84 決闘の準備
この学園では生徒同士の〝決闘〟が許可されている。
ケンカなどの争い事は認められていないが、双方が同意した決闘ならば学園も認めているらしい。
決闘ではさすがに殺しは認められないがある程度の怪我ならば自己責任となる。
ミールはエルフの生徒フェルケンに〝決闘〟を申し込んだ。
そしてフェルケンはそれを受けた。
これで双方の同意を得たことになる。
決闘は今すぐではなく明日学園のグラウンドで行われることになった。
「本気で私とやり合う気かな? 言っておくが手加減するつもりはないぞ」
笑みをうかべてフェルケンが言う。
自分が負けるとはまるで考えていないようだ。
「ミ、ミールやめようよっ、勝てるわけないよ!?」
「今更遅いですよ姉さん。もう勝つしかありません」
エイミが心配して言うがもう決闘はキャンセルできない。
決闘に勝てば負けた方に一つ何かを要求できるらしい。
こいつはミールに何を要求する気かな?
「私が勝った暁にはキミには特別クラスを去ってもらおうか? なに、学園をやめろと言うわけではないから安心してくれ」
そうきたか。
自分と同じクラスにハーフエルフがいるのが嫌なんだろうな。
「いいでしょう。ただしワタシが勝てば先程の父様を侮辱した言葉を取り消してもらいます。いいですね?」
「ああ、構わないさ」
「ちょっと付け加えさせてくれ」
オレも黙ってられなかったので口を挟んだ。
「何をだい? ええと、レイ君だったかな?」
「レイでいい。君付けされてもむず痒い」
まあ呼び方とかはどうでもいい。
それよりも······。
「オレからも要求だ。ミールが勝ったらさっきの二人を嘲る言葉の謝罪を正式にしてもらう」
「ほう、つまりキミも私と〝決闘〟するつもりかい?」
「いやオレは戦わない。ミールに託させてもらう」
オレがこいつを倒してもあまり意味がない気がする。だからミールの実力でこいつを負かしてもらおう。
「オレが明日までにミールを鍛える。お前に勝てるくらいにな」
「本気で言ってるのかい? たった一日で何ができるんだ?」
「それは明日のお楽しみだ」
オレもこいつに対向して不適な笑みをうかべた。
あまりこういうのは柄じゃないが。
フェルケンもその挑発に乗ってきた。
「面白い、いいだろう。私が負ければ二人に正式に謝罪しよう。だが私が勝てばキミには相応の詫びをしてもらおうか。それでいいかな?」
「ああ、それでいい」
オレが頷くとフェルケンは楽しそうに笑った。
「では明日を楽しみにしているよ。せめて私を本気にさせてくれよ?」
そう言ってフェルケンはこの場を去って行った。
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「ごめんミール、勝手なこと言っちゃって」
オレも冷静じゃなかったのかもしれない。
今考えればかなり強引なことを言ってしまった。
「いえ······もともとはワタシが原因です。それなのにレイさんを巻き込むことになってしまいすみません」
先程の興奮状態から元に戻ったようだな。
普段の口調でミールが言う。
「オレが勝手に言ったことだよ。それよりも明日までにミールにはあいつに勝てるようになってもらわないとね」
「で、でもレイ君······フェルケンってすごく強いんだよ? ······明日までになんて」
エイミが心配そうに言う。
フェルケンのレベルは31。ミールは19だ。
このくらいの差なら一日で充分に超えられる。
オレには(獲得経験値10倍)スキルがある。
アイラ姉とシノブの協力があれば最大2000倍になる。
「フム、話は聞かせてもらったぞ」
と現れたのはアイラ姉だ。
どうやら今のやりとりを見ていたようだ。
というか周りからずいぶん注目されていたからな。まあ話が早くて助かる。
アイラ姉にも協力してもらおう。
「改めて私はアイラだ。よろしく頼むぞ」
「ワタシはミールです」
「わ、わたしはエイミです。よ、よろしく······」
三人がそれぞれ自己紹介した。
エイミは緊張気味だがオレの時ほどじゃないな。
やはり同性の方が話しやすいのかな。
「アイラ~、早く食べましょうよ~」
奥の席からアイラ姉を呼ぶ声がした。
「ウム、すぐ行く。ではレイ、それにミールにエイミも詳しい話は放課後にな」
そう言ってアイラ姉は奥の席に戻っていった。
特別クラスの何人かの生徒と和気あいあいと喋っている。
さすがはアイラ姉だな。
すでにクラスに馴染んでいるようだ。
オレ達も食事を再開した。
放課後にはミールのレベル上げを開始しよう。