76 ユウとテリアとミリィのその後
(テリアside)
ユウは正気に戻り、復活した魔人は倒され町は救われた。
結界の外から来たレイさん、シノブさん、アイラさんのおかげだ。
お父さん達と今後の話をしたりと色々慌ただしかったのでちゃんとお礼を言えなかった。
今度会った時に言おうと思う。
まだまだこの町には問題が残っている。
まずはユウの破壊してしまった結界のこと。
再び結界を張る力はわたし達にはない。
だからこれからは外の世界との交流も考えないとならない。
そのことはお父さんがアイラさん達と話して色々決めていた。
なんでもこの近くにはアルネージュという大きな町があるらしくアイラさん達はその町の領主に顔が利くらしい。
今度交渉の場を設けてくれるとか。
そういう話はお父さん達に任せようと思う。
わたしじゃ大して役に立てないだろうし。
もう一つの問題はユウ自身のこと。
呪石から解放されユウは正気に戻った。
けどユウの処遇の問題が残った。
今回の魔物騒動はユウが引き起こしたことが町の住人に知られてしまっている。
責任を取らせるためにユウを町から追い出そうという意見。
そもそもの原因はユウに対してそういう仕打ちをしていた自分たちにある、という意見。
二つの意見が割れてもめていた。
ユウの味方をしてくれる人がいたのは嬉しかったけど············自分勝手なことを言う人もいてわたしはうんざりしていた。
―――――――バチバチバチッ
「な、なに!?」
ユウの様子を見ようとロードテイン家の屋敷に向かったら黒い煙をあげて炎に包まれていた。
驚いたわたしは大急ぎでユウの元に向かう。
屋敷の前にはユウと夢魔族のミリィが立っていた。
二人は火を消そうともしないでただ見上げているだけだった。
「何やってるのよ!?」
「ああテリア、大丈夫だよ? 周りには燃え移らないようにしてるから」
「そういう問題じゃないわよ! ユウ、アンタまさかまだあの魔人の影響が······」
「ううん、ぼくは正気だよ。って言っても説得力ないかな?」
ユウは慌てた様子を見せずただ笑顔で答えた。
炎は屋敷全体を包み、火が消えた頃には何も残らなかった。
ロードテイン家の敷地にあった禁断の蔵さえも······。
「あははははっ、これですっきりしたよ」
「アンタ······何もかも燃やして何考えてるのよ!?」
「ああ、家の中や蔵に入ってた魔道具はこの収納袋に適当に詰めたからちゃんと無事だよ」
そういう問題じゃない!
ユウは確かに正気に戻った。
けど完全に元に戻ったわけじゃなかった。
あの魔人はユウの精神を乗っ取るために感情を色々といじったらしく以前とは違っている。
気弱な感じはなくなってるけど何か大切な部分までなくしている気がするわ。
「テリア、ぼくはこの町から出ていくよ」
「え······?」
唐突にユウがそんなことを言い出した。
「あんなことをしちゃったからね。もうこの町にはいられないでしょ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよユウ! あれは魔人に操られてたからでユウが悪いわけじゃ······」
「違うよテリア、魔人に操られてたなんてただの言い訳だよ。確かに操られてはいたけど半分くらいはぼくの意識があったんだ。ぼく自身この町が消えてなくなっても構わないって思ってたのも事実なんだよ」
今まで町の人達がしてきたことを思えばユウがそう考えても不思議じゃないけど。
でもだからって············。
「ユウの味方をしてくれる人もいるわ! わたしだってそうよ! だから出ていくことは······」
「ううん、もう決めたからね。だから家を燃やしたんだよ。もうここに未練は残さないように」
······ユウは本気みたい。
今のユウはわたしよりもレベルもステータスも高い。
ユウのレベルは231。
その上お父さん達はユウを鑑定できなくなってたから知らないけどスキルに(勇者の資格)というのが増えていた。
女神様に選ばれた者にしか与えられないスキル。
やっぱりユウは天才の子供だったのね。
今のユウなら外の世界でも生きていけると思う。
······でもユウともう会えなくなるかもしれないなんてわたしは嫌だ。
「テリアと別れたくなかったけど今回のことで決心がついたんだよ」
「······どういう意味よユウ?」
「ぼくが町に残ってもテリアに迷惑かけるだけだよ。今までも、これからも······おじさん達にもずいぶん迷惑かけちゃったし今回のことはぼくが出ていけば解決するよ」
「ふざけないで! 何勝手に一人で決めてるのよ! 迷惑かけたとかってわたしの気持ちも考えないで勝手に解決したふうにしないでよ!」
さすがに黙っていられなかったわ。
勝手にそんなこと考えて······そっちの方が迷惑よ。
「迷惑かけたのならわたしも同じよ! あの魔人が言ってたじゃない! わたしがユウの魔力を、才能を奪ってたって! ユウはそのことは何も思わないの!?」
「確かにその事実は驚いたけど、だからってテリアを恨んだりしないよ。迷惑だったとも思ってない」
「だったらわたしも同じよ! 今までだってユウが迷惑だなんて思ったことはないわ!」
「テリア······」
わたしの言葉にユウは困ったような声を出す。
でもここで引く気はないわ。
「ユウが出ていくのならわたしも出ていくわ! それならいいでしょ!?」
「テリアを巻き込めないよ。それにテリアは退魔士としてこの町を守る仕事があるでしょ?」
退魔士としての仕事······そんなのどうでもいいわよ。
ユウとこのまま別れるくらいなら······。
「大丈夫ですよぉ? ユウ様はミリィが守りますからねぇ。テリっちは安心してこの町を守ってて下さいねぇ」
わたしとユウに割り込むようにミリィが口を挟んだ。
「そもそもアンタはなんでまだいるのよ? さっさと精神世界とやらに帰りなさいよ!」
「いやですよぉ、ミリィのマスターはユウ様なんですからぁ、最後までユウ様にお仕えしますよぉ?」
············やっぱりあの時トドメを刺しておくべきだったかしら?
大体こいつのマスターはあの魔人じゃなかったの?
「テリア、今までありがとう。今度いつ会えるかわからないけど元気でね」
「べーーーーっだ!」
ユウが別れの言葉を告げた。
その後ろでミリィが思い切りあかんべーをしていた。
······結局ユウが出ていくのを止められなかった。
でもここでユウと別れたらもう二度と会えない予感がした。
「············よし!!」
わたしの中で決心がついたわ。
わたしはすぐに自分の家に向かった。
「お父さん、お母さん! 話があるの!」
――――――――(side off)―――――――――
「ミリィはぼくについてきてよかったの? 召喚したのはぼくだけど特別な契約とかで縛ってないし、ミリィは自由にしていいんだよ?」
「言ったじゃないですかぁユウ様。ミリィは最後までユウ様にお仕えしますってぇ。ミリィがユウ様と一緒にいたいからついていくんですよぉ」
ユウとミリィが町の出口付近で話していた。
「ユウ様こそよかったんですかぁ? テリっちのこと、ずいぶん未練があるように見えますけどぉ?」
「············やっぱりそう見えるかな? でも今までのぼくはテリアに頼ってばかりで依存し過ぎてたからね。これからはぼくも成長していかないと」
「だったらユウの成長していく所、わたしが見届けさせてもらうわよ」
二人の間に割り込むようにテリアが現れた。
「テリア······? どうしたの、ていうかその荷物は?」
ユウが驚き言う。
テリアは旅支度万全の格好だった。
「外の世界の旅、わたしも付き合うわ」
テリアがビシッと宣言した。
「ユウを追い出すのならわたしも出ていくってお父さん達や他の人達にも宣言してきたわ。というわけでわたしも一緒に行くわよ?」
「でもテリアがいないと退魔士として町を守る人がいないんじゃ?」
テリアの両親だけでは正直力不足だとユウは思ったようだ。
「そのことなら心配いらないわ。お父さん達がアルネージュの領主様と相談するみたいだから。これからは外の世界と交流を持つんだから今までとは違うのよ」
テリアが言う。
それに対してミリィが黙っていなかった。
「えーーーっ、いやですよぉ! せっかくユウ様と二人きりの旅ができると思ってたのにぃ! お邪魔虫は来るな、ですぅ!」
「誰がお邪魔虫よ! アンタこそついて来なくていいわよ? ユウはわたしが守るからアンタは必要ないわ」
「ぜぇーーったいいやですぅ! テリっちが来なくていいですよぉ!」
「何よ、やる気?」
「そっちこそぉ? 今度こそ殺してあげますよぉ?」
「二人ともケンカはやめなよ」
言い合う二人をユウが笑いながら止める。
二人の力を考えたら笑いごとではないのだが、ユウには微笑ましく見えるらしい。
「そういうことならよろしくテリア! テリアも来てくれるなら本当にすごくうれしいよ!」
喜びのあまりユウがテリアに抱きついた。
魔人に感情を掻き乱されたことでユウはずいぶん積極的になったようだ。
テリアはそんなユウを振り払えず顔を赤くした。
「······うん、わたしの方こそよろしくねユウ」
「ちょっとぉ! ミリィを置いて二人の世界を作らないで下さいぃ! ミリィだっているんですからねぇ!?」
「うん、ミリィも改めてよろしくね」
こうしてユウ、テリア、ミリィの三人はエイダスティアを出て旅立つことになった。
その後三人は旅先で様々な活躍をすることになるのだが······。
·········それはまた別の話。
この三人のその後の話は本編の合間にたまに入れる予定です。