72 古の悪魔の復活
(テリアside)
「小娘、これでも俺はお前に感謝しているのだぞ? お前のおかげで復活が早まったのだからな!」
「············どういうことよ?」
復活が早まった?
わたしが何をしたって言うのよ?
「覚えていないのか? 10年程前に勇者の封印の一部を解いたことを」
何を言っているのよ?
10年前なんてわたしはまだ5才くらいじゃない。その頃はまだ魔法の力もユウとそんなに変わらなかったはずよ。
············でも確かユウと探険と称して禁断の蔵に入った記憶があるわ。
その時わたし······何かした?
いえ、そんなことよりも今は············。
「そんなことはいいわ! それよりも今すぐにユウの身体から出ていきなさい!」
わたしは弓矢を構える。
けどユウの身体である以上迂闊に攻撃できない。
「くくくっ、まあ良いわ。もう準備は整った! さあ発動せよ!」
足元の魔法陣が光輝く。
魔力吸収陣が発動しちゃう!?
やらせるわけにはいかないわ。
わたしは弓矢を放ったけど悪魔の魔法で弾かれた。
魔法陣が発動した。
魔法陣は町全体に広がっている。
町中の人達の魔力がユウの身体に集まっていってる。わたしの魔力も少し吸われたわ。
規模が大きいせいか一人一人吸収する魔力は少ないみたいね。
けど何万もの人達の魔力となると膨大すぎるわ。
「くくくっ············ふはははっ!!!」
ユウの胸元の呪石が激しく振動し、砕け散った。
砕けた呪石の残骸から悪魔本体が姿を現した。
大柄なシルエットだけど人に近い姿をしている。
魔人とかいう種族だったかしら。
「魔王様っ!! このバリュトアーク、ただいま完全復活致しましたぞ! ふはははっ!!!」
バリュトアークってのがこの魔人の名前なのかしら?
いえ、そんなことはどうでもいいわ。
それよりもユウを············。
「小娘よ、もはや俺にこれは必要ない。望み通り小僧の身体は返してやるぞ! 亡骸で良ければな! ふはははっ!!」
魔人がユウの身体を掴み、わたしに向けて投げつけてきた。
「ユウ!? しっかりして!! ユウ!!」
ユウの身体を揺さぶったり声をかけてもまったく反応がない。
ウソよね······?
ユウから心臓の鼓動が聞こえないんだけど······。
「ふはははっ! 無駄だ、もはや魔力も生命力も吸い尽くした。小僧の命はとうに尽きている」
魔人が笑いながら言う。
ユウの命は尽きてる?
ユウが············死んだ?
そんなの············。
「ユウ!! ウソでしょ!? お願いだから目を覚まして!?」
何をしてもユウから何の反応もなかった。
わたしのせい······?
わたしのせいでユウは死んだの?
呪石の力に頼らなければならないくらいユウを追い詰めさせなければ············。
「くくくっ、実に心地良い後悔と嘆きの感情だ」
「······許せない······アンタだけは絶対に!!」
わたしは弓矢を魔人に向けて放った。
魔人は素手で簡単に矢を掴んだ。
わたしは間髪入れずに攻撃を加える。
「小娘ごときが完全復活した俺を倒せると思っているのか?」
「うるさいわ! ユウの仇······絶対にとってやるわよ!」
こいつの身体からはすごい魔力が溢れてる。
町中の人達の魔力を吸収したからね······。
でもそんなの関係ないわ!
「くらいなさいっ! フレアサークル!!」
わたしは「炎」の魔法で魔人を攻撃した。
魔人の周囲が炎で取り囲まれる。
けど魔人はまったく怯んだ様子はない。
「魔法とはこう使うのだ小娘、アクアブレス!」
魔人が「水」の魔法で炎を消した。
あれだけの炎を簡単に······けどそんなの予想通りよ!
「ギガントシュート!!」
魔人の隙を突いてわたしは矢を放った。
普通のより大きく強力な矢だったけど魔人は簡単に受け止めた。
わたしはさらに追い打ちをかけようと動いたけど、それよりも早く魔人が迫ってきていた。
「うっ······あ!?」
魔人の腕がわたしの首を締め上げる。
なんて力なの······まるで動けない。
「くくくっ、どうした小娘? もう終わりか?」
「うっ············ぐ、誰がっ!!」
こいつ······その気になればわたしの首をねじ切る力はあるくせにわざと手加減してるわね······!
「そもそもお前のその魔力は俺が与えたようなものなのだぞ? そんなお前が俺に敵うはずないだろう」
「ど············どういうことよ?」
わたしの魔力はこいつに与えられた?
意味がわからないわよ。
なんでそんなことに············。
さっきわたしが封印を解いたとかの話と関係あるの?
「ならば思い出させてやろう。自分の記憶を呼び覚ますがいい」
「う、あああっ!?」
魔人がわたしの頭に魔力を送り込んできた。
わたしの頭に様々な記憶が流れる。
······10年前?
わたしはユウと禁断の蔵に入った······。
その時不用意にいくつかの魔道具に触って作動させて······。
「くくくっ、そうだ。その時お前は勇者の封印の一部を破ったのだ。そして俺はお前に力の一部を与えた」
確かあの時はすぐにユウの両親とお父さん達が駆けつけて大事には至らなかったはず············だったけどそんなことになっていたの?
「俺が与えた力は(魔力吸収)だ。お前は無意識に他者の魔力を吸収し自分のものに出来る力を手に入れていたのだ」
「ウソよ······わたしに······そんなスキルはないわ······」
わたしのスキル欄にそんなものはないわ。
「それはそうだろう、鑑定されてもわからぬように擬装しておいたからな。だが今のお前にはもうないぞ? すでに返してもらったからな」
魔人が言う。
本当にわたしにそんな力があったの?
わたしがお父さん達に比べてレベルが高いのはもしかしてその力のせいだったの?
······いえ、やっぱりウソよ!
魔力を吸収されてお父さん達が気付かないはずないもの。
「くくくっ、信じられないという顔だな?」
「当たり前よ······魔力を吸収されて誰も気付かないなんてことあるわけ······」
「まあお前が魔力を吸収し続けた対象は一人だけだからな」
一人だけ? 言っている意味がわからないわ。
「まだわからないのか? 天才の子供と呼ばれながらろくに魔法を使えない人間がいなかったか?」
魔人がチラリとユウの方に目を向けた。
まさか············。
「くくくっ、そうだ! お前はこの10年間小僧の魔力を吸収し続けていたのだ! お前の力の大半は本来は小僧が持つはずだったものだ! お前が小僧の魔力を、才能を奪っていたのだ」
ユウがろくに魔法を使えないのはわたしのせいだったの?
つまりわたしのせいでユウは······。
「小娘、お前は実に役に立ったぞ! お前が吸収した小僧の魔力は俺にも流れ込み復活を早めてくれた! それだけではなく町の人間共の小僧に対する悪意の感情、小僧の嘆きと絶望も実に美味であったわ! 挙げ句の果てに最後には小僧自ら俺を解放したのだからな」
魔人が得意気に笑った。
わたしは······わたし達はこいつの手の平の上で踊っていたようなものだったの?
「さて、最後にお前の魔力もすべてもらってやろう。長い間分不相応な力を振るえてさぞ楽しめただろう?」
「うっ············うああ!?」
「あの世で小僧と再会するがいい。ふはははっ!!」
魔人にわたしの魔力を吸われている!?
今のわたしには抵抗する力はない············。
―――――――――ドッ!!!
「ぬおっ!?」
突然魔人がバランスを崩した。
わたしは素早く魔人の手から逃れた。
「話が違うんじゃないかな? バリュトアーク······この町を、世界を破壊するのは勝手だけどテリアだけには手を出さないって約束だったはずだろ?」
「ユウ!!?」
ユウが立ち上がっていた。
ユウ生きていたのね!
よかった······本当に。
「小僧!? バカな、魔力も生命力も吸い尽くしたはず······」
「利用していたのはお前だけじゃなかったってことさ」
ユウが魔力を解放する。
ユウから魔人に匹敵する魔力が溢れている。
「ユウ!!」
「ごめんねテリア、ずいぶん心配させたみたいで」
「いいわよそんなこと! 無事で······本当によかった」
思わず涙が溢れてきたわ······。
でも今は喜んでいる場合じゃないわね。
あいつを············あの魔人を倒さないと!
「くくくっ、ならば良い! 二人仲良くあの世に逝くがいい!」
「やれるものならやってみなよ!」
「やれるものならやってみなさいよ!」
ユウと一緒ならこんな奴怖くはないわ!