとも人間扱いが期待できない奴隷だ。
第一級から第五級まで分けられていて数字が小さいほど重犯罪者だという。
第一級は死罪一歩手前のもっとも重いものだ。
殺人であっても第一級にはならずに第二級で済むこともあるらしい。
エイミとミールが第一級の犯罪奴隷?
とても信じられないがこんな嘘をついても意味がないだろう。
だが二人とも隷属の首輪も腕輪もつけていない。
どういうことか気になったがあまりに聞きづらい。
食事の場ではあれ以上の話は聞かなかった。
なのでオレ達は次の日の朝、おそらく事情を知っているであろう学園長のリプシースさんの部屋を訪ねた。
オレ達と言ってもオレとアイラ姉だけだが。
「エイミとミールについてね。いいわよ、話せる範囲でなら教えるわ」
学園長はオレ達が来ることを予想していたようだ。
まあそれなら話が早い。
学園長から二人の事情を聞くことにした。
「5年前にエルフの里で大事件が起きたのよ」
学園長の話によると今から約5年前にエルフの里で殺人事件が起きたらしい。
そしてその犯人がエイミとミールの父親だったと。
老若男女問わず無差別にエルフが殺害されたそうだ。
10人以上の犠牲者を出し、ようやく犯人として突き止められたのが二人の父親だった。
二人の父親は大人しく捕まらず多くのエルフの兵に囲まれながらも激しく抵抗したという。
狂ったように次々とエルフの兵を殺していき、必死に止めようとした妻、エイミとミールの母親すらも殺害し、多くの犠牲を出しながらようやく討たれたそうだ。
一般人、兵士を合わせると40人近い犠牲者を出した事件だったという。
「犯人は討たれ事件は解決したわ。でも犠牲になった者の家族達の怒りは収まらず、怒りの矛先は犯人の娘である二人に向いた」
もともとハーフエルフとしてあまり良い感情を持たれてなかった二人は大罪人の娘としてすぐにでも処刑しろという声も出たらしい。
だが犯人の娘というだけで死罪というのはさすがに厳しすぎるという意見も出たようだ。
「犠牲者の数があまりに多すぎたのよ。結果、最終的には二人を第一級犯罪奴隷にするという処分が決定したわ」
学園長が険しい表情で言う。
「二人の父親は何故そのような事件を?」
アイラ姉が問う。
「わからないわ。デューラは温厚でとてもそんな事件を起こす人物じゃなかった。私も信じられないくらいよ」
父親の名前はデューラと言うのか。
話によると家族想いの人物だったらしい。
どうしてそんな人がそんな大事件を?
洗脳などで操られていたとか?
「もちろん色々な可能性を調べたけど結局何もわからなかったのよ」
まあ事件を直接見ていないオレ達が考えても答えは出ない。
それよりも今はエイミとミールのことだ。
この話だと事件を起こしたのは父親で二人に非はない。母親は殺され父親は討たれた。
むしろ被害者だろう。
「みんながみんな、そう考えてくれれば良いのだけどあなたのその意見は少数派なのよ」
確かに犯罪者の家族、もしくは関係者というだけであまり良い目では見られないだろう。
ましてや大量殺人犯の家族では············。
犯罪奴隷に堕ちた二人は厳しい扱いを受けたそうだ。
理由が理由なだけに通常の第一級犯罪奴隷に比べればまだマシな扱いだったようだが当時12才の二人には過酷だったろう。
それを見かねた学園長が二人を救ったそうだ。
「メアルの娘がひどい扱いを受けるのを見ていられなかったのよ」
メアルとは二人の母親のことだ。
学園長とメアルは親友だったそうだ。
この学園に通っている間はエイミとミールは奴隷から解放される。
あくまでも一時的にだが。
少しでも問題を起こせば退学となって奴隷に逆戻りになる。
「じゃあ今回のこの決闘ってまずくないですか?」
そんな立場のミールが他の生徒と決闘なんて大丈夫なのか?
「それは大丈夫よ。決闘は学園も認めているからたとえミールがフェルケンを大怪我させたとしても罰せられることはないわ。決闘が成立する前に攻撃していたらまずかったけどね」
それなら心配いらないか。
ん? だとするとあいつはなんで決闘を成立させたんだ? あのまま挑発を続けていればミールが手を出したかもしれない。
そうなれば簡単にミールを学園から追い出せただろうに。
そういえばあいつの要求も特別クラスからの追放で学園からの追放じゃなかったな。
「フェルケンはエルフの中でも名家出身なのよ。フォマード家は誇り高いから卑劣なマネはしないと思うわ」
キザったらしい嫌味な奴かと思ったがそこまで悪い奴でもないのかな?
「ただフェルケンの父親はその事件で兵隊長として戦って重傷を負ったのよ。一命はとりとめたけど、その時の傷の後遺症で戦えなくなり戦士としては引退を余儀なくされたわ。だからフェルケンが二人を敵視していてもおかしくないわね」
だからあいつはあんな言い方をしていたのか。
だが、だからと言ってミールを追い出させるつもりはない。
「学園を無事卒業できたら二人はどうなるのです?」
アイラ姉が問う。
確かに二人が奴隷から解放されるのは学園に通っている間だけだったな。
「卒業まで問題を起こさなければ第四級か第五級くらいに減刑されるわ。その後はエルフの里で監視の中で住ごすことになるけど」
第四級か第五級ならば扱いはそこまで酷くはならないらしい。
その後の生活態度次第では奴隷からの解放もありえると。
「それか学園にいる内にでも何か大きな功績を挙げれば即解放もありえるわね。誰もが認めるほどの功績なら」
「功績?」
「例えば誰も攻略していない迷宮でとてつもない発見をするとか······ね」
学園長がオレ達を見てイタズラっぽく笑いかける。
············そうか、オレをエイミとミールと同室にしたのはそういう意図があったからか。
異世界人というイレギュラーなオレ達に何かを期待しているわけか。
「学園の地下迷宮にオレ達も入っていいんですか?」
「ええ、万が一の事態になればあなた達に攻略を依頼することになるからね。様子を見るためにも入るのは構わないし、何名かの同行者も認めるわよ。もちろん入る時は私の許可がいるけど」
なるほど、学園迷宮にはオレも興味があったので入れるなら行ってみたい。
まあその件は後で考えよう。
今はミールとフェルケンの決闘のことだな。
「二人の決闘の審判は私がするわ。私の審判だから妙な物言いは出させないようにする。それに私もたった一日の特訓でミールがどれだけ力をつけたか見たいしね」
学園長直々の審判か。
普通は公平な判断ができるように教師か他の生徒が審判役をやるものらしく学園長が審判をするなんてまずないことのようだが。
まあそれならオレ達に異論はない。
後はミールが勝つように応援するくらいだな。




