78 フェルクライト家でのファッションショー
しばらくすると準備が終わったらしくメイアースさんが部屋に戻ってきた。
「うふふ、みんなすごく似合っていたわ。期待してていいわよー?」
どうやら一人ずつお披露目するらしい。
ファッションショーみたいだな。
まずはシノブが部屋に入ってきた。
「う、動きづらいでござるし······恥ずかしいでござるが」
シノブが恥ずかしそうに言う。
全体的に白を強調したドレス姿だ。
シノブは普段は忍者のように闇夜に紛れるような黒い忍び装束のような格好なのでこういう姿は新鮮だ。
貴族の令嬢だと言われても違和感が無い。
「シノブさん、とても似合っていますよ!」
ユーリが少し興奮気味に言う。
確かによく似合っている。
シノブはもともと可愛らしい容姿だし様になっている。
「ああ、ユーリの言う通りよく似合ってるよ、シノブ」
「ありがとうでござる師匠······しかし拙者こういう格好は苦手でござる······」
まあ忍びとしての素早い動きは出来そうにないからな。
それにしても恥ずかしがっている姿がまた可愛らしいな。
ユーリもそんなシノブに見惚れているようだ。
「次はスミレちゃんねー、入ってきていいわよー」
メイアースさんの言葉で今度はスミレが部屋に入ってくる。
スミレはシノブとは対称的に黒を強調したドレス姿だ。
シノブと違い、いつも通りの無表情でまるでお人形みたいだな。
「お人形さんみたいで可愛いですよー、スミレちゃん」
ミウも同じことを思ったようだ。
「······ヒラヒラして変な感じ······」
シノブ同様に着なれていない服装のせいか動きがぎこちない。
けどよく似合っていると思う。
「スミレ、可愛らしくて似合っているよ」
「······ありがとう······ご主人様にそう言ってもらえるなら······うれしい······」
オレの言葉でスミレの表情がほんの少し緩んだ気がする。
それにしてもスミレはあれ以来オレに対するご主人様呼びをやめてくれない。
「ご主人様? スミレちゃんってレイさんの奴隷なんですかー?」
「いや違うよ。さっき言っただろ? スミレは奴隷商人に騙されて奴隷落ちしていたって。その時の癖が抜けてないんだよ」
ミウが聞いてきたのでそう誤魔化した。
スミレの首にもう奴隷の首輪はない。
オレが正義の仮面になっていた時に外したのだが、スミレはそのことに恩義を感じているらしい。
ちなみにスミレは正義の仮面の正体がオレだということを知っているが、そのことは絶対に他言しないように厳命している。
まあそれはそれとして最後はアイラ姉だ。
シノブとスミレは可愛らしかったのでアイラ姉はどんなのを着てくるのか楽しみだ。
「それじゃあ最後はアイラちゃんねー、入ってきていいわよー」
メイアースさんが言うがなかなか入ってこない。
どうしたんだろうか?
「さあさあ、いつまでも恥ずかしがってないで入ってきなさいー?」
「ま、待ってくれメイアース殿、まだ心の準備が······」
「いいからいいからー、早くきなさいー」
メイアースさんに強引に引っ張られるようにアイラ姉が入ってきた。
アイラ姉のドレス姿はシノブやスミレのように可愛らしいとかではなく、所々に宝石を散りばめたきらびやかな衣装で一言で言うと美しいものだった。
一瞬言葉を失ってしまった。
アイラ姉······美人だとは思ってたけどドレスを着ると美しさがさらに際立っている。
ミウとユーリもオレと同じような表情だった。
「ええいっ! 言いたいことがあるならハッキリ言え! 私にこのような衣装は似合わぬと!」
羞恥の表情でアイラ姉が言う。
似合わないなんてことはない。
どこかの国の王女だと言われたら信じてしまうくらい似合っている。
ただそれをどう言葉で表現するべきかわからない。
「いやアイラ姉、すごく似合っているよ。アイラ姉が綺麗過ぎて言葉が出なかったんだよ」
「そ、そうか······? 世辞でも嬉しいぞ」
お世辞じゃないんだけどな······。
アイラ姉、こういう格好は慣れていないから普段の凛々しい感じではなくやけにソワソワしている。
でもこんなアイラ姉も新鮮でいいな。
「母上ただいま帰りました。彼らの謁見は明日の午後に······」
王城に行っていたグレンダさんが戻ってきたようだ。
部屋に入ってきてアイラ姉を見て動きが止まってしまった。
アイラ姉のドレス姿に魅入られているようだ。
「······アイラ殿だったか、失礼した······他国の王女が訪問されているのかと思った······とても似合っているぞ」
「グレンダ殿······世辞は間に合っているぞ」
「いや、本心から美しいと思うぞ。世辞などではない」
グレンダさんのストレートな言葉にさすがのアイラ姉も照れくさそうだ。
「あらあらー? 女に興味がなかったグレンちゃんにもようやく春が来たのねー」
メイアースさんが二人を茶化すように言う。
グレンダさんだからグレンちゃんか······。
「メ、メイアース殿······冗談はそれくらいにしてくれないか···」
「冗談じゃないわよー? グレンちゃんもいい年なのになかなか結婚しないんだもの。お母さん心配だったのよー? アイラちゃんとならお似合いよー」
「貴族の長男がただの平民と結婚はまずいのではないか······? 私は一応平民なのだが」
確かに貴族って恋愛結婚というより政略結婚とかのイメージの方が強いかな。
「そんなことないわよー? 私だって元は平民ですものー」
え? そうなの?
さらりととんでもない発言をするメイアースさん。
「夫のセルとはそれはそれは運命的な出会いをしたのよー。あれは······」
「母上、その話はまたの機会に」
メイアースさんの言葉を強引に切るグレンダさん。
「父との馴れ初めの話になると長いんだ······」
小声でそう教えてくれた。
セルとはセルグリットさんのことか。
興味はあるが口から砂を吐くような話になりそうだ。
「そうだったわねー、後はレイ君の衣装を選ばないとねー。ささ、レイ君こっちにいらっしゃいー」
······そうだった。
オレの分もあるんだったっけ。
メイアースさんに連れられて衣装部屋のような場所に案内される。
さすが貴族というべきなのかすごい数の様々な衣装が並べられている。
「うふふ、レイ君はこっちのドレスがいいかしら?」
「メイアースさん······オレは男なんだけど」
「冗談よー? でもレイ君ならドレス姿も似合いそうねー」
似合いたくない······。
まあドレスは冗談だったとして男物の衣装もかなりの種類があるな。
メイアースさんがいくつか選ぶと数人のメイドさんが着替えさせてくれた。
着替えは自分ですると言ったんだが聞いてくれなかった。
まあ着方のわからないようなやつもいくつかあったんだけど。
まるで着せ替え人形のように色々な衣装を着せられる。かなり恥ずかしいんだけど············アイラ姉やシノブもこんな気持ちだったのかな?
黙っていると延々と着せ替え人形のようにされそうだったので無難な衣装で強引に決定させた。
スーツのようなピシッとした衣装で正直違和感があるが············まあこれでいいだろう。
その後のお披露目ではミウが興奮したように褒め称えてくれたと追記しておく。