81 王立エルスタン学園~入学前日の学生寮にて~
国王との対面から数日が過ぎた。
国王からの依頼でオレ達は王都の学園に通うことになった。
まさか異世界に来て学園に通うことになるとは思わなかった。
王立エルスタン学園。
王都に住む10~18才の学生が通う学園だ。
初等部、中等部、高等部と年齢ごとに分かれているらしくオレとアイラ姉は高等部。
シノブとスミレは中等部に通うことになった。
何故通うことになったかというと迷宮の監視のためだ。
約2ヶ月程前に突如として学園の地下に迷宮が出現したらしい。
国としては攻略して消滅させるよりもうまく管理したいようだ。
もっとも迷宮に関してはまだ詳しいことはわかってないらしいので管理できるかは未知数だが。
魔物の大量発生など緊急事態になればすぐにでも攻略に乗り出すつもりだ。
国王からもそう依頼されている。
そんな事態にならなければいいが············。
まあそれまでは学園生活を満喫しようと思う。
オレ達は国王からの推薦で途中入学という形で通うことになった。
国王からの推薦って目立ち過ぎじゃないか?
今更かな?
「明日は改めて今後のことを考えよう」
「失礼するでござる師匠、アイラ殿。さ、スミレ殿行くでござるよ」
「············今日の所はサヨナラ······アイラ、ご主人様」
そう言ってアイラ姉、シノブ、スミレと別れた。
オレ達がどこにいるのかというと学園の学生寮だ。
学園に通う間は寮に住むことにした。
王都にいる間はフェルクライト家の屋敷に厄介になる予定だったので事情を話した時ミウやユーリに残念がられたが。
当然アイラ姉達とも別々になるので少し寂しい気はしたが(スミレが特に駄々をこねて大変だった)まあ別に会えなくなるわけでもないしな。
それぞれ指定された部屋に向かったのでオレも行動に移る。
寮は2~3人部屋でオレも学園の生徒との同室になるらしい。
どんな人なのかは聞いていない。
途中からいきなり一緒になるのだが歓迎してくれるだろうか?
そう考えている内に指定された部屋の前に着いた。
······緊張してきたな。
立ち止まっていてもしょうがない。
鍵は受け取っているので中に入ることにした。
「失礼します······」
「······ふぇ?」
とりあえず声を出して中に入った。
部屋にいた人物と目が合った。
サラサラなキレイな長い髪に太陽のような形の髪止め? 髪飾りをつけている可愛いらしい女の子だった。
············着替えの途中だったのか下着だけの姿だが。
って女の子!? 部屋は間違えていないはずだけど。
なんで女の子がこの部屋に!?
「ひぃやああーーーーっ!!?」
女の子が悲鳴をあげた。
「ご、ごめん!?」
すぐに扉を閉めて外に出た。
ノックくらいするべきだったと今更ながら反省する。でもなんで女の子が?
しばらくすると中から声がかかった。
「······も、もう入って大丈夫ですよ······」
すごく入りづらいが声がかかったのだから入るか······。
女の子は学園の制服を着ていた。
「どうも······この部屋に住むことになった············はずなんだけど?」
「は、はは······はいっ、話は聞いています······男の子とは聞いていなかったけど······」
どうやらこの部屋で間違いないらしいな。
「女の子と同室になるの?」
「こ、ここ······この寮は男女同室は珍しくないんですっ······あの······えと、······その」
男女同室なのか。
それって問題ないのか?
異世界の学生寮だからいいのか?
············そういう問題じゃない気がするが。
アイラ姉達も男女同室なのか?
「えっと······オレはレイ。これからよろしく············でいいのかな?」
「わ、わ······わたしはエイミです······その······よろ、よろしく」
エイミか。しかしこの子緊張のためか舌が回ってないな。
オレも緊張してたがそれ以上だな。
「この部屋はキミ一人なの?」
「わ、わわ、わたしの他にもう一人······いもう······」
「ワタシのことですか?」
「ひぃやああーー!!?」
エイミの真後ろから気配もなくもう一人女の子が現れた。
エイミそっくりの女の子だ。
ちょっと目が鋭いのと髪飾りが月の形をしているのを除けばエイミと瓜二つだ。双子の姉妹かな?
「ミミミ······ミール!? びっくりさせないでよっ」
「さすが姉さんです。期待通りの反応をしてくれます。それに対して······」
ミールと呼ばれた女の子がオレの方を見る。
「アナタは全然驚いていませんね。二人とも驚かすつもりだったので少し悔しいです」
ああ、だからあんなタイミングで出てきたのか。
「キミは? オレはレイって言うんだけど」
「ワタシはミールと申します。そこの騒がしい人の双子の妹です」
やはり姉妹か。
よく見たらこの二人耳が尖っているな。
もしかしてファンタジー定番のエルフという種族だろうか?
[エイミ] レベル19
〈体力〉195/195
〈力〉60〈敏捷〉85〈魔力〉300
〈スキル〉
(魔力増加〈小〉)(詠唱破棄)
(森の精霊の加護〈小〉)
[ミール] レベル19
〈体力〉210/210
〈力〉65〈敏捷〉100〈魔力〉280
〈スキル〉
(魔力増加〈小〉)(詠唱破棄)
(森の精霊の加護〈小〉)
双子の姉妹だけあって似たようなステータスだ。
二人ともそれなりに強い方だな。
「むう、鑑定が出来ません。さすがは特別クラスに入ることができる人物、ということですか」
ミールもオレを鑑定しようとしたみたいだな。
だがレベル差があって出来なかったようだ。
しかし今の言葉に気になる所があったぞ。
「その特別クラスって何のことだ?」
「知らないのですか? 学園には貴族、平民関係無く優秀な者だけが入れる特別クラスがあるんですよ。新しく二人入ると聞いていたのであなたのことだと思っていたのですが?」
二人············多分オレとアイラ姉のことだな。
シノブとスミレは中等部だから同じクラスにはならないだろうし。
あまり目立ちたくなかったのに特別クラスに入るってめちゃくちゃ目立ちそうなんだが······。
「ちなみにワタシと姉さんも特別クラスです」
表情はまったく変わっていないがドヤ顔でもしそうな口調でミールが言った。
この子、スミレみたいに無表情がデフォルトみたいだな。
「むう、反応が悪いですね。特別クラスって結構すごいことなんですが」
不満そうな声で言っているが無表情のままだ。
なんて答えればいいんだ?
「えっと······つまり部屋だけじゃなくクラスも一緒ってことだよね」
「まあそういうことになりますね。これからよろしくお願いします」
ミールがペコリと頭を下げたのでオレも同じようにする。
「姉さんもいつまで緊張しているのですか。これから一緒に過ごすのですから挨拶くらいちゃんとしましょう」
「そ、そそそうだね······よ、よろ、よろしくレイ君······」
「ああ······こちらこそ」
エイミとはさっき挨拶した気がするがまあいいか。
「で、でででもレイ君······ほ、本当にわたし達と一緒でいいの?」
おそるおそるといった感じにエイミが言う。
どういう意味だろうか?
むしろエイミ達の方が男と一緒になるのを嫌がるんじゃないかな。
「気付いてるとは思いますけどワタシ達は人族ではありません」
ミールが自分の耳を指差した。
「ああ、エルフなのかな?」
「いえ、ワタシ達は純粋なエルフではなくハーフエルフです」
ゲームとかの知識になるがハーフエルフというとエルフと別種族との間に生まれるっていうやつかな?
「そうなのか。でもそれがどうしたんだ?」
「············いえ、気にならないのなら別にいいんです」
オレの言葉にミールはそう答えるだけだった。
エイミは何故かホッとした表情だったが。
確かゲームとかでもハーフエルフって色々差別されるような種族だったしそんな感じの事情でもあるのかな?
まあそういう詳しいことはもっと仲良くなってから聞くとするか。
これからしばらくはこの二人と一緒に過ごしていくことになる。
もともと三人部屋を二人で使っていたらしいのでオレ一人増えても問題ないようだ。
オレが男だということを除けば。
············二人が気にしないのならオレもなるべく意識しないようにしよう。
それよりも問題なのは学生寮に風呂がないことだ。
身体は濡れタオルで拭くか洗浄魔法でキレイにするのが普通らしい。
後でアイラ姉と相談しないとな······。