69 テリアVSミリィ
町の中を飛び回るミリィを追うのは思ってたよりも大変だ。
探知魔法で見失うことはないが動きが早い。
マリアさんにはあの場の後始末を任せてオレとシノブとテリアでミリィを追っていた。
「············っ、どこに行ったのかしら······」
やはりというかテリアは探知魔法は使えないようだ。
ミリィの姿を見失い焦っていた。
「大丈夫、こっちの方にいるはずだ」
「なんでわかるんですか······?」
オレの言葉にテリアが不思議そうに聞いてくるが今は答えてる暇はない。
「テリアちゃん、何があったんだ!?」
「また魔物が出たと聞いたんだが······」
閉め切っていた家々から町の住人が出てきた。
ぞろぞろとテリアを囲むような形になる。
しかし鑑定魔法で町の人達のステータスを見たがみんな魔力がやけに低いな。
レベルが低いというのもあるがアルネージュの一般人と比べても魔力が半分もない。
「心配しなくても大丈夫ですよ、もうほとんど退治しましたから。でもまだ念のため家の中に居てください」
テリアが町の人達を不安にさせないように説明する。
こういうことに慣れてるのかな。
―――――――シュッ
「······えっ!?」
いきなり住人の一人がナイフを取り出しテリアに切りかかった。
テリアはとっさに避けるが服を少し切られてしまう。
「な、なにをするんですか!?」
テリアが声をあげる。
今ナイフを取り出した奴だけじゃなくなんだか全員様子がおかしいぞ。
「テリアちゃんじゃミリィ様には勝てない······」
「あなたじゃ我々を守れない」
「ミリィ様が手を下すまでもない······我々の手で始末する」
町の住人達がそれぞれ武器を構えだした。
ナイフ、包丁、鎌、鉄の棒など様々だ。
全員明らかに正気じゃない目付きをしている。
「まさか······操られてるの!?」
テリアが(物質具現化)で弓矢を作り出し構えるが町人達は怯む様子もない。
操られてるだけの人達を攻撃するわけにもいかずテリアも戸惑っている。
「キャハハッ!! どーですかぁ? 絶体絶命ってやつですよねぇ」
上を見上げるとミリィがいた。
オレ達を見下ろす位置でフワフワと飛んでいた。
「やっぱりこれはアンタの仕業なのね!?」
「そーですよぉ! 夢魔族の能力でーす。ミリィは生物の精神を支配して操ることが出来るんですよぉ。さすがに短い時間でこれだけの人数は大変でしたけどねぇ」
ミリィが得意気に言う。
(吸血)
生物の血を吸い魔力と体力を吸収する。
一度血を吸った生物は精神を操り自在に動かすことができる。
多分このスキルの力か。厄介なスキルだな。
魔力と体力を吸い取るとあるけど吸われ過ぎなければ命の危険はないみたいだが。
「やることが姑息でござるよ!」
シノブが言うがミリィはどこ吹く風だ。
一般人を人質にするかと思ってたが、まさか操ってくるとはな。
「知りませーん、勝てばいいんですよぉ、勝てばぁ。キャハハッ」
「アンタ······本当性格悪いわね」
「ミリィのこと言えるんですかぁ? 性格悪いのはこの人間達じゃないんですかねぇ? 今までユウ様にひどいことしてきたこの人間達がぁ。それを知ってて何もしなかったテリっちも相当性格悪いんじゃないんですかぁ?」
ミリィの言葉でテリアが苦い表情になる。
本当にテリアはユウを庇う気はなかったのか?
だがそれならこんなに必死になるとは思えない。
そのことは気にかかるが今はそれを気にしている場合じゃないか。
「どーしたんですかぁ? さっきの魔物に比べたらこんな人間達大したことないはずですよぉ? 蹴散らしちゃえばいいじゃないですかぁ」
確かに町の住人のレベルはせいぜい10~20で操られてるからといって脅威とは言えない。
だが下手に攻撃すると大怪我させかねないのでテリアは動けないんだ。
······最悪「聖」属性の回復魔法か特級ポーションで治すこともできるがやはり傷つけない方法で乗り切った方がいいよな。
だったら足止めにピッタリの味方がいる。
「召喚! グラム、および眷属達!」
オレはダンジョンコアを取り出してグラム達ゴーレム集団を召喚した。
グラムを筆頭にマッドゴーレム、ロックゴーレム、アイアンゴーレム、ミスリルゴーレムなど出来る限り出した。
数十体のゴーレムが立ち並ぶ。
「な、なんなの!? 新手の魔物!?」
「違う、このゴーレム達は味方だよ」
ゴーレム集団を見てテリアが慌てたように言う。
まあ魔物の一種ではあるからな。
驚くのも無理はない。
「マスター、御命令を」
「周囲の人達をなるべく怪我をさせないように無力化してくれ。絶対殺しちゃ駄目だぞ」
「了解、命令を実行」
オレの命令でグラム達ゴーレム集団が周囲の人達を押さえつけて動けないようにする。
ゴーレム達はレベル30~80くらいある。
殺さずに無力化するのは簡単だろう。
操られた町の住人達はゴーレムの拘束からまったく抜け出せないでいた。
それを見ていたミリィは目を見開いて驚いていた。
「守護者を使役してるですかぁ!? あなた一体何者············」
「スキありよ!!」
その隙を突いてテリアが魔力の矢を複数放った。
いくつかがミリィに突き刺さる。
「うぐ······痛いですねぇ!」
「ボーっとしてるのが悪いのよ!」
ミリィが矢を無理矢理抜きテリアに反撃する。
ミリィの傷口からは血が流れ落ちる。
人間じゃなくても血は赤いんだな。
だがその傷はすぐにふさがっていった。
「だったらあなたから殺してやるですぅ!!」
「やれるものならやってみなさいよ!」
ミリィとテリアの魔法が激しくぶつかり合う。
二人とも魔力が高いからどっちの魔法もとんでもない威力だ。
お互いマジで殺す気だな······。
オレとシノブは周囲の人達が巻き込まれないようにしながら二人の戦いを見守った。
「ギガントシュート!!」
「あがっ!? ············はっ······」
テリアの魔法の矢がミリィの胸を貫いた。
ミリィは力なく倒れた。
決着が着いたようだ。
「かろうじて急所は外したから死にはしないはずよ」
もしかしてあれで手加減してたのか?
だがミリィはもう動けそうにはないな。
ダメージが大きいためか治る様子もない。
「なん······で、ミリィを······殺さないですかぁ······? ま、殺した所で······肉体を失って······精神世界に帰るだけ······ですけどぉ······」
息も絶え絶えでミリィが言う。
「······アンタがユウの味方だからよ。アイツに味方してくれる奴を殺したくはないわ······」
「あなたが············それを言う······ですかぁ?」
やっぱりテリアはユウのことを本気で想ってるみたいだな。
ミリィは納得いかないような態度だが。
「テリっちはユウ様を······救えるですかぁ? ······今まで本気で救おうと······しなかったくせにぃ?」
「············ええ、そうね······ユウがこんなことになったのもわたしの責任よ。だからちゃんとケジメはつけるわ」
「··················」
テリアの言葉に何か考え込むような様子のミリィ。
「······ユウ様は町の中心地にいますよぉ。······そろそろ儀式が終わる頃のはずですぅ············」
中心地というと最初にユウとテリアが戦っていたあの中央広場のことか。
しかし儀式ってなんだ?
「ユウ様を······救えるなら······救ってくださいよぉ? ミリィだって······初めてのマスターさんには生きていてほしいんですからぁ······」
そう言うとミリィは力尽きて意識を失った。
死んではいないな······よかった。
いくら敵でも少女の死ぬところなんて見たくないからな。
それにしてもただの主従関係かと思ってたんだけどミリィも本気でユウを慕ってるのかな?
「レイさん、シノブさん、ここまでありがとうございます。ここから先はわたしとユウの問題ですから······わたし自身の手で解決します!」
テリアはそう言うとすぐに町の中央広場に向かっていってしまった。
無事に解決出来ればいいんだが············。