勇者(候補)ユウの冒険章①プロローグ
番外編です。
レイ達とは別視点からのストーリーになります。
――――――――(side off)―――――――――
結界によって外部との交流を遮断していた町エイダスティア。
ある事件がきっかけで結界は消え、外の世界との交流が始まることになった。
その町から三人の少年少女が外の世界へと旅立った。
(勇者の資格)のスキルを持つ少年
ユウ=ロードテイン。
天才的と呼ばれる程の力を持つ少女
テリア=フランディスト。
ユウが精神世界より召喚した
夢魔族の少女ミリィ。
三人の旅は始まったばかりだ。
「それにしても広い森ですねぇ?
もう道に迷って何日目でしたっけぇ?」
ぐるっと飛び回りながらミリィが言う。
結界が消えたエイダスティアの周りは広い森で囲まれていた。
三人はすっかり道に迷っているようだ。
「ミリィ、アンタ飛べるんだから森の出口の方向くらいわからないの?」
「そこまで高くは飛べませんよぉ。見回しても森しか見えませんでしたぁ」
「使えないわね······何の為の翼よ、それ」
「うるさいですねぇ? テリっちにそんなこと言われたくないですよーだ」
テリアとミリィが言い合いを始める。
この二人は事あるごとにこうした言い合いをしてしまう。
ケンカするほどなんとやらならいいのだが、この二人放っておけば本気で殺し合いをやりかねない。
「あはははっ、このまま森を抜けられずに野垂れ死んじゃうかなぼく達?」
ユウはマイペースにそんなことを言っていた。
まったくと言っていい程に危機感がない。
「笑い事じゃないでしょうまったく······まさか結界の外がこんな森に囲まれていたなんてね······」
そんなユウに常識的なツッコミを入れるテリア。
「あ~あ、気が滅入っちゃいますよねぇ? ユウ様と二人きりならよかったんですけど変なお邪魔虫がいますしぃ」
「お邪魔虫はアンタの方でしょ! 気が滅入るんならさっさと元の世界に帰りゃいいじゃないのよ」
「いやですよーだ。ユウ様のそばにいるととぉーっても幸せな気持ちになれるんですからぁ。テリっちの方がどっか行って下さいよぉ?」
「なによ?」
「なんですかぁ?」
互いに睨み合う二人。
まさに一触即発といったところだ。
「二人ともケンカはやめなよ」
そんな二人を微笑ましく見ながらユウが止めに入る。
――――――ドドッ、ドドッ、ドドッ············
そんなユウ達を突然馬に乗った数人の男達が現れ取り囲んだ。
「こんな森の中にガキ共だけでってのは珍しいな」
「へへっ、金目の物を頂いた後奴隷として売り払っちまうか」
どうやら男達は盗賊か山賊か、そういう類いの人間だったようである。
ユウ達を見て下品な会話をしている。
「へー、外の世界ってこういう人達がいるんだ。確か盗賊ってやつだっけ?」
ユウが無邪気に言う。
「ユウ様と違って品の無さそーな人達ばっかりですけどねぇ」
ミリィがケラケラ笑いながら言う。
「ま、なんにせよ人に会えてよかったわ。ようやくこの森から抜けられるかも」
テリアがふうっと息を吐く。
盗賊に囲まれているというのに三人ともまるで危機感がない。
「このガキ共、俺達を舐めてんのか!?」
「拐う前に痛い目見させた方がよさそうだな!」
まったく危機感のない会話をしているユウ達を見て男達が怒声をあげる。
「あはははっ、これって確か冒険モノのてんぷれって言うんだっけ?」
ユウが笑いながら言う。
「このクソガキが!」
「泣いて命乞いをさせてやるぜ!」
男達がそれぞれ武器を抜いてユウ達に襲いかかった。
「ねえ、町までまだなの?」
「············も、もう少しです······」
ボコボコにされた男達の後ろからユウが言う。
ユウ達はそれぞれ馬に乗りながら寛いでいた。
襲いかかってきた男達は見事に返り討ちにされ、道案内をさせられていた。
見た目はただの少年少女だが盗賊程度にユウ達が負けるはずがなかった。
「もうちょっと早く歩けないんですかぁ?」
「す、スミマセン············」
ミリィのぼやくような言葉に男がビクついた声で答える。
ユウ達にやられたショックで男達は完全に意気消沈していた。
こうして男達の案内でユウ達は森を抜けることができた。
森を抜けてユウ達はようやくアルネージュという町にたどり着くことができた。
男達は町の衛兵に事情を説明して引き渡した。
あの様子では二度と悪いことはできないかもしれない。
「ここがアルネージュの町なのね。レイさんやアイラさん達もこの町に住んでいるって話だったわね」
テリアが町を見回して言う。
初めての外の世界の町ということで少し緊張しているようだ。
「町を見て回るのは明日からにしようか。もう暗くなる時間だしね」
ユウの言葉にテリアとミリィが賛成する。
「じゃあ宿を探しましょうよぉ、これだけ大きな町なら泊まれる所もあるはずですよぉ」
ミリィが言う。
ちなみに今のミリィは背中の翼は目立つため仕舞った状態だ。
身体の中に収納出来るらしい。
三人は町の人に聞きながら宿を探した。
しばらくしていい感じの宿を見つけた。
「今日はここに泊まりましょう。三人部屋くらいなら空いてると思うわ」
「ずーっと野宿だったからふかふかのお布団で寝たいですねぇ」
テリアとミリィが言う。
「あ、そういえばお金ってあったっけ?」
「ちゃんと持ってきてるわよ。そんなに大金じゃないけど三人泊まれるくらいなら大丈夫のはずよ」
「そうじゃなくてさ、ぼく達の町って結界が張られてて何百年も外と交流がなかったでしょ? ぼく達の町で使ってたお金って外の世界でも使えるのかな?」
「············あ」
ユウに言われてテリアがハッとする。
すぐに店の人に確認してみたが結果は·············。
「ダメね······やっぱり使えなかったわ」
テリアが困った表情で言う。
「ええ~、じゃあどうするんですかぁ? せっかく町に着いたのに野宿なんて嫌ですよぉ」
ミリィの言うことにはテリアも同感だった。
「なんとかお金を稼ぐしかないわね············」
テリアが考え込む。
「ぼくの家の蔵から色々な魔道具を持ってきてるから売れるんじゃないかな?」
「蔵ってあの禁断の蔵のことよね? ダメよ、危険な物もあったはずだしリスクが高いわ」
ユウは収納袋に禁断の蔵に入っていた魔道具をすべて詰め込んでいた。
おそらくユウ自身もすべてを把握していない。
「じゃあ(物質具現化)を使ってお金を作ればいいんじゃないかな?」
「(物質具現化)で作ったお金なんてニセモノじゃない」
「違うよ、(物質具現化)で剣や鎧や盾を作ってさ、それを売ればいいだよ」
「でも具現化した物は魔力を込めた媒体がないとすぐに消えちゃうじゃない。今媒体になるものなんてそんなに持ち合わせてないわよ?」
「媒体なんていらないでしょ? 売る時に具現化してればいいわけだし売った後消えても問題ないよ」
「問題あるわよ! そんなの犯罪行為じゃない!」
ユウは名案を言ったつもりのようだがテリアがそれを却下する。
「じゃあミリィに名案がありますよぉ?」
「············どんな案よ」
ミリィの提案というだけでテリアはあまり良い予感はしていなかった。
「ミリィの(吸血)スキルで宿の主人の血を吸って操るんですよぉ。そしたらタダで一番良い部屋に泊まれますよぉ」
「あははははっ、いい考えだねミリィ」
「ダメに決まってるでしょそんなの!」
即座にミリィの提案を却下するテリア。
ユウは面白がっていたがそんなこと実行させるわけにはいかない。
ユウとミリィだけで旅に出ていたらどうなっていただろうか。
自分がついてきてよかったと心底思うテリアだった。
「文句ばっか言ってますけどテリっちには何か案があるんですかぁ?」
「宿の人に交渉してみるわ」
そう言ってテリアが交渉しに行く。
働かせてほしいと言ったらちょうど人手が不足していたらしくテリアが事情を説明すると快く了承してもらえたようだ。
「ちょうど人手が足りなくて困っていたのよ。けどその年で旅なんて珍しいわね」
宿の女主人が三人を見て言う。
一通り仕事の説明を受け、ユウ達は支給された従業員用の制服に着替えた。
「突然だったのにすみません」
テリアがペコリと頭を下げる。
「頑張って働きますよぉ!」
意外にもミリィは乗り気だ。
女性用の可愛い制服を着れてご機嫌のようだ。
「ヒラヒラしてるけど結構動きやすいねコレ」
「ってユウ!? なんでアンタまで女物の制服着てるのよ!?」
自分と同じ格好で出てきたユウに対してテリアが突っ込む。しかし似合っていて違和感がない。
「きゃ~ユウ様、とーーっても可愛いですぅ!」
ミリィが少し興奮気味に言う。
「あらこの子男の子だったのかい? あんまり似合っているから女の子かと思ったよ」
宿の女主人が笑って言った。
三人ともうまく宿屋の仕事をこなしていた。
初めてとは思えないと女主人に絶賛されたくらいだ。
ちなみにユウはあのまま女性用の制服で仕事をしていた。
何気に客や他の従業員に受けがよかったらしい。
仕事が終わるとユウ達にはお客用の三人部屋が用意されていた。
「は~、疲れたですけど結構楽しかったですねぇ
ユウ様ぁ」
ミリィが心底楽しそうに言う。
「あはははっ、そうだねミリィ。本当に楽しかったよ」
「············ていうかユウ、アンタなんで最後まで女物の格好だったのよ?」
ユウは笑顔で、テリアは頭をかかえて言う。
「別に誰も気にしてなかったけど?」
「あ~確かにユウ様のこと、本当に女の子だと思ってた人もいましたねぇ」
「······もういいわ。疲れたしこれ以上は何も突っ込まないわよ」
諦めたようにテリアが言う。
数日ぶりにちゃんとした部屋で休めるのでテリアも疲れを癒したいようだ。
「明日からはどうしようか? ぼくは冒険者ギルドってのに興味があるんだけど」
エイダスティアの町にはそういう施設はなかったのでユウは興味津々のようだ。
「そうね······お金を稼がなきゃならなくなったし明日はそこに行ってみましょう」
テリアもそれに賛成した。
冒険者ギルドで冒険者として登録すれば身分証明になるギルドカードがもらえるし、依頼を受けてお金を稼ぐこともできる。
そんな感じに今後の予定を決めた。
部屋で少し休んだユウ達はお風呂に入りに行った。
この宿にはお風呂があり、男女分かれた大きめの浴室があるらしい。
もともとはこの宿にお風呂はなかったようだが町の英雄と呼ばれる人達がそういった技術を提供してくれたとのこと。
今ではアルネージュのほぼすべての宿に風呂があるらしい。
「ふうっ」
ユウが大きな湯船に浸かり一息ついた。
今は他の客も従業員もおらずユウ一人だけだ。
「外の世界に出てよかった。これからも楽しいことがいっぱいあればいいなあ」
ユウはこの旅を心から楽しんでいた。
エイダスティアにいた頃はこんな気持ちになったことがあっただろうか?
ユウはそんなことを考えていた。
「ユウ様~、お背中流しに来ましたよぉ!」
突然ミリィが男湯に乱入してきた。
身体にバスタオルを巻いただけの格好だ。
「ミリィ、こっちは男湯だよ」
まったく動じた様子を見せずにユウが言った。
「わかってますよぉ、でもこの時間ユウ様以外誰もいないしいいじゃないですかぁ?」
「いいわけないでしょ!」
ミリィの言葉に被せるように叫びながらテリアが入ってきた。
ミリィと同じくバスタオルだけの格好だ。
「テリア、こっちは男湯············」
「わかってるわよ! そこのバカを連れ戻しに来たのよ!」
「むぅ~、邪魔が来ましたねぇ」
さっきまで静かだった浴室が一転して騒がしくなった。
「とにかく戻るわよミリィ! こっちは男湯なんだから入っちゃダメよ!」
「テリっちだって入ってきてるじゃないですかぁ?」
「アンタを連れ戻しに来たって言ったでしょ!」
またも言い合いを始めるテリアとミリィ。
「別にいいじゃないですかぁ? 他に誰もいないんですしぃ。それにユウ様だって一人よりもみんなで入った方が楽しいですよねぇ?」
「うん、そうだねミリィ」
「納得してるんじゃないわよユウ!」
マイペースなユウとミリィ。
そして二人に突っ込み続けるテリア。
「ちょっと頭を冷やした方がいいんじゃないですかぁ? テリっち、ほらぁ!」
――――――――ザバァァアッ!!!
ミリィが魔力で湯船のお湯を操りテリアの頭上から滝のように降らせた。
「ミーリーィー············アンタねえ······」
血管をピクピクさせながらテリアが言う。
「わぁ~、テリっち大胆ですねぇ」
「は? ············え」
ミリィの言葉でテリアが自分の身体を見下ろす。
「!!?」
すぐにその意味に気付いた。
ミリィにお湯を被せられたことによりテリアは巻いていたバスタオルを落としていた。
テリアの裸体が晒されていた。ユウの前で······。
「きゃあああっ!!?」
テリアが顔を真っ赤にして慌てて身体を隠す。
「キャハハッ、べ~っだ!」
さらにテリアを挑発するミリィ。
「ミリィ、あんまりイタズラは駄目だよ」
冷静な口調で注意するユウ。
「ウ、フフ······ミリィ、やっぱりアンタとは一度白黒はっきりつける必要があるみたいね······」
テリアの中の何かがキレたようだ。
身体中から魔力が溢れ出している。
「望む所ですよぉ? 前は不覚をとりましたけど今度はミリィは負けませんよぉ!」
ミリィも魔力を集中させた。
「クラッシュアロー!!」
「グランドスプレッド!!」
テリアは(物質具現化)で弓矢を作りミリィに向けて放った。
ミリィは湯船のお湯を利用して「水」の上級魔法を放った。
―――――――ガガッ!!!
しかし二人の魔法は突如現れた巨大な剣によってかき消された。
ユウの魔法で二人を止めたようだ。
「二人ともケンカはやめなよ。せっかく一緒に旅をするんだから仲良くしようよ?」
「え~、でもユウ様ぁ、今のはテリっちがぁ······」
「ミリィ」
「う~、わかりましたぁ。ユウ様がそう言うんならやめますよぉ」
不満そうな態度だがユウの言葉には従うようだ。
「テリアもやめようよ」
「······わかったわよ。わたしも興奮しすぎたわ」
ユウの言葉でテリアも落ち着いたようだ。
―――――――ドパァアアッ!!!
今のユウ達の魔法の衝撃で浴槽のお湯が勢いよく吹き出した。
「うわぁ~、お風呂がバクハツしましたよぉ!?」
「大変だ!すぐに直そう」
ユウが(物質具現化)スキルを使って壊れた箇所を直していく。
「テリア、ミリィ、魔力をお願い! 媒体を作って元通りにするよ!」
「わかったわユウ!」
「お任せ下さいユウ様ぁ!」
ユウの指示でテリアとミリィが修復した部分に魔力を送る。
三人の息の合った行動で浴槽はあっという間に元通りになった。
「もうお風呂場でケンカしちゃ駄目だよテリア、ミリィ」
「う············わかったわよユウ」
「ごめんなさいですぅ、ユウ様ぁ」
さすがに二人は反省しているようだ。
「でもすぐに直せてよかったよ。二人とも息がピッタリだったね」
ユウが嬉しそうに言う。
「ミリィはユウ様に従っただけですからテリっちは関係ないですよぉ」
「わたしだって別にアンタに合わせた覚えはないわ」
「元通りに直ったのはミリィとユウ様の活躍ですよぉ? テリっちはオマケですねぇ」
「何言ってんのよ、オマケはアンタの方でしょ?」
「むぅー」
「うー」
再び言い合いをしながら睨み合う二人。
この二人はケンカしないと気が済まないらしい。
「昨日は助かったよ。でももう行っちゃうのかい? アンタ達にはまだまだ働いてもらいたかったんだけど」
次の日ユウ達は宿を出て冒険者ギルドに向かうことにした。
宿屋の女主人に名残惜しそうに見送られた。
「お世話になりました」
「とっても楽しかったですよぉ」
テリアとミリィがお礼の言葉を言う。
「お金に困ったならいつでもおいで。アンタ達なら大歓迎だよ」
「うん、また来るよ」
ユウは笑顔で見送りに応えた。
宿を出た後は予定通りユウ達は冒険者ギルドに行き登録を済ませた。
ステータスレンズに触れた時にすごい光を発して驚かれたことを除けば特に問題は起こらなかった。
「これでぼく達は冒険者なんだね」
「他の町でも使えるって便利ですねぇ、このギルドカードってぇ」
ユウとミリィが珍しそうにギルドカードを見ている。
「ジードさんとザッパーさんが親切に色々教えてくれて助かったわね。············初めは絡んでくるのかと思って身構えちゃったけど」
「見た目で判断しちゃ駄目ですよぉ? テリっちぃ」
「アンタも人のこと言えなかったでしょ!」
登録を終えたユウ達にその二人が先輩冒険者として色々アドバイスをしてくれた。
見た目はあまり人相のよくない二人だったが新人相手の面倒見がよく、頼りにされているらしい。
ユウ達は簡単な依頼をいくつか受けて当面の路銀を稼ぐことにした。
それともう一つ、エイダスティアで世話になった恩人であるレイやアイラ達に挨拶に向かう。
レイ達はアルネージュでは有名人のようで少し尋ねるだけで住んでいる場所はすぐにわかった。
彼らが住んでいるという第三地区の屋敷に向かった。
「レイ達なら先日王都とかいう所に行っちゃってるから留守なノヨ。アンタ達レイ達の知り合いなノヨ?」
残念ながら留守らしい。
屋敷にいた妖精がそう教えてくれた。
お礼の伝言をその妖精に頼んで屋敷を後にした。
「入れ違いだったみたいね。ちゃんとお礼を言いたかったんだけど」
テリアが残念そうにするがこればかりは仕方ないだろう。
「それにしても妖精なんて初めて見たよ。外の世界には町に普通にいるんだね」
「そういえば冒険者ギルドの受付の人は獣人でしたねぇ」
この町には人間だけでなく色々な種族が住んでいた。
エイダスティアにはいなかったためユウ達には珍しく見えた。
「あっ、あっちにも建物があるよ。ノギナ工房だって、どんな所だろ? 行ってみようよ!」
「ユウ様に賛成で~す」
「あ、ちょっと待ちなさいよユウ、ミリィ!」
こんな感じに三人の旅は騒がしく始まったのであった。
次回はレイ達の学園生活編になります。




