67 夢魔族の少女
アイラ姉の言葉に堪えられずテリアは屋敷を飛び出してしまった。
心配だったのでオレとシノブはテリアの後を追った。ルーディルさんとの今後の話はアイラ姉に任せることにしよう。
「ユウ······アンタがそこまで追い詰められてたなんて······」
テリアは思い詰めた表情で嘆いていた。
「大丈夫でござるか? テリア殿······」
「············っ、あなた達は······シノブさんとレイさんでしたよね。わたしに何か用ですか······?」
「いや、キミが心配だったから追いかけたんだけど······アイラ姉は回りくどい言い方はしないからそれで傷ついたんじゃないかと思って」
オレとシノブはさっきのアイラ姉の言葉をフォローした。
「ううん······あのアイラさんって人の言う通りよ。ユウがこの町を滅ぼしてもそれはわたし達の自業自得だわ······」
「テリア殿とユウ殿はどういう関係なのでござるか?」
シノブがテリアに問う。
「ユウとは幼なじみよ。同じ退魔の力を持つ血筋ってことでロードテイン家とは付き合いがあったから············外の世界ではどうかは知らないけど、この町では魔力を扱えるってのは特別な存在なのよ」
幼なじみか。
まあ年も近そうだったしそんな感じだろうな。
テリアが話を続ける。
「そんな特別な存在だから同年代の人がわたしと話す時は一歩引いた感じになってたの············対等に、同じ目線で話せたのはユウだけだったわ」
「ではユウ殿もみなさんから特別視されてたでござるか?」
「ううん······ユウは魔力は扱えたけど期待されてた程強くはなかったの。性格も気弱な感じで······だからみんなから魔法が使えるくせに······とか罵倒やいじめを受けていたわ。······同年代だけじゃなく大人達からもね」
それだけ聞くとひどい話だな。
「わたしも何度もみんなを止めてユウを庇ったりしていたけど······みんなのユウに対する態度は変わることはなかった······ユウの両親が亡くなってからはそれがさらにひどくなっていって······なんとかしたいとは思っていたんだけど」
テリアが口をつむぐ。
もっと自分にやれることがあったのではと後悔しているのが見てとれた。
「じゃあまずはあのユウって少年を呪石から解放して元に戻そう」
「え?」
「まだ手遅れじゃないはずだ。ユウを元に戻すのも、そして説得するのも」
町の人達との関係は部外者のオレ達にどうこうできる問題じゃないが呪石から解放するくらいなら手伝える。
ここまで関わった以上それくらいはするつもりだ。
「でも······いいんですか? 関係ないあなた達を巻き込むことになって······」
「構わないでござるよ。一緒にユウ殿を救おうでござる!」
シノブも賛成してくれた。
問題はどうやって呪石から解放するかだな。
外せば元通り、とかならいいんだけど。
―――――――――(side off)――――――――
「ゴフッ······はあはあ······」
その頃少年ユウは再び町の中央広場に戻ってきていた。口から血を吐き、かなり苦しそうである。
「······思ってたよりひどいな······もうあんまり時間がないのかもしれない」
口元の血を拭いユウが笑みをうかべる。
「でもここからが本番だ。テリア······早く何とかしないと少なくともこの町は確実に消えることになるよ······」
ユウの足下から魔法陣らしき紋様が描かれていく。それはゆっくりと町全体に広がっていった。
「さあ精神世界の住人よ! ぼくの魔力を媒体にこの世界に具現化せよ! そして共に世界を破壊し尽くそう!」
ユウがそう言って両手に魔力を込めると空間が歪み何かを形作っていった。
それはだんだん人のシルエットになっていく。
―――――――バチバチバチッ
現れたのはショートヘアーの蝙蝠のような翼を生やした小悪魔風の少女だった。
人間とは違い耳が尖った形をしている。
「······あれ? 強力な悪魔が来るかと思ってたんだけど。かなり魔力を注いだはずだし」
ユウにとって意外な展開だったらしい。
「あなたがミリィのマスターさんですねぇ? 初めての具現化なのでよろしくですぅ!」
小悪魔風の少女が口を開く。
「あははは、自己紹介からしようか? ぼくはユウ、キミはミリィっていうのかな?」
「そうですぅ! 夢魔族のミリィでーす。こう見えてミリィ結構強いんですよぉ?」
ユウの言葉に小悪魔風の少女ミリィが明るく答える。かなり活発な性格のようだ。
「そうなの? 可愛らしい姿だから正直想像できないよ」
「可愛らしいなんて言われると照れちゃいますよぉ」
「あはははっ、まあそれはそれとしてミリィにはやってもらいたいことがあるんだけど」
「あ、その前にちょっといいですかぁ?」
そう言うとミリィはユウにキスをした。
いきなりのことにユウも反応できないでいた。
「ん······むん······なるほどぉ、そういうことですかぁ。この町の人間はユウ様に対してずいぶんひどいことしてきたんですねぇ?」
「············もしかしてぼくの記憶を読んだの?」
口を離すとミリィはユウの事情をあらかた理解していた。
「そうですよぉ、ミリィは夢魔族ですからキスした相手の記憶が読めるんですぅ! ユウ様の気持ちもやろうとしていることも理解しましたよぉ。
つまりミリィは時間稼ぎすればいいんですねぇ?」
「話が早くて助かるけど······キスするのなら一言言ってほしかったよ」
「ふふっ、ユウ様の唇、とっても美味しかったですよぉ」
ミリィの行動にユウも困り顔だった。
「じゃあぼくは儀式の準備を始めるからよろしくね。ミリィ一人じゃ大変だろうから何体か魔物も出すから自由に使っていいよ」
ユウは魔物を召喚した。
それなりに強力な魔物がユウの前に並ぶ。
「ユウ様の邪魔をさせなければいいんですねぇ? 邪魔してくる奴はみんな殺しちゃってもいいんですかぁ?」
ミリィが意味深な笑みをうかべる。
それに対してユウも笑顔で答えた。
「ああ、ミリィの好きに暴れちゃっていいよ」




